Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人 大貫妙子さん

今月の音遊人:大貫妙子さん「言葉で説明できないことのなかに本当に素晴らしいものがいっぱいある。それが音楽ですよね」

最近では、バンドネオン奏者、小松亮太とコラボレーションしたアルバム『Tint』を発表するなど、独自の美意識に貫かれた音楽世界をクリエイトし続けている大貫妙子さん。彼女にとっての音楽のイメージをうかがった。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

たくさんあって選びきれないのですが、アーティストでいうとジェームス・テイラーとジョニ・ミッチェルかな。今は以前ほど、いろいろな音楽を聴かなくなりましたけれど、彼らの曲は今でも聴きますね。
ジェームス・テイラーだと『Sweet Baby James』(1970年)の「Fire And Rain」なんか大好きです。『October Road』(2002年)は車を運転している時によく聴きます。これからの季節だと『JTのクリスマス』のなかで、ナタリー・コールとデュエットしている「Baby, It’s Cold Outside」。ジョシュ・グローバン『Noel』の中の「I’ll Be Home For Christmas」も定番です。オリジナルは第2次世界大戦中の1943年に、愛する人を故郷に残し、戦地に赴いた兵士の気持ちをビング・クロスビーが歌ったせつないクリスマス・ソングですが。聴くたびに泣いてしまいますね。
ジョニ・ミッチェルでいちばん聴いたのは『BLUE』というアルバムですが、どの時代も彼女らしい世界観があって全部好き。初期の曲では『Ladies of the Canyon』(1970年)の「Morning Morgantown」とか。
お気に入りのアルバムは、つねにいちばん手に取りやすい場所に置いてあるのですが、その中でもケニー・ランキンの『The Kenny Rankin Album』(1977年)もよく聴きますね。ドン・コスタのアレンジはもちろん、歌も演奏も一発録りというクオリティの高さが素晴らしいんです。
最近の音楽っていろんな要素が入り過ぎている感じがして、聴いていて疲れちゃうの。そんな時にあの頃の、なんにも作為のない音楽を聴くといちばんホッとするんです。
ジェームス・テイラーとジョニ・ミッチェルはタイプが違うけれど、いちばん音楽に影響を受けた時代の空気がそこにある。だから、ホッとするんですね。

Q2.大貫さんにとって「音」や「音楽」とは?

私の住んでいる葉山に、きれいな声で鳴く鳥がいて、けっこう長いフレーズをずっと歌ってるんです。そうすると遠くで同じ種類の鳥が応えている。鳥も上手下手がいるから、それを聞いているのも楽しいですね。
音楽をつくっていくうえで、音にこだわるのは当然ですが、“すごくいい音だな”と思っていても、何年か経つと“あれ、いい音だと思ってたのに?”ということは何度もありますね。アコースティックの楽器の場合はその時代の録音状況にもよりますが、そんなに古くは感じませんね。なかでもオーケストラの音はずっと変わらないなぁと思います。パリ、ロンドン、ニューヨークとそれぞれその場所ならではの音色で。オーケストラは大好き。わたしは倍音が好きなのかもしれない。倍音がない音って疲れるんです。
バンドでリハーサルをしている時に、誰かが弾いた音に対して「いい音だね」ってみんなが一致することがあるでしょ。そういう共通の感覚が生まれることがすごいと思うんです。言葉で説明できないことのなかに本当に素晴らしいものがいっぱいある、っていうことが、音楽の大事なことじゃないかな。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

音で遊ぶって、う~ん……。赤ちゃんがガラガラを振って喜んでるっていうイメージですね。私たちはプロだから遊ぶ余裕ってないですよね。なんか、いつも音と真剣に向き合っている感じ。結果的には遊んでることになるんでしょうけど。楽しいですからね。
聴いてくださる方が「遊」を感じてくれる、そういう余裕のある音楽を創れるようになるのが理想ですけれど。
みんなと演奏していて、全員のグルーブがひとつになる瞬間があって、その時はちょっと言葉では形容できないほどの気持ち良さが生まれる。その時ってステージにいてもお客さんのことを忘れてしまう、申し訳ないですが。音楽をやっている人は、いちばん好きなことを仕事にしているから、音楽に対して楽しいとかいう次元じゃない。楽しいを越えちゃってるんです。私の周りで音楽を続けているミュージシャンたちを見ていると、音楽が人生そのものなんですよね。

大貫 妙子〔おおぬき・たえこ〕
1973年、山下達郎らとバンド「シュガー・ベイブ」を結成。 日本のポップ・ミュージックにおける女性シンガー&ソング・ライターの草分けのひとり。 その独自の美意識に基づく繊細な音楽世界、飾らない透明な歌声で、多くの人を魅了している。 映画『Shall we ダンス?』(監督:周防正行・1996年公開)のメイン・テーマをはじめ、 CM・映画音楽関連の作品も数多く手がける。 2015年6月、バンドネオン奏者・小松亮太とのアルバム「Tint」をリリース。最近では、2015年12月26日放送のWOWOWドラマ『山のトムさん』の音楽を担当した。
大貫妙子オフィシャルサイト http://onukitaeko.jp/

 

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