今月の音遊人
今月の音遊人:三浦文彰さん「音を自由に表現できてこそ音楽になる。自分もそうでありたいですね」
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ここ数年、じわりと広がりを見せているドラムサークル。初めて耳にする人は、いわゆるサークル活動を思い浮かべるかもしれないが、否。参加者が輪(サークル)になり、打楽器を即興で演奏するというものだ。
ドラムサークルには楽譜もなければ、失敗も間違いもない。参加者が思い思いに演奏し、一期一会のセッションをつくりあげていく。
とはいっても、初対面の人々があうんの呼吸でアンサンブルをするのはなかなか難しい。そこで、ファリシテーターと呼ばれるサポート役が参加者をリードしていく。さらに、リズムキープ役である低音ドラムのビートに乗って自由に叩くうち、自然とみんなが協調。一体となったグルーヴが生まれていく。
古来より人々は集まり、太鼓などの鳴り物でリズムを分かち合い、歌や踊りを楽しんできた。それが、ドラムサークルの起源とされる。
現在のドラムサークルは、カリフォルニアでヒッピーたちが集まり、自由なスタイルでドラムを叩いていたのが原点だ。ファシリテーターがいるドラムサークルを始めたのは、著名なパーカッショニストであるArthur Hull(アーサー・ハル)氏。
とにかく楽しい!それがドラムサークルの大きな魅力。さらに、音とリズムを使って心の扉を開き、人と人とをつなげる。他人を受け入れると同時に、自分が承認されていることを音を通じて感じ取ることができる。コミュニケーション能力の向上や創造性・自主性の開発、ストレスケア……。ドラムサークルにはさまざまな効果が期待されおり、日本には2000年に導入され、イベントや教育現場、各施設、企業など多彩な場所で行われている。
「どんな効果を目的とし、誰を対象とするかによって、それぞれ違ったアプローチが必要になりますが、どういうアプローチになるかはファシリテーター次第です」
ドラムサークル活動を支援するドラムサークルファシリテーター協会(以下、DCFA)理事の飯田和子氏はそう話す。
DCFAでは、対象者をさまざまな障がいを持つ方に焦点を当て、健康に特化した「ドラムサークルforウェルネス」というカテゴリーを掲げている。心と身体の健康にフォーカスしたもので、ときには医療機関とタッグを組み、身体障がい・精神疾患を持つ方や高齢者などの健康を保つため、あるいはリカバリーやケアとしてドラムサークルを活用。高齢者大学などでの生涯学習として行われることもある。
「ストレスケアのために導入する精神科クリニックもありますし、うつ病の方の社会復帰や自閉症の方のプログラムとしても使われています。共通しているのは、言葉を使わないコミュニケーションだということ。リズム、音を使っての自発的表現をみんなに共感してもらえる。それがドラムサークルの魅力のひとつです」とDCFA理事の三原典子氏。
「ドラムサークルforウェルネス」の2019年のテーマは、「高齢者の健康」だ。飯田氏によれば、ドラムサークルは「高齢化社会を迎えている日本で、彼らが孤独から抜け出して尊厳を保ち、本来のその人らしさを取り戻せるツール」だという。
2019年11月に開催された「ドラムサークルforウェルネス」のセミナーでは、飯田氏が認知症対応型生活介護施設グループホームにおける実践例を紹介。REMOファシリテーターのLisa Colleen(リサ・コリーン)氏はドラム、運動、歌を用いた自身考案のオリジナルプログラムを直伝した。
「私は、現場ではドラムサークルの導入とエンディングに歌を用いています。歌だけでも一体感が生まれるし、声を出すのには肺を使うので健康にいいんです。また、素手で太鼓を叩くことによる指先刺激で血流がよくなり、脳の活性化にもつながります。はじめは表情が乏しくてどんよりしていた方が、頬を染めるほど高揚していき、最後には笑顔になるという変化もありました。施設長の言葉を借りれば、ドラムサークルには“マジック”があるそうです」(飯田氏)
医学的には、脳内セロトニンの活性化により、心身のバランスがとりやすくなることが、東邦大学医学部名誉教授・有田秀穂氏の研究により実証されているという。
また、施設で暮らす高齢者の精神的な不安は孤独からやってくることが多いが、音でつながり合うことでその孤独感を薄れさせる効果も。さらに、太鼓を叩くことでもやもやとした気持ちを発散させ、「あー、すっきりした!」という人も少なくないそう。
「こうしたことが可能なのは、太鼓だけ。そしてREMO(レモ)が誰でも音が出せる打楽器をつくってくれたことによって、ドラムサークルが万人のものになりました。コンガやボンゴは、いい音を出すのはとても大変。和太鼓はバチが必要で、技術が求められます。REMOの楽器は握力がなくても、誰でも指1本で音が出せるんです」(飯田氏)
REMOはドラムヘッドで世界を牽引してきたアメリカの老舗打楽器メーカー。ドラムサークルで使われている同社の「トゥバーノ」などの打楽器は、従来の動物皮ではなく合成ポリエステルフィルムを、また木胴のかわりにリサイクルファイバーを樹脂で加工した素材を使用している。REMOもまた、世界中でドラムサークルを広げる活動をサポートしているのだ。
「ドラムサークルの効果は十人十色で、さまざまな着地点があります。でも太鼓を叩くことは人類のDNAに刻印された本能であり、現代版のコミュニケーション形成の場になっていると思います」
DCFA理事の妹尾美穂氏のそんな言葉に、今ドラムサークルが注目されている理由がありそう。百聞は一見にしかず、だ。機会があれば、ドラムサークルを体験してみてはいかがだろう。
ドラムサークルファシリテーター協会(DCFA)は、会員のドラムサークル活動を支援、バックアップするための組織です。ファシリテーターとしての技術向上のための研修・認定制度・イベント企画制作や全国会員相互の情報交換、親睦の場を提供します。また世界的にドラムサークル活動を推進、支援している米国打楽器メーカーREMO社の公認組織です。
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