今月の音遊人
今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」
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武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
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2017.9.25
tagged: 東京オペラシティ コンサートホール
1997年9月に開館し、2017年で20周年を迎えた「東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル」。東京オペラシティは、東京都庁ほか高層ビルが建ち並ぶ西新宿エリアのより西側、初台駅と直結する複合文化施設だ。コンサートホールはその中にあり、オーケストラコンサートからピアノリサイタルまで多彩な公演が連日のように行われている。
ホールに入るとまず驚かされるのは、大聖堂のように上へと広がる変形ピラミッド型の天井。ヨーロピアンオークという木材(ステージのみ樺桜)と、陰影を活かした照明による奥行きある色調の内装は、“木のぬくもりにあふれた特別な空間”へ足を踏み入れたような錯覚さえおぼえる。壁面や床からステージ背後に備え付けられたパイプオルガンの枠、ステージ上部の反響板、そして客席の椅子に至るまですべてがまぶしいほど明るい。
3階層になっている客席の数は1,632席。その数だけで比較すると、1980~90年代に相次いで東京都心に生まれた他のクラシック音楽専用ホールよりやや小規模ではあるが、シューボックス型の内部は雄大な天井空間が広がっているため、音楽が豊かに膨らんでいくという印象が強い。
ホールの個性を創造する自主企画などの基本的なコンセプト作りに関わったのは、開館前の1995年に芸術監督として就任していた作曲家の武満徹。しかし武満は、開館を待たず惜しくも1996年2月に亡くなってしまったが、ホールの設計段階からも深く関わり、施設の役割や存在意義なども監修していた。そのためホールには「タケミツ メモリアル」の名称が付けられており、現在もなお主催公演のプログラミングにおいては、氏の音楽観や精神などが反映されているといってよい。
「武満さんがおっしゃっていた言葉のひとつに『未来への窓』というキーワードがあり、これが主催公演を企画する際の軸になっています。王道路線のクラシック音楽というよりは、現代の作品でも古楽であっても常に新しい視点をお客様に提示し、音楽を通じて未知の体験をしたいと願う方に楽しんでいただけるものが、このホールならではの特徴だといえるでしょう」(音楽事業部プロデューサー 鈴木学さん)
その既定路線に乗って多彩なコンサートがシリーズ化されており、熱心な聴衆を集めてきた。世界的な古楽団体「バッハ・コレギウム・ジャパン」や著名作曲家を招いてコンサートや作曲コンクール(武満徹作曲賞)を行う同時代音楽企画「コンポージアム」。ジャズ・ピアニストの山下洋輔が自作のピアノ協奏曲などを次々に発表してきたコンサート(いま注目のジャズ・コンポーザー、挾間美帆の才能もここで見出された)。これらは主催公演の一部だが、どれもが聴き手に新鮮な音楽体験を提示し、次の時代への足がかりとなるような「未来への扉」だ。
一方では、子供たちにも大人気の動物アンサンブル、ズーラシアンブラスなどが主役となった「音楽の絵本」シリーズ。吹奏楽ファン憧れのプレイヤーたちが集合した侍BRASSなど、エンタテインメントでありながらも次世代の聴衆や音楽家を見据えたコンサートも大好評だ。
「『音楽の絵本』のように、主催公演で取り上げ始めた頃はまだ公演機会が少なかったものの、このホールでの公演の反響を知り、各地での公演が増えていったケースもありました。もちろん、ズーラシアンブラスも侍BRASSも、長く人気を保ち続けているのは、音楽的なクオリティが高いということが大前提にあります。さまざまな主催公演で繰り広げられる素晴らしい演奏と、お客様の感性とが呼応しあう体験がきっかけとなり、新たなお客様との出会いへ結びつく好循環もまた、ホールの評価につながると思っています」(音楽事業部 広報 興梠徳子さん)
企画内容とホール内部の神々しいイメージなどが集約され、独特の個性を作り上げている「東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル」。その雰囲気を味わいに足を踏み入れるもよし、先鋭的な演奏やプログラムを体験するもよし。西新宿には「未来への扉」が、冒険的な聴衆を待っているのだ。
所在地:東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL:03-5353-0788
ホール形式:シューボックスタイプ
席数:1,632席(車椅子席 4席を含む)