今月の音遊人
今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」
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美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)
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2019.3.11
tagged: ホール自慢を聞きましょう, グランツたけた, 大分
列車が山間の街にある豊後竹田駅に到着すると、ホームにはなじみ深い『荒城の月』のメロディが流れる。豊後水道に面した大分から内陸の阿蘇山方面へと向かう途中にある竹田の街は、日本の洋楽史におけるパイオニア的な作曲家の一人、瀧廉太郎が幼少期を過ごした地。街の中には貴重な遺品などを所蔵している記念館などもあって観光客を集めている。
そしてなにより、瀧廉太郎が『荒城の月』を作曲した際に思い浮かべたのは、この地の歴史を作ってきた名城である「岡城」だと伝えられているのだ。
1976年から市民に親しまれてきた旧竹田市文化会館を建て替える形で、2018年10月に開館した「グランツたけた」も、メインとなる713席の大ホールが「廉太郎ホール」と命名されており、かの作曲家への深い愛情を象徴する施設である。名称の「グランツ(GLANZ)」はドイツ語で「栄光」「きらめき」「輝かしさ」という意味をもつが、まさに地域住民の心に輝きを灯すホールである。
その大ホールに足を踏み入れると、まず天井の高さに驚く。そのためか、階段状の1階席とそれを取り囲むように配置されたバルコニー状の席(2階層)から成る客席が、席数に比してゆったりとした空間に感じられ、音楽も豊かに広がるような印象が強い。ステージも天井が高く、計算された構造による壁面や背面に当たった音がゆったりと客席へ届くようなイメージだ。
「竹田では1947(昭和22)年から岡城跡に建っていた音楽堂で音楽祭を開催しており、それが『瀧廉太郎記念 全日本高等学校声楽コンクール』となって、旧文化会館へと会場を移してからも続いてきました。ソプラノの佐藤美枝子さんやカウンターテノールの米良美一さんほか、著名な歌手の方も入賞しており、私たちにとっては誇りに感じられる重要な文化事業のひとつです。一方では長く活動を続けている『瀧廉太郎の歌をうたう会』などアマチュアのコーラスも盛んですので、新しいホールを作る際には『歌声が美しく響くように』という明確なコンセプトがありました」(館長、山口誠さん)
たしかに、地元のコーラス・グループなどが出演するコンサートを聴いたが、ハーモニーがふんわりとホール内に膨らんでいくような印象が強く、それでいて歌詞(言葉)は明快に聴きとれるため、声楽には最適の音響だといえるだろう。
ホールの音響設計を担当したヤマハ空間音響グループの宮崎秀生氏は、要望を受け入れながら独自の音を創造するべく、設計スタッフらとディスカッションを重ねたという。
「天井が高く容積の多い空間なので残響が長くなり、響き過ぎてしまうのが大きな課題でした。そこで客席(左右のバルコニー席)前にある仕切りにスリットを入れるなど、音を逃がして仕切り壁から直接跳ね返る音と後から戻る音とのバランスを調整することで反響をコントロールして、豊かな響きを保ちながらも音自体はクリアに聴こえるような工夫を施したのです」
ステージの背面および側面の下部と1階席の左右は、まるで拍子木を積み上げたような壁面になっており、これてまた残響を調整する工夫のひとつだ。
「実質的なこけら落とし公演は、さだまさしさんのコンサートでしたが、お客様も交えて『荒城の月』などを歌っていただき、みんなの声が心地よく響く素晴らしいホールだとおっしゃってくださいました。ステージと客席の垣根もなく全員で歌えることができるというのは、まさにこのホールにとって幸せなことだと思います」(山口館長)
もちろん声楽だけではなく、オーケストラや吹奏楽、市内に2つあるというジャズ・オーケストラ、講演会、さらには伝統芸能など、実に多彩な催しにも対応できるよう設計されている。この地域で盛んだという神楽なども、太鼓の音が響きすぎずに全体のバランスがよかったため、好評のようだ。
大ホールのほか、床面がフラットで展覧会や、演劇・映画の上映、ダンスなどさまざまな用途に利用できる多目的ホール「キナーレ」(竹田の言葉で“お越しください”という意味)を併設。さらには地元の木材がふんだんに使われている市民ラウンジ、ワークショップなどが開催できる創作空間(サロン)なども、住民が集い、新しい文化交流を生み出す場になることだろう。
まさに竹田市と周辺地域にとって、新しい時代の情報発信地となるべく生まれたホールなのである。
文/ オヤマダアツシ
tagged: ホール自慢を聞きましょう, グランツたけた, 大分
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