今月の音遊人
今月の音遊人:城田優さん「音や音楽は生活の一部。悲しいときにはマイナーコードの音楽が、楽しいときにはハッピーなビートが頭のなかに流れる」
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いよいよ冬本番。この季節、冷え性に悩む人は少なくないだろう。とくに楽器演奏者にとって指先の冷えは深刻だ。指先が冷えてしまう原因や対策、応急処置について、鍼灸師の竹村文近先生にお話を伺った。
身体のなかでも、とくに指先が冷えてしまうのはなぜだろう。竹村先生は、意外な指摘をする。
「私が治療している音楽家の方でも、手にこわばりや痛みを感じている方がいますが、その原因の多くは腰にあるんです。同じように、冷えの原因の大元はほとんどが腰。手の冷えは下半身の冷え。まずは、下半身を冷やさないことが大切です」
服装に気を付けることはもちろんだが、竹村先生が薦めるのが腰にカイロを貼ること。誰でも簡単にできる方法だが、血のめぐりがよくなり、指先の冷え防止にも有効だ。
「お数珠を両手でこするのもいい方法です。常時これをやっていると、手の感覚がよくなり、冷えも解消します。それから、目にもいいですね。目と冷えは一見結びつかないかもしれませんが、目が疲れると背中や腰までこわばり、冷えを引き起こしてしまうのです」
鍼灸治療は、鍼を打つことで「気血水」のめぐりを滑らかにし、身体の組織を活発にする。東洋医学では、「気」とは生命エネルギー、「血」は血液とそれが運ぶ栄養素、「水」は血液以外のすべての体液のこと。そのバランスが悪くなると、冷えにもつながってしまうのだ。
とはいっても、治療に通うのはなかなか……。そんな人にぴったりなのが、貼るだけでセルフケアできる市販のパッチ鍼だ。
「手を中心に、冷えにもっとも効果的な“合谷(ごうこく)”というツボに貼るといいでしょう。合谷は目の疲れや痛み、リウマチなどにも効く万能のツボ。パッチ鍼がなければ、押すだけでも違います」
発表会などの前なら、1週間前に合谷にパッチ鍼を貼り、3~4日前には一度取り、前日にまた貼れば、より効果が期待できる。女性の場合は、さらに三陰交(内側のくるぶしから指4本分上)に貼っておくと下半身もポカポカする。
また、緊張やストレスも自律神経の乱れの原因となり、冷えにつながる。この場合、肩甲骨の内側にパッチ鍼を貼るといいという。
「本番の朝に薦めているのが、バケツに熱めのお湯を張り、手から肘まで浸けることです。手の冷えやこわばりに速効性がありますね」
それでも本番直前に指先が冷えてしまったときの応急処置としては、手首、足首を回して関節を緩めること。これで血流が促される。
しかし、何よりも大切なのは、日々の生活のなかで身体を冷やさないように工夫することだ。竹村先生がぜひ実践してほしいと話すのが、自分のペースで歩く時間をつくること。
「ウォーキングだとか気合を入れず、1日20~40分歩くだけでいい。理想的には2日歩いて1日休むというパターンです。歩くことは呼吸をすること。自分なりの歩き方ができるようになれば、自分の呼吸がわかってきます。呼吸することで新陳代謝も高まり、手首、足首が柔らかくなって冷えを防ぎます。音楽家の方なら、“自分の呼吸”は“自分の演奏”につながっていくはずです」
呼吸は、本番前のストレスやプレッシャーを吐き出す上でも重要。さらに、腹式呼吸ができるようになれば、冷えの症状もだいぶ違ってくるという。
また食事については、菜食中心の食事が理想的だが、女性の場合はとくに身体を冷やすおそれがある生野菜の摂取はほんの少量でいい。
そして、もっとも重要なのは「自分の身体を意識し、知ること」と竹村先生は力を込める。身体はすべてつながっている。冷え対策をはじめセルフケアをすることは、身体をよりよく組み立てていくことになる。自分の身体を知り、その使い方がわかれば、演奏をはじめさまざまなパフォーマンスが向上するはずだ。
鍼灸師。ライフワークはチベット、ヒマラヤ、南米アンデスなどの辺境地を歩き、先住民や僧侶たちに鍼灸治療を施すこと。主な著書は『はり100本 鍼灸で甦る身体』(新潮新書)、『はりは女性の味方です。』(平凡社)、『打てば響く 音(おと)の力、鍼(はり)の力』(NHK出版/大友良英・共著)など。最新刊は『鍼灸 本当に学ぶと云うこと』(医道の日本社)。ヤマハの会員誌「音遊人」でエッセイ「カラダに効く音楽」を連載中。