Web音遊人(みゅーじん)

26年ぶりにラインアップを一新!「長く持っても疲れにくい」を実現し、フラッグシップモデルが加わったバリトンサクソフォン

低音楽器の枠を超えた多彩な表現力

「バリトンサクソフォン(バリトン)は、低音パートを担う、吹奏楽やバンドを下支えする楽器という印象が強いかもしれません。でも実は、ベースラインだけでなく、ソロで主役も張れる、表現力豊かな楽器なんですよ」
そう語るのは、サクソフォンの開発を担当する内海(うちうみ)靖久さん。

2020年秋、26年ぶりにフルモデルチェンジし、「YBS-82」(カスタムモデル)、「YBS-62」(プロモデル)、「YBS-480」(スタンダードモデル)の3モデル展開となったバリトンサクソフォン。開発は、ヤマハのバリトンに長いあいだ存在しなかった、カスタムモデルを軸に進められました。
ちなみにカスタムモデルとは、トップアーティストがステージで使用することを想定し、最新の技術、ノウハウをつぎ込んだフラッグシップモデルのこと。専用の素材(真鍮)を使い、職人が手作業で形作るベル(一枚取りベル)を採用することなどによって、豊かな音色と響きを表現することができます。

「15年以上前から、トップアーティストの方々に協力いただきながら、メロディアスなソロにも対応できるカスタムモデルの開発を進めてきました。より繊細な音色変化をつけられるよう、低音域だけでなく、中高音域の響きの豊かさや、全音域における音と音のつながりの良さにこだわってつくりました」

奏者としてもバリトンに親しんでいる開発担当の内海靖久さん。「3モデルは、いずれもオールジャンルをカバーできるバランスの良い楽器ですが、音色、吹奏感は異なりますので、ご自身にしっくりくるものを選んでいただきたいです」

新しいベル&キイレイアウトで音質と操作性がアップ

「今回の開発は、どうすれば低音域の音程をより安定させることができるか……というところからスタートしました」と内海さん。試行錯誤の結果、ベルの全長を短くすることになりましたが、それは大きな決断だったそう。
「ベルを短くすると、ベルにあるトーンホール(音孔)の音程が変わってしまうので、音孔の位置を変える必要が出てきます。音程設計を一からやり直すことになるため、多くの時間と労力がかかりますが、音程、音質の改善のためにはベルを短くするのがベストという結論に至りました」

ベルの長さだけでなく、内径(管の内部の直径)の一部も変更。低音域の音程が安定したのに加えて、音も粒揃いに。心地よい吹奏感も実現している。

バリトンは、アルトより1オクターブ低く、管の長さが約2倍。そのため、音域が広く、あたたかく豊かな響きの音を鳴らせるのですが、管体の大きさと重量が奏者の負担となりがちです。
「ベルが短くなり重量が軽くなったのに加えて、ストラップをかける位置をこれまでより少し上にずらすことで、楽器のポジションを取りやすくしています。演奏には直接関係しませんが、楽器を構えるたび奏者にかかるストレスを、少しでも軽減したいと思いました」

全体のキイの間隔をできる限り狭めることで、手の小さい人でもキイ操作をしやすくなっているのもポイントです。
「私も手が小さいので、人知れず指がつりそうになるときがありますが(笑)、指を無理に伸ばさなくてもキイ操作ができるよう、キイ同士の間隔をミリ単位で縮めました。また、指にフィットしやすい形状にしたり、軽量化したりすることでもキイの操作性を上げ、奏者の負担を減らしています」

変え指や、通常音域より高い音を出すときに使う“可動式フロントFキイ”(写真左)や、バリトンにしかない最低音のラを出すための“Low(ロー)Aキイ”、1オクターブ上を出す“オクターブキイ”(写真右)など、各所のキイが改良された。

新しい楽器が新しい音楽を生むきっかけに

フルモデルチェンジで低音域の音程の安定性や操作性が上がり、さらに自由な表現が可能になったヤマハのバリトンサクソフォン。オプションネック(別売) も、内径と塗装の違いで15種類あるため、吹奏感をより自分好みにできたり、音楽ジャンルによって使い分けたりできます。
「近年は、作曲家にバリトンのための曲の制作を依頼し、バリトンメインで活動を行うアーティストも増えています。今回のフルモデルチェンジをきっかけに、バリトンという楽器が持つ可能性に注目が集まり、新しい表現が生まれたら嬉しいです」(内海さん)

写真上は、YBS-82、YBS-62の専用ハードケース。可搬性の高いキャスター付きだ。写真下はYBS-480の専用ハードケース。いずれも、管体を守る堅牢性に優れている。

吹奏楽やジャズのビッグバンドをはじめ、サクソフォン四重奏、ソロ、他の楽器とのアンサンブルなど、さまざまな演奏スタイルで活躍できるバリトンサクソフォン。メロディを奏でたり、ほかの楽器とハーモニーを重ねたり、ベースラインを支えたり……幅広い役割を果たすバリトンサクソフォンは、知れば知るほど奥深く、多彩な楽器です。

■バリトンサクソフォン

詳細はこちら

特集

五条院凌

今月の音遊人

今月の音遊人:五条院凌さん「言葉で表現するのが苦手な私でも、ピアノなら自分の感情を、音を通して表現できる」

7899views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase20)ストラヴィンスキーは交響曲作家、型から入って型破り、ボブ・ディランにも

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase20)ストラヴィンスキーは交響曲作家、型から入って型破り、ボブ・ディランにも

1455views

最新の音響解析技術で低音域のパワフルな音量と響きを実現

楽器探訪 Anothertake

アコースティックギター専用の音響解析技術で低音域のパワフルな音量と響きを実現

10177views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

9542views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11650views

ホールのクラシック公演を企画して地域の文化に貢献する/音楽学芸員の仕事

オトノ仕事人

アーティストとお客様とをマッチングさせ、コンサートという形で幸福な時間を演出する/音楽学芸員の仕事

12217views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

23209views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10073views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10354views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:音楽は和!ひとつになったときの達成感がいい

5988views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

4934views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30877views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11650views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23449views

音楽ライターの眼

Googleが浮き彫りにするAIとジャズの本質

4176views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

13364views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

8147views

“音を使って音楽を作る”音楽の冒険を「ELC-02」で

楽器探訪 Anothertake

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

8689views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

24752views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

5373views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

5087views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3289views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26109views