今月の音遊人
今月の音遊人:MORISAKI WINさん「音は感情を表すもの。もっと音楽を通じたコミュニケーションをして、世界を見る目を広げたい」
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世界自然遺産や世界文化遺産、ユネスコ無形文化遺産にも多数登録されるなど独特の文化と豊かな自然を有する秋田県。その県庁所在地である秋田市に、新たな芸術と文化の創造拠点「あきた芸術劇場ミルハス」が誕生した。
秋田駅から徒歩10分ほど。県民・市民に愛されている千秋公園は、秋田藩20万石佐竹氏の居城、久保田城跡だ。明治時代に公園として整備され、四季折々に移ろう景色が美しい。
2022年6月に開館、9月23日にグランドオープンする「あきた芸術劇場ミルハス」は、その千秋公園の緑を映すお堀端に建つ。
「愛称のミルハスは、そのロケーションと深くかかわっています。ミルハスはフランス語で“千”を意味するmille(ミル)と、千秋公園の蓮(ハス)を組み合わせた造語。“千”には千秋公園の由来でもある“長久”の意味があり、公園内で古代ハスの保存に取り組んでいることも重ね合わせ、永遠をイメージしていています。秋田の文化施設の中核として長く愛され、文化の継承や地域の発展につながってほしいという願いが込められています」
広報担当の下村直也さんは、そう話す。老朽化した県民会館と市文化会館に代わり、県と市が共同で整備する全国的にも例がない県市連携の文化施設だそうだ。
ミルハスは大、中ホールと2つの小ホール、練習室、研修室、創作室を備えた劇場だ。
「なかでも、異なる性格をもつ大ホールと中ホールが自慢です」(下村さん)
2,000人超を収容する大ホールは、東北有数の規模。高い音響性能とステージ機能を持つ多目的ホールで、クラシックや吹奏楽、ポップスなどの音楽のほか、オペラ、ミュージカル、歌舞伎などに幅広く対応する。音響反射板を設置した際には、コンサート専用ホールと遜色ない高質な音響を提供するという。
滑らかな曲線をもつ内壁に、秋田杉の木レンガを使用しているのも大きな特徴だ。その凹凸により、柔らかくブレンドされた豊かな響きが生み出される。
「木レンガを積み上げることによって、秋田の文化史を<層>として表現しているという意味もあります」(下村さん)
こだわりの音響は、ミルハスの設計を担当した佐藤総合計画・小畑設計共同企業体とヤマハの空間音響グループが連携してシミュレーションを重ねることで完成した。
「2,000席という規模を持った大ホールでは、各客席にバランスよく音が届くようにするにはどういった形状にしたらいいか。壁の凹凸が音響にどう好影響をもたらすか。また、側壁の形状やサイドバルコニーの形状、音響庇の追加や舞台反射板の形状などをさまざまに変化させて音響の3次元CADシミュレーションを行いながら、多目的ホールとしての高い音響性能を突き詰めていきました」(佐藤総合計画)
音楽ホールとして使用する場合、その効果を発揮するのが天井に浮かぶ白い円盤だ。まるでホールに漂う“浮雲”のようなそれは、音響反射板と照明を兼ねた大ホールの要ともいえる。客席天井にこの反射板を設けることで、天井から効果的に初期反射音を供給するのだ。
もうひとつの目玉である800席の中ホールは、舞台芸術に適した造りになっている。
「響きよりも舞台でのセリフなどの明瞭度を高める音響を目指した造りです。舞台で発せられた音は音量感を保って客席に届くように壁は反射を大切に、一方で響きが残らないよう天井や床は吸音する設計にしています」(佐藤総合計画)
ミルハスの自慢は、抜群の音響を実現した高揚感あふれるホールだけではない。施設内は秋田らしさと温かみあふれるその魅力をたっぷり感じることができる。秋田杉がふんだんに使用されているほか、ひときわ目を引くのがホワイエに配された巨大な曲げわっぱの意匠。曲げわっぱには秋田の伝統工芸である樺細工や川連漆器がはめ込まれ、秋田各地の伝統工芸がホールとコラボレーションしたデザインとなっている。総合案内にもそれらを組み合わせたデザインを配置。前述の大ホールでは“浮雲”が組子のイメージを持ち、大中ホールのホワイエを仕切るためにイベント時に使われる可動のパーテーションには、細く薄い棒状の木材を組み合わせ、美しい模様を編み出す秋田神代杉の組子細工やそのデザインが使われている。
人々を惹き込むような空間デザインも無比だ。
「ミルハスの建設地は久保田城址であり、県公会堂をはじめ秋田県記念館など多くの文化施設が立地していた大きなポテンシャルを持った土地です。城址と呼応する建物を創ること、歴史を継承する場所をより良い環境に創り直すことが必要だと考えました。そうして、二つのホールを水平庇で覆ったミルハスの姿がつくりだされました」(佐藤総合計画)
