今月の音遊人
今月の音遊人:ジェイク・シマブクロさん「音のかけらを組み合わせてどんな音楽を生み出せるのか、冒険して探っていくのは楽しい」
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なにしろ、生まれつきひどく不器用だ。
何かを買うと、その日に壊してしまうなど日常茶飯事だ。例のスマートフォンを購入して開封した瞬間に地面に落としてしまう、ということがあるとニュースで見たが、まさしくあれと同じことが、ほとんどすべての購入品で起こる。
特に家電が苦手だ。最近のカメラや電子辞書は初期設定をしなければいけない。その初期設定で、だいたい失敗してしまうのだ。まあ、最近はカメラも辞書もスマートフォンにあらかじめインストールされているもので充分なのだが。
それにしてもスマートフォンの初期設定もわずらわしいものだ。というようなワタクシなので、新しく買った楽器にもしものことがあったら大変だ。
かつてそれなりのリコーダーを購入した際、コルクにコルクグリスを塗らなければならないことを知らず、コルクが剥げてしまい、新品のリコーダーがあっというまに傷物になってしまった。
そんな痛い経験があるので、サクソフォンをはじめようとしたとき、慎重にならざるをえなかった。
実は、「ヤマハ大人の音楽レッスン」でサクソフォンをはじめようと思ったときに、楽器も購入したのだった。これは、高価な楽器を買ってしまったのだから辞められない、という自分自身の退路を絶つためでもあった。
僕は、なんと新品のサクソフォンの梱包も解く前に、友人であるプロのサクソフォン奏者を呼び出し、まずは組み立て方から教えてもらうことにしたのだった。
日本のポール・デズモンドとも呼ばれるMさんは、親切にも素人同然の僕に嫌な顔もしないで手取り足取り、懇切丁寧にサクソフォンの組み立て方、掃除の仕方、しまい方を教えてくれた。
ケースから出すときはガバッとしっかり握る。ネックを本体に差し込むときに無理をしてはいけない。もちろんコルクにはたっぷりとグリスを塗布する。ストラップのフックの方向は一度決めたら逆にしない。不慮の落下事故予防のためだ。
使用後の清掃に際し、左手に持ったスワブを右手で、おもむろに二度三度としごいて形を整えるところなど、その水際立った所作は、さながら抹茶のお手前を見るようだった。これはスワブが管の中で詰まる事故を防ぐためだ。
こうして楽器の初期設定(?)を教えてもらう講習会のようなものは無事に済み、最初の難関をこえた思いだった。
サクソフォンをはじめようかと思い立つと同時に楽器を注文してしまった。ということがあってから、もう10年の月日がたちます。あれこれあり、現在愛用しているのはアンラッカーの特注モデル。「猫に小判」だとか、「楽器が泣いている」などという人もいるようですが、猫でも、泣かれても結構、ワタクシはすっかり気に入っています。
作家。映画評論家。1950年生まれ。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野へ。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『ぼくの父はこうして死んだ』『江分利満家の崩壊』などがある。
文/ 山口正介
tagged: 大人の音楽レッスン, サクソフォン, ヤマハ, 山口正介, レッスン, パイドパイパー・ダイアリー
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