「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

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山口正介さん
パイドパイパー・ダイアリー最終回
「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

親しくお付き合いしていただいている友人にプロのアルトサクソフォン奏者がいる。あるとき、共通の友人の結婚披露宴があり、彼らのトリオがバックグランド・ミュージック風に会場で生演奏をすることになった。スピーチの合間、合間に演奏し、その後の会食の時間中、ずっと演奏していた。
その時間は3時間余りになっただろうか。色々な楽曲を安定した音色で軽々と演奏していく。

僕は疲れないのだろうか、と思った。また、気がついてみればサクソフォンの彼はもとより、ピアノもベースも簡単なコード譜面を用意しているだけだった。それでも、アドリブを交えてスムーズに演奏が続く。
少し経ってから、彼に会ったので、何時間も演奏していて疲れたり、アドリブが途切れたりすることはないのかと質問した。
彼にとって、この質問は意外なものであったらしい。色々なライブやパーティーに出演し、何時間も演奏することは日常茶飯事なのだろう。
ちょっと考えてから彼が質問に答えてくれた。
「なんていうのかなあ。ちょうど自転車に乗っているようなものだね。自転車は一度、乗れるようになると、一生忘れないだろ。それに、漕いでいるときに左右のバランスとか、ハンドルをどっちに切るかなんてことは考えないで、何時間も漕いでいられるよね。それに近い感覚かなあ。そういった意味では、水泳なんかにも似てるかなあ」ということだった。

楽器の演奏はリズムやコード進行や指使いに注意を払わなければならないけれど、一度コツを飲み込んでしまうと、自転車や水泳みたいに無意識に楽曲に乗れるようになるのだろうか。僕などは、まだまだ補助輪をつけて漕いでいるようなものだ。浮輪にたよって泳いでいるようなものだ。
それでも最近は、ときどき、補助輪をはずしてもいいかなあ、とか、もしかしたら補助輪に頼らないで漕いでいるかなあと感じることがある。浮輪から手を離しても、犬掻き程度には泳げるような気持になることがある。

めざせ、ポール・デスモンドということで始めたサクソフォンのレッスンだ。そろそろ、彼の代表曲である『テイク・ファイブ』に挑戦してもいいかなあ、などと思っている。

<完>

山口正介さん
最近のレッスンテーマの一つでもあったサブトーンが、やっとできるようになってきました。やれば誰でもできるのでしょうが、自分にはかなりの達成感があります。そういえば、敬愛して止まないポール・デスモンドはサブトーン奏法の名手です。
息を漏らすように吹いたりとか、ちょっとしたテクニックが必要なのですが、そのハードルも越えて、サクソフォン奏者らしくなってきたなあと自画自賛です。ここまで10年かかりましたが、教室通いはすっかり生活の一部となっています。ここまできたら、生涯のパイドパイパーを目指すしかありませんね。

■山口正介〔やまぐち・しょうすけ〕

作家。映画評論家。1950年生まれ。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野へ。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『ぼくの父はこうして死んだ』『江分利満家の崩壊』など。現在、『山口瞳 電子全集』(小学館)の解説を執筆中。2006年からヤマハ大人の音楽レッスンに通いはじめ、アルトサクソフォンのレッスンに励んでいる。

 

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文/ 山口正介