大中ホールがそれぞれ固有の存在感を放ちつつ、まわりには、県民・市民、そして観光客までを含んだ人々に開かれた活動スペースを創出。それを象徴するのが水平庇に包まれたホワイエ空間だ。その造りは日本のホールではほとんど類を見ない。大ホールと中ホールのホワイエが仕切られておらず、ホールとして使われていないときは自由に散策できる公園のようなパブリックスペースになっているのだ。“パークホワイエ”というコンセプトで、設計と運営が連携することで実現した空間になっている。これによって、あちらこちらに多様な居場所が生み出されている。例えば、大ホールのホワイエを進むと、お堀や通りを望む土塁レベルの広々としたテラススペースまでつながる。
「ホールで催しがないときも、いつも賑わっている。サードプレイスになることが我々のいちばんの望みです」(佐藤総合計画)
また、下村さんも「周辺の美術館や音楽ホール、商店街とも提携して活気をもたらす役割を果たしていけたら」と意気込みを語る。
ミルハスの音楽部門アドバイザーには、秋田出身でヤマハ吹奏楽団常任指揮者を務める佐々木新平さんと秋田で小学校から一般までの吹奏楽指導に携わる木内恒さんが就任。今回は佐々木さんにコメントをいただいた。
「キャリアを積み重ねていくなかで、秋田に何らかの形で自らの経験を還元したいと思っていたので、それが実現できるチャンスを与えていただきました」と佐々木さん。
2022 年6月5日に行われた開館記念式典では『大いなる秋田』の指揮を務め、秋田吹奏楽団と県合唱連盟のメンバー約210人が演奏・合唱。観客が心を震わせた。
「秋田県民にとって『大いなる秋田』は、フィンランド人にとっての『フィンランディア』のような楽曲。この曲でひとつになれる、そんな曲なのです。今回はミルハスの開館にふさわしく新しい『大いなる秋田』を披露できたと思います」
ホールについても高く評価する。
「ホールはあらゆるダイナミクスに対応できる音響だと思いました。ピアニッシモも非常にクリアに聴こえますし、逆にフォルテは無理に鳴らさなくてもよく響きます。これは県の音楽関係者にも非常によい影響を及ぼすでしょう。より充実した音を作るにはどうすればよいか、吹奏楽に限っては今までの直線的なパワー系の音を考え直す機会をホールから宿題として与えられたと言ってもよいでしょう。また、デザインも秋田杉や伝統工芸の技術もふんだんに使っています。ホールは来場者に非日常を提供する場所でもあるので、入った瞬間に魅了される空間であることはとてもすばらしいことです」
今後、ミルハスに期待することを聞いてみた。
「まずはプロの楽団の定期演奏会を開催するホールであること。2つ目はこどもたちの能力を育む場を提供できること。ジュニアの吹奏楽、演劇、伝統芸能などプロの講師陣が定期的に指導し、次の世代を育む機会を設けたいです。3つ目は、たとえば学校の先生など秋田で芸術に関わる大人のみなさんに技術やアイデアを提供できる場であること。秋田は芸術に熱心な人がとても多いです。そんな方々にその道のプロが相談に乗り、新しいアイデアを提供することによって、県全体の芸術レベルの向上に寄与できると思っています」
多くの人々の期待に包まれて産声を上げたミルハス。これからが楽しみだ。
佐々木新平(ささき・しんぺい)
秋田県出身。東京学芸大学を経て桐朋学園大学にて指揮を専攻。ヨーロッパ各地の国際指揮マスタークラスに選抜され、J.パヌラら巨匠たちの薫陶を受ける。2013年よりミュンヘンへ留学しヨーロッパ各地でさらなる研鑽を積んだ。2012年の第9回、2017年の第10回フィテルベルク国際指揮者コンクールにおいてディプロマ、2015年ブザンソン国際指揮者コンクールにおいて本選最終の8人に選出。これまでに国内主要楽団に客演。2015-19 年東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団アソシエイト・コンダクター。2021 年よりヤマハ吹奏楽団常任指揮者。現在オーケストラ、吹奏楽を中心にあらゆるシーンでその才能を発揮している。あきた芸術劇場ミルハスにおいては音楽部門アドバイザーに就任し、公演事業でのパフォーマンスや地元の様々な芸術文化を発信する重責を担う。
オフィシャルサイトはこちら
所在地:秋田県秋田市千秋明徳町2-52
TEL:018-838-5822
ホール形式:シューボックス形式
席数:2,009席(車椅子常設2席含む)
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文/ 福田素子
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tagged: ホール自慢を聞きましょう, あきた芸術劇場ミルハス, 秋田県
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