今月の音遊人
今月の音遊人:原田慶太楼さん「音楽によるコミュニケーションには、言葉では決して伝わらない『魔法』があるんです」
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二重のイリュージョンにマイケルの声を聴く/SINSKE produce 打楽器アンサンブル
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2021.3.29
tagged: マリンバ, 音楽ライターの眼, SINSKE, 音舞人-On My Beat
マリンバはハイテクノロジーを駆使して作られた楽器だ。正確に言うと、素朴な仕組みと物理学の粋とを出会わせて、あの豊かな音響を得ている。楽器の上部は、我々もよく知る木琴。音程順に並べた木片をバチで叩く。この楽器を個性的な存在にしているのは、その木の鍵盤それぞれの下に付く共鳴管だ。この管の下端は閉じているので、全長の2倍の共鳴周波数を持つ。木琴の下に見た目より大きな音響空間が広がっていると考えればよい。マリンバはその懐に「コンサートホール」を備えているのだ。
こうしたメカニズム自体がいわばイリュージョンなのだが、その不思議さはさらに、演奏法にもしみこんでいる。マリンバは打楽器だ。鍵盤があるのでさまざまな音程の音を出せるが、その音の出しかたは基本的に「バチで叩く」のみ。その動作をさまざまに工夫することで、人間の声も管弦楽器の響きも、場合によっては街にあふれる生活音も表現してしまう。
そんな魔法の楽器を4台も並べて演奏する打楽器アンサンブルがある。打楽器奏者SINSKEのプロデュースする「音舞人 – On My Beat」だ。プロデューサーに3人の演奏家が合流し、このアンサンブルを結成した。2021年3月5日、彼らの舞台を楽しんだ。
ステージの見た目は壮観だ。ヤマハホールの中に、小さい「コンサートホール」が4つそびえているようなもの。さぞや重々しく豪華絢爛なパフォーマンスになるだろう、と思っていたが、さにあらず。サウンドはとても軽やか。それはプログラムの柔軟さのおかげだろう。
前半は、日本をはじめさまざまな国や地域の民俗音楽を取り上げる。『八木節』(群馬・栃木)や『花笠音頭』(山形)、『べサメ・ムーチョ』(メキシコ)に『マイム・マイム』(イスラエル)など。それぞれの持つ独特のリズムが、演奏表現の柱になる。打楽器の得意分野だ。
後半には三村奈々恵がビブラフォンとマリンバでゲスト出演。4人のアンサンブルに、スパイスを加える。とくに『ケルト音楽メドレー』は傑作。『スカボロー・フェア』や『グリーン・スリーブス』といった有名ナンバーが並ぶが、聴き手の耳の裏をかく編曲が楽しい。これもマリンバ(とビブラフォン)のイリュージョンだろう。
そんなマリンバの魔法がこの日いちばん効いていたのは、『マイケル・ジャクソン・メドレー』だった。マイケルの幼少期から大人になるまでの有名曲が並ぶが、それぞれの作品にそれぞれの年代の「マイケルの声」が聴こえるのだから恐れ入る。バラードありダンスナンバーありで、客席も一気に温まった。
コンサートの最後はピアソラの『リベルタンゴ』。出演者総出で5台のマリンバを演奏する。役割分担がはっきりしているせいか響きが重くならない。作曲家の好んだ「タタタ・タタタ・タタ」のリズムが、軽快に曲を前に進める。この前進力が「音舞人」のキャラクターとよく響きあっていた。
澤谷夏樹〔さわたに・なつき〕
慶應義塾大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了。2003年より音楽評論活動を開始。2007年度柴田南雄音楽評論賞奨励賞受賞。2011年度柴田南雄音楽評論賞本賞受賞。著書に『バッハ大解剖!』(監修・著)、『バッハおもしろ雑学事典』(共著)、『「バッハの素顔」展』(共著)。日本音楽学会会員、 国際ジャーナリスト連盟(IFJ)会員。
文/ 澤谷夏樹
photo/ Ayumi Kakamu
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