Web音遊人(みゅーじん)

「自分らしい色を!」ピアニカ新色開発の裏側

「自分らしい色を!」ピアニカ新色開発の裏側

幼稚園や小学校の音楽教育で広く使用されている鍵盤ハーモニカ。ヤマハの商品名である「ピアニカ」は、その代名詞といってもいいでしょう。
ヤマハが初めてピアニカを世に送り出した1967年以降、カラーバリエーションは長らくブルーとピンクという2色でしたが、2024年10月には新色のオレンジが登場。ピアニカの長い歴史に新たな1ページが加わりました。
その誕生の背景について、ヤマハミュージックジャパンお客様コミュニケーションセンターの加藤敦子さんと管弦打事業戦略部の安藤真生さんに聞きました。

長年高く評価されてきたピアニカに対するご要望

1984年に発売し、学校教育の現場で愛され続けてきた普及モデルの定番「P-32D」は、30年にもわたるロングセラーになりました。そして、その遺伝子を受け継ぎ、実に30年ぶりとなるモデルチェンジで2014年に登場した「P-32E」は子どもたちや保護者、先生たちの意見を取り入れ、さらに使いやすく、より演奏しやすく進化しています。
「この時の進化ポイントとしては、例えば演奏用パイプを留めるクリップの新設です。演奏しない間もホースが邪魔にならないので授業に集中できるうえ、立奏時も便利になりました。吹き口がどこにも触れない設計にすることで衛生面の改善にもつながりました」
安藤さんはそう話します。さらに、ケースを開いた蓋の部分がタブレットを立てかけられる譜面台になったり、子どもの小さな手にフィットする持ち手を採用したりするなど細やかな改良がいくつも施されています。

管弦打事業戦略部の安藤真生さん

管弦打事業戦略部の安藤真生さん

音質や耐久性、安全性などにおいて高く支持されてきたピアニカですが、近年、さらに魅力的なものにするため新色開発も検討され始めていたといいます。
そして、ほぼ同時期からお客様コミュニケーションセンターにもカラー展開に関する声が複数寄せられるようになりました。男の子はブルー、女の子はピンクという旧来の固定概念に対して、「ジェンダーバイアスという観点からも、色のバリエーションを増やしてほしい」「むしろ一色展開にしては?」といったご意見です。
「ピアニカは不具合に対するご相談がほとんどなく、手前みそですが、安定した品質だという自負がありました。でも、品質や安心・安全なつくりだけでなく、多面的な視点を持つことの重要性にあらためて気づかされました。こうした声を持っている方々がいることは、何としてでも私たちが社内に発信していかなければならないと強く感じました」
加藤さんはそう振り返ります。

お客様コミュニケーションセンターの加藤敦子さん

お客様コミュニケーションセンターの加藤敦子さん

自分らしさを表現するための新たな選択肢

加藤さんはそうしたユーザーの声を、部門の垣根を超えたミーティングで情熱と使命感をもって伝え続けました。その声を安藤さんらピアニカの事業企画を担当する部門が開発部門と共有し、本格的な検討がスタートすることになりました。
カラーバリエーションを増やす。簡単なように聞こえますが、決して一朝一夕にできることではありません。
「本当に新色を出すべきなのか。出すならば、色はどうするのか。時間をかけて、さまざまな議論が交わされました」(安藤さん)
ヤマハは、ヤマハのブランドを冠するあらゆる製品のデザイン開発を行うデザイン研究所を有しています。その協力を仰いだ結果、子どもに親しまれるいくつかの色のうち、実際に使われるシーンに当てはめながら、明るさ、鮮やかさ、色味を調整した候補色が提案され、最終的には、品のある華やかさと活発さを兼ね備えたオレンジの新色が登場することになりました。既存のブルーやピンクと調和する色であることも重要なポイント。また、ケースを淡いイエローにしたことで、楽器をケースから取り出すときのワクワク感を創出しました。

ピアニカ「P-32EO」

ピアニカ「P-32EO」

「多様性をどのように伝えていくかにもこだわりました。その結果、打ち出したのが『自分らしい色を!』というキャッチコピーです」(安藤さん)
新色オレンジのピアニカは、子どもたち一人ひとりが個性を輝かせ、自分らしさを表現するための新たな選択肢となりました。お客様からは「待っていました!」という歓迎の声が多く届いています。
「お客様の意図をきちんと汲み取り、発信していくことは常々意識していますが、この件ではその大切さをあらためて痛感して、襟を正しました」(加藤さん)
ピアニカは多くの子どもたちにとって最初に持つ自分の楽器になる。だからこそ自分らしい色を選んでほしい。そして子どものころのピアニカ体験を入り口に、音楽や楽器に親しんでほしい。新色誕生の背景にはこうした願いも込められています。
「小学校の授業をもってピアニカを卒業するのではなく、その先もピアニカを楽しめたらと考えています。落ち着いたカラーとシンプルなデザインを採用した『大人のピアニカ(P-37E2)』という人気の機種もありますので、長く演奏していただけたらうれしいです」(安藤さん)
お客様に寄り添い、そして音楽とともにある豊かな生活を提案するために。本質的な課題の把握とフィードバックに日々努めています。

photo/ 坂本ようこ

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:大塚 愛さん「私にとって音は生き物。すべての音が動いています」

22099views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase60)シューマン「幻想曲」、ベートーヴェン礼讃を超えて、クララへの愛が新音楽に結実

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase60)シューマン「幻想曲」、ベートーヴェン礼讃を超えて、クララへの愛が新音楽に結実

615views

“音を使って音楽を作る”音楽の冒険を「ELC-02」で

楽器探訪 Anothertake

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

9591views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

9774views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

8496views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

舞台上の小さなボックスから指揮者や歌手に大きな安心を届ける/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(後編)

15718views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

15357views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

7327views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15594views

IMOZ

われら音遊人

われら音遊人:そろイモそろってイモっぽい?初心者だって磨けば光る!

2174views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

9434views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28272views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

5656views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

37342views

音楽ライターの眼

ピンク・フロイドの幻のレア音源・映像が相次いで公開

4959views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

8110views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

12941views

楽器探訪 Anothertake

世界の一流奏者が愛用するトランペット「Xeno Artist Model」がモデルチェンジ

30940views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20419views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

5302views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

5906views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4496views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35096views