今月の音遊人
今月の音遊人:松居慶子さん「音楽は生きとし生けるものにとって栄養のようなもの」
6079views
現代音楽と落語、端唄による新しい音楽の世界「淡座二夜 江戸の音と言葉のあわい」/桑原ゆうインタビュー
この記事は4分で読めます
1845views
2023.11.8
作曲家として活動の場を広げる桑原ゆうが在籍するクリエイショングループ「淡座」の本公演が決定した。2日間にわたって織りなされる、現代音楽と落語、端唄による新しい音楽の世界について話を聞いた。
現代音楽のフィールドを中心に活動している作曲家・桑原ゆう。2021年に『17人の奏者による2群のアンサンブルのための《タイム・アビス》』で第31回芥川也寸志サントリー作曲賞を受賞し、イギリスの音楽レビューサイトBachtrackでは「2023年注目の女性作曲家8人」に選出された。
こうした個人活動の一方で、淡座のメンバーとしての活動にも意欲的だ。淡座は、作曲・編曲を務める桑原と、バイオリンの三瀬俊吾、チェロの竹本聖子、三味線の本條秀慈郎の4人からなり、結成は2010年のこと。
「面識のあった4人が20代後半に差しかかったころで、それぞれが次のステップへ動き出さなければ、新しいものを開拓しなければと考えていた時期でした」と、当時を振り返る。桑原自身も、日本の音と言葉の関係性を源流から追求し、新たな創作につながるグループを組みたいという思いを抱いていた。そのきっかけは、大学院生時代に出会った能だった。
「ずっと作曲を学んでいましたが、それはすべて西洋音楽の文法・作法でした。そんなとき、あるプロジェクトで謡をふくむ作品を作曲することになったんです」
謡とは能に用いられる日本古来の声楽で、いわゆる台詞や歌、登場人物の心象や風景描写を表現するもの。舞や囃子と共に能を成り立たせる要素のひとつで、独特の節回しで謡われる。
「衝撃を受けました。このとき、私がやりたいのは言葉や音をエネルギーそのものとしてあつかうことだ、それを能のなかに見つけた!と焦点が合ったんです。そこから、文化の古今と東西、洋と和をつないで組み合わせた“いまの日本人としての新しい音楽表現”を創造することが自分の使命と考えるようになり、淡座を立ち上げました」
こうして誕生した淡座の第六回本公演となる「淡座二夜 江戸の音と言葉のあわい」が、2023年12月26日(火)、27日(水)に東京の深川江戸資料館小劇場で開催される。第一夜は落語家の古今亭志ん輔出演の『音曲夢見噺』、第二夜は三味線演奏家の本條秀太郎を招いての『忠臣蔵端唄尽』が、それぞれ予定されている。
「淡座の公演では、落語も端唄も作品を構成するアンサンブルの一部です。落語や端唄のBGMや伴奏をつけるのでなく、言葉と音楽が相互に働きかけるような関係性を目指しています。志ん輔師匠も本條先生も、そういった意図を汲み取りながら、淡座ならではの表現を実現するための様々な助言をくださいます。」
楽譜はかなり緻密に仕上げるため、「演奏家にはプレッシャーかも」と笑う。
「この言葉にはこの音を!というくらい細かく指定しますが、ときどき、志ん輔師匠が言い回しや話の順序を微妙に変えるので、演奏のみんなが動揺したり(笑)。でも、それが生で演じるおもしろさでもあるんですよね」
今回は第一夜の『死神』、第二夜の『継ぎ接ぎ忠臣蔵 第二部』が新作初演となる。
「落語や端唄という完成しているものを再構成して新しい作品とするので、本来の魅力を邪魔することなく新しい表現でお見せしたい。『死神』は幻想的なサゲの部分をどのように音楽で表現するか。私自身も楽しみです。『継ぎ接ぎ忠臣蔵 第二部』は、もともと本條先生が演じられていた『高速度忠臣蔵』(『仮名手本忠臣蔵』を一時間程度にまとめた演目)を淡座でやるのもおもしろいんじゃない?と先生ご自身が提案してくださったのが発端です」
聞けば、2日間連続公演は今回が初めてとのこと。緊張感を維持しつつも、演目のよりよい見せ方・聴かせ方をメンバー同士で練り上げ、磨いていく。
「先人たちが作り上げてきたものを学びながら昇華して、現代に還元する。淡座として一番大切にしている部分をお見せする機会でもあります。伝統芸能の言葉と現代音楽がどう反応するかを、ぜひ生で体感してください」
作曲家としてのキャリアを積む桑原だが、物心がついたころから“曲を作る”ことが大好きだったという。
「3歳からヤマハ音楽教室に通い始めました。グループレッスンからスタートし、後にエレクトーンのレッスンを受けるようになると、伴奏付けや変奏など、自分で工夫することが楽しくなったんです」
初めての作曲『きりんのおさんぽ』を完成させたのは小学1年生のとき。
「楽譜2ページくらいの短いワルツ曲ですが、伴奏パートも自分で楽譜にした記憶があります。先生に見せると、驚きつつもすごく褒めてくれたことが嬉しくて。このころから、演奏がうまくなるより曲を作りたいという気持ちのほうが強かったですね。楽譜を書くことやレジストデータ(エレクトーンで楽曲演奏するための音色やリズムなどを設定したデータ)作りに熱中していた子ども時代でした」
この経験は、現在の作曲家としての在り方にも影響を与えているそうだ。
「エレクトーンを学んだ経験があるからこそ、最初からオーケストラの耳で音楽を構想できたり、すべての音や楽器が揃った音響の全体像を想定して楽譜を書いたりできるのが強みですね。楽器を弾かなくても、頭の中で音を組み立てられるので、作曲するときはカフェでも移動中の飛行機の中でも、紙とペンかパソコンがあれば作業できるんです」
幼いころから作曲に親しみ、「楽譜を作るのが私の仕事」と言い切る桑原には新たな目標がある。
「日本語のオペラを書きたいんです。西洋楽器だけでなく、邦楽器や邦楽の歌唱も含めた“日本のオペラ”ですね。その日まで、今やるべきことを追求し続けます」
第一夜『音曲夢見噺』 特別出演:古今亭志ん輔(落語家)
日時:2023年12月26日(火)19:00開演(18:30開場)
第二夜『忠臣蔵端唄尽』 特別出演:本條秀太郎(三味線演奏家)
日時:2023年12月27日(水)19:00開演(18:30開場)
会場:深川江戸資料館小劇場(東京都江東区)
料金(税込):各回一般5,000円、学生3,000円、二夜セット9,000円
詳細はこちら
桑原ゆうオフィシャルサイトはこちら
文/ 髙内優
photo/ 宮地たか子
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ヤマハ音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!