Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人 小沼ようすけ

今月の音遊人:小沼ようすけさん「本気で挑まなければ音楽の快感と至福は得られない」

日本を代表するジャズプレイヤーであり、近年はジャンルを横断する多岐な活動とコミュニケーションで表現の幅を広げる小沼ようすけさんに「音で遊ぶ」原点をたずねました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

タル・ファーロウというジャズギタリストの『Isn’t It Romantic』です。僕はこの曲が発表された1956年から約40年後の19歳のときに初めて聴きました。当時は斬新だった人工ハーモニックスを使っていたりして、そのテクニックに驚きながらも、曲全体がまとう切ない感触というか、たった19年しか生きていない僕に懐かしさを感じさせてくれたんですね。
その当時、実はジャズについてかなり悩んでいました。ロック好きだった高校時代までは練習すれば何でも弾けると思っていたんです。ところが卒業後に通った音楽専門学校でジャズブルースが課題になったとき、すごく気持ちよくてカッコいいのに全然弾けなかった。
そんな時期に『Isn’t It Romantic』に出会って、ものすごくクリアに「こういうことをやりたい」と思ったんです。「こういうこと」とは、タル・ファーロウがそうだったように、僕もまたこの時代で人々に衝撃と感動を与え続ける、ということです。
今でも定期的に聴きます。車での移動中や、あるいはツアーが終わった後などに耳にすると、ジャズの扉を開けてくれた瞬間、本来の自分の場所にすっと戻してくれるんです。

Q2. 小沼さんにとって「音」や「音楽」とは?

その答えははっきりしています。音楽というのは、その人の心や魂の代わり。感情を表現する手段。自分が心から楽しんで出た音は必ず人に伝わるし、魂のごとく後の世にも残ります。だから嘘はつけない。仮に譜面通りに弾けたとしても、心の中にピュアじゃないものがあれば音に出てしまいます。
理想の境地はゼロ。気負わず期待せず自分をフラットな状態にできれば、どこかから降ってくるものを自然と受け止めることができます。その瞬間のギターと自分がひとつになる快感はとても不思議なもので、後になるとあれは何だったんだろうと思うんですね。
とは言え自宅で新しいことにチャレンジしているときは気合い入れまくりで、頭でイメージできるものが「なぜ弾けないんだ」って苛立ったりするんですよ(笑)。けれどひたすら弾き続けると、あるタイミングで時間すら感じないというか、今ここにいるという以外に何も意識しない瞬間が訪れます。常にその状態で音楽がしたい。それが至福ですよね。本気で挑まなければ音楽の快感と至福は得られないと思います。

今月の音遊人 小沼ようすけ

撮影協力:鎌倉 百年の蔵~カフェ&バー tsuu

Q3. 「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

音遊びで言えば、ジャズほどピッタリなジャンルはないでしょうね。ジャズの演奏は、曲のテーマから始まり、インプロビゼーション(即興演奏)があって、再びテーマに戻るのが基本スタイルです。
そのインプロビゼーションの最中はまさに音遊びの瞬間で、たとえばバンドがトリオだったら3人の子供が公園で遊んでいる感じに近いかなあ。最初はみんな砂場にいたのに、気づくと一人はブランコに乗り、もう一人はすべり台に登っている。でも同じ公園の中にいるから互いの遊びが気になっていて、また砂場で山をつくったりしてね。そう、子供みたいに素直で無邪気。けれど相当に深い技術と経験を基に音で遊ぶ様子はジャズそのものかもしれません。
などと言いつつも、ギター初心者の人が覚えたてのコードをポロンと鳴らすときだって音で遊んでいるんですよね。結局のところ、自分が楽しめればいい。そこが音遊びの原点じゃないかな。1曲完成させるというような目的が持てれば、そのプロセスもまたワクワクするでしょ。楽しさで苦労を忘れられるし。だからきっと、音遊びを生涯やめられない人が“音で遊ぶ人”になるんでしょうね。優れたプロはそんな人ばかりですよ。

小沼ようすけ〔おぬま・ようすけ〕
ジャズギタリスト。1974年、秋田県出身。14歳の時に父の影響でギターを始め、19歳から本格的にジャズギターを学ぶ。1995年ヘリテージ・ジャズギター・コンペ日本代表、世界3位、1999年ギブソン・ジャズ・ギター・コンテスト優勝。2001年にアルバム『nu jazz』でメジャー・デビュー。さまざまなアーティストとのコラボレーション、国内外でのライブ活動などを精力的に行い、ジャンルを超えたオリジナリティ溢れる演奏で多くの支持を集めている。
小沼ようすけオフィシャルサイト http://www.yosukeonuma.com/

 

特集

ユッコ・ミラー

今月の音遊人

今月の音遊人:ユッコ・ミラーさん「音楽は人の心を映すもの。だからごまかすことはできません」

4888views

音楽ライターの眼

ベートーヴェン生誕250周年、ソナタ最後の境地/福間洸太朗ピアノ・リサイタル

3097views

楽器探訪 Anothertake

ピアノならではのシンプルで美しいデザインと、最新のデジタル技術を両立

7552views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

18138views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

21323views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

ステージマネージャーひと筋に、楽員とともにハーモニーを奏で続ける/オーケストラのステージマネージャーの仕事(後編)

19078views

福岡市民ホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史をつなぎ、新しい感動をつくる。音楽・芸術文化の新たな拠点/福岡市民ホール

545views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

11221views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15547views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

6037views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

7505views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11805views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

13607views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15547views

音楽ライターの眼

ベンチャーズが来日60周年記念ツアー。変わる時代と変わらぬ音楽

15532views

マイク1本から吟味して求められる音に近づける/レコーディングエンジニアの仕事(前編)

オトノ仕事人

マイク1本から吟味して求められる音に近づける/レコーディングエンジニアの仕事(前編)

18005views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

13108views

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

楽器探訪 Anothertake

【動画】「楽しさ」をまるごと運ぼう!「ELC-02」の分解、組み立て手順

21127views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

17339views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8918views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

10023views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4460views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34993views