Web音遊人(みゅーじん)

ジョン・コルトレーン編<5>|なぜジャズには“踏み絵”が必要だったのか?

ジョン・コルトレーン編 vol.5|なぜジャズには“踏み絵”が必要だったのか?

ジョン・コルトレーンが“ジャズにとっての踏み絵だった”と主張するからには、彼がそれまでのジャズにはない異次元のアプローチを具現していたことを指摘しなければならない。

レコーディングの記録を調べてみると、コルトレーンは1956年10月にマイルス・デイヴィスのマラソン・セッションに参加している。そのあと、11月の終わりにタッド・ダメロンらと6曲を収録してから、次のレコーディングは1957年3月22日まで空いている。このあいだに、フィラデルフィアでの療養があったものと思われる。

コルトレーンは麻薬やアルコールの悪癖を絶ち、再びニューヨークに戻って活動を始める。そんな彼に手を差し伸べた者がセロニアス・モンクのほかにもいたのだ。このことは、1957年の春先からジョン・コルトレーン名義のアルバムが作られるようになったことを見ればわかるだろう。これは、ジャズ・シーンの一部ではこの時期に、コルトレーンが“変わった”、つまり“Something new”をやらかしそうだという評判になっていたことを意味する。

それがすなわち、コルトレーンを“ジャズの踏み絵”たらしめる根拠に関係するので、少し詳しく触れてみたい。

この時期の自分のアプローチについて、コルトレーン自身が語るインタビューが残っている。「Jazz Journal」誌1962年12月号に掲載されたValerie Wilmerの「Conversation with Coltrane」という記事だ。

ここで彼は、再びマイルス・バンドに戻った1957~59年ごろに考えていたアイデアとして、1つのコードに対して3つのコードを使ってハーモニーを成立させる方法を試していたと言う。例えばこうだ。シー・セブンのパートに対してイー・フラット・セブン、エフ・シャープ・セブン、エフを重ねながらメロディアスな旋律を表現するというもの。

この“重ねる”というアプローチによって、コルトレーンは“シーツ・オブ・サウンド”と呼ばれる彼独自の表現方法を完成。マイルス・デイヴィスがモード手法によってコードの制約を超えようとしたのとは正反対とも言える方向で、コードからの解放を具現させてしまった。

その明らかな“証拠”が、1959年に収録されたジョン・コルトレーン名義のアルバム『ジャイアント・ステップス』だった。 

<続>

ジョン・コルトレーン編vol.1~vol.4|なぜジャズには“踏み絵”が必要だったのか?

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:大塚 愛さん「私にとって音は生き物。すべての音が動いています」

22121views

音楽ライターの眼

20世紀の過激な音楽を集めたアンソロジー『Notes From The Underground』発表

3549views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

15330views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

2325views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

10715views

オトノ仕事人

深く豊かなクラシックの世界への入り口を作る/音楽ジャーナリストの仕事

5955views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

10885views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

11257views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15598views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2865views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8955views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28278views

おとなの 楽器練習記 須藤千晴さん

おとなの楽器練習記

【動画公開中】国内外で演奏活動を展開するピアニスト須藤千晴が初めてのギターに挑戦!

9527views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

14629views

音楽ライターの眼

モーターヘッド『極悪ライヴ』40周年エディションCD4枚組が2021年6月発売

5398views

オトノ仕事人

音楽をやりたい子どもたちの力になりたい/地域音楽コーディネーターの仕事

11780views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7964views

82Z

楽器探訪 Anothertake

アンバー仕上げが生む新感覚のヴィンテージ/カスタムサクソフォン「82Z」

8832views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20426views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.7

パイドパイパー・ダイアリー

最初のレッスンで学ぶ、あれこれについて

5365views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

10138views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8120views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35106views