今月の音遊人
今月の音遊人:ROLLYさん「曲の素晴らしさや洋楽との出会いなど、大切なことはすべてフィンガー5から学びました」
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劇伴制作の進行管理や演奏シーンの撮影をサポートする/映画等の劇伴制作をプロデュースする仕事
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2022.8.30
劇伴とは、映画やドラマ、アニメなどの映像作品に合わせて流される音楽のこと。その制作現場には、「作曲家が作曲に専念できるよう、そのほかの関連業務を担う」役割の人がいる。限られた時間のなかでの録音や、映像と音楽をつなぐさまざまな現場で活躍する、プロデューサーの佐藤順さんに話を聞いた。
劇伴が制作される現場で佐藤さんの仕事を一言で表すと、どのような名称になるのだろう。
「大きく言うと作・編曲家のプロデュースですが、個々の現場レベルで見ると、プロデューサーだったりディレクターだったり、同時にマネージャーのような役割も兼ねています」
音楽の方向性を検討する企画段階の場面ではプロデューサーであり、録音に向けてプレイヤーをコーディネートしたり、スタジオやエンジニアをおさえて録音スケジュールを組んだりする段階では、ディレクターやマネージャーでもある。このように仕事は多岐にわたる。
録音の進行管理では、いつまでに録り終えるべきなのか、そこから逆算してスケジュールを組むのだが、その日程に余裕はない。
「作曲家も、録音の前日までに曲を書き上げるというようなスケジュール感ですので、プレイヤーの人選やスタジオ予約などの流れを全部私が行います。デモを聴いて、何時間で録れるかの計算をします。時間がかかりそうだとか、休憩時間を多めに取らないと金管奏者の唇がもたないだろう、といったことまでを考慮してスケジューリングします」
ただ、ときには計算通りにいかないこともあるという。
「例えば予定の時間内で録り切れなかったといったケースですね。編成の規模にもよりますが、時間がオーバーするとプレイヤーへの支払いが加算されていく場合もあるので、冷や汗をかくこともたびたびあります」
佐藤さんは、全国で公開中の映画『異動辞令は音楽隊!』(内田英治 原案・監督・脚本)の音楽制作にも初期の段階から関わった。事務所に所属する作・編曲家の小林洋平さんがこの作品の総音楽監督を務め、劇中の音楽作り全体の指揮をとる傍ら、現場の細かな部分を佐藤さんがコントロールした。
映画は、ある地方の警察音楽隊が舞台。主演の阿部寛が演じる成瀬は、捜査一課から音楽隊に不本意にも異動となり、演奏経験ゼロのドラムを担当することになる。「人も予算も足りていない音楽隊」という設定のもと、撮影で使う楽器や、それを演奏するキャストたちのレッスンを佐藤さんが準備した。
「楽器は、ヤマハさんに協力いただけることが早い段階で決まりましたので、練習用兼撮影用としておあずかりし、メインキャストには、実際に撮影で使う楽器と同じ楽器で練習してもらうことができました」
トランペットは音大出身の隊員という設定に合う機種が、サクソフォンは大人が演奏する楽器としてふさわしいものが選ばれた。またチューバは、台本にマーチングドリルのシーンもあることから、立奏も座奏もできるコンバーチブルモデルをリクエストした。特にこだわったのは主役が演奏するドラムセット。佐藤さん自身がドラムプレイヤーであることも、楽器選びに役立った。
「古めの楽器がいい、という監督からの指定があったので、型番の古いものを選びました。とはいえお借りしたものは新品ですので、少し使い込んだヘッドに張り替えたり、撮影前に叩き込んだりして雰囲気を出しました。使い込まれたドラムを楽器店から借りたりもして、結局、ドラムセットだけで5種類を用意しました」
内田監督の意向で、主要キャスト4人は、映像での吹き替え(手元のみプロの奏者が演奏している映像を使うこと)は「なし」とされていたため、撮影に向けてのレッスンも必要となる。指導者の人選、出演者とのスケジュール調整、スタジオの確保なども佐藤さんが行った。
「キャストの皆さんが忙しくて間隔が空くこともありましたが、週1回2時間のレッスンを設定しました。レッスンにもできるだけ立ち合って進捗状況を把握し、回数や時間を調整して撮影に合わせました」
俳優陣は実際に音を出しながら演技をしたのだが、演奏はよくぞここまでと思うレベルまで仕上げたという。さらにはこんなエピソードも。
「阿部さんはご自身のスケジュールの関係で、レッスン期間が短かったこともあって、撮影に入るまでに、ご自身で猛練習をされたようです。手にマメもできていました。それで、映画の設定ではあまり上手くないはずのシーンで、阿部さんが上手くなりすぎてNGになったこともありました(笑)」
撮影中はモニターを見て、ミスがないかどうか、演奏面のチェックしているのだという。こうして、音楽のサポートをしつつ俯瞰して全体の流れを見ている佐藤さん。「大変な思いをして録った音が映像と重なって、実際に放送されたり映画館で上映されたりしたときにやりがいを感じる」と語る。
「それと、最近は時々、『こんな企画があるけれど、どんな音楽が合うと思いますか?』といった相談を受けることもあって、それもやりがいにつながっています。困ったときに声をかけられる、そんな存在になれたらと思います」
Q.子どもの頃の夢は?
A.漠然と音楽の仕事をしたいと思っていました。中学生の頃は作曲家になりたいと思っていて、大学生の頃はドラムの演奏者になりたいと思っていました。大学卒業後にメーカー勤務を経て、縁あって今の仕事に就きましたが、それまでのすべての経験が今につながっていると思います。
Q.音楽歴を教えてください。
A.5歳の頃からピアノを習っていて、小学校から高校まではジュニア・オーケストラでパーカッションを担当していました。大学ではジャズのビッグバンドに入っていて、社会人になってからも、勤務のかたわらでライブ活動やドラムのインストラクターをしていました。
Q.好きな音楽や印象に残ったライブは?
A.ジャズが好きです。一番、エモーショナルな音楽ではないかと思っています。ライブでしみじみと思い出すのは、2019年にブルーノート東京で聴いたチック・コリアです。結局、それが生で見る最後のチック・コリアになりました。
Q.休日はどのように過ごしていますか?
A.仕事柄、新しい映画やドラマを見る時間も多く、なるべく新作は見るようにしています。やはり仕事目線で音楽が気になってしまいますね。でもそこからの気づきもたくさんあります。
2022年8月26日(金)全国ロードショー
原案・脚本・監督:内田英治
出演:阿部 寛、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、見上 愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向 芳、六平直政、光石 研、倍賞美津子
配給:ギャガ
オフィシャルサイトはこちら
文/ 芹澤一美
photo/ 坂本ようこ
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