Web音遊人(みゅーじん)

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

一期一会の音楽を生み出すガイド役/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

ドラムサークルとはその名の通り、参加者が輪になって打楽器を即興で演奏するというもの。楽譜はなく、各自が好きなリズムで自由に音を出していく中で、一期一会のセッションとなってゆく。そのサポートをするのがドラムサークルファシリテーター(以下ファシリテーター)だ。打楽器奏者として第一線で活躍しながら、ファシリテーターとしても全国で活動し、育成にも尽力している橋田“ペッカー”正人さんにお話を伺った。

日本にドラムサークルが導入されたのは2000年のことだが、ペッカーさんは40年ほど前にその前身ともいえる活動に出会っていた。アメリカのサンフランシスコで音楽を学んでいた頃、カリフォルニア大学バークレー校の庭で土日になると大勢の人が自由に楽器を叩いていた。「僕は“アホな集団”と名づけていたんですけど、その中によく入っていって一緒に楽しんでいました」という集団が、現在のドラムサークルの原点だったのだ。
帰国後、プロのミュージシャンとして自らのバンドを率い、また数多くのミュージシャンのレコーディングやツアーにも参加してきた。そして2000年、日本でドラムサークルを導入しようとしていたヤマハ(現ヤマハミュージックジャパン)から協力を求められる。そこには、ヤマハが取り扱うアメリカの打楽器メーカー・REMO社がドラムサークルの効用と可能性にいち早く注目し、既に研究開発と啓蒙活動を進めていたという背景があった。
「カリフォルニアでやっていたあれだとピンときました。僕はずっとサルサバンドをやっていたのですが、ラテン音楽は“歌を聴いて”というよりは、みんなで楽しくなろうよというもの。一緒だなと思ったんです」

実際にドラムサークルをやってみてその音楽性の深さに共感し、真摯に取り組むことを決意。2004年にREMO社公認団体としてドラムサークルファシリテーター協会を設立し、理事長に就任した。

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

初めて叩く人でも簡単に、自由に音を出せるのが打楽器の良さ。ドラムサークルでは、まわりの音を聴きながら叩いているうちに自然とアンサンブルが生まれる。

ドラムサークルはどのように行われるものなのか、ある日の現場を訪ねた。アフリカの太鼓・ジャンベやサンバで使われるスルドにタンバリン、トライアングルなど、大小さまざまな打楽器を、会場の円形に並べた椅子にセット。ペッカーさんによれば「音が鳴るものなら何でもいいんですよ」とのこと。
時間になると自然と誰かが叩きだして演奏が始まった。リズムや叩き方は人それぞれで、だんだんと全員の出す音が大きくなってくる。と、ファシリテーターのペッカーさんが立ち上がり、輪の中心で右手を上げ、左手を下げる。すると、右側の人は大きく叩いて、左側の人は音を小さくし始めた。ペッカーさんが両手を上げると全員が大きな音を出し、両手を下げると全員が小さく叩く。ファシリテーターは身振り手振りで参加者を導いてゆく。最初はとまどいがちに叩いていた人も、だんだんと笑顔に。全員が盛り上がったところで、ペッカーさんが拍手をして一度目のセッションは終わった。
「ドラムサークルとは、参加しているみんなで自然に作り上げるアンサンブルのこと。上手に叩くのが目的ではなく、みんなで『楽しいよね、よかったね』と感じられればそれでいいんです」

打楽器の即興演奏を楽しむドラムサークルの普及に努める/ドラムサークルファシリテーターの仕事(前編)

(写真左)叩き続けているうちに、それぞれのリズムがシンクロして一体感が生まれる。(写真右)笛などでメロディを奏でて変化をつけることも。

「実は日本にも古くからドラムサークル的なものはあるんです」とペッカーさんは話す。盆踊りがまさにそう。みんなで輪になって歌ったり踊ったり、楽器を鳴らしたりする。そこにファシリテーションという役割を導入したのが近代のドラムサークルなのだという。ファシリテーターは指揮棒を持たない指揮者にも思えるが、ペッカーさんは異を唱える。
「みんながすごく楽しんで、終わったあとに『あれ、ファシリテーターはいたのかな』と感じられるのが、本当のファシリテーターなんです。みんながポコポコ打って、和気あいあいとやっているときには入っていきません。あぁ、このあとどうなるのかな?という不安な雰囲気になってきたら入っていく。あくまでもみんなを導くガイド役なんです」
ゆえにファシリテーターとして活動するときは、「サーブする」、つまりホスピタリティを持って奉仕する気持ちを大切にしているのだという。加えて「人を見ること」もポイントにあげる。一人で演奏できそうな人がいたらその人に叩いてもらって場を盛り上げるなど、緩急をつけることでドラムサークル全体が素晴らしいものになるのだ。

>続きをみる

 

特集

辻󠄀井伸行

今月の音遊人

今月の音遊人:辻󠄀井伸行さん「ピアノは身体の一部、大切な友だちのようなものです」

4792views

音楽ライターの眼

連載27[ジャズ事始め]アメリカへ渡った渡辺貞夫をトリコにした甘口&ポピュラー路線のジャズ

3828views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

15157views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

64397views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

12992views

アカネキカク akaneさん

オトノ仕事人

楽曲のイメージをもとに、ダンスの振りを考え、演出をする/振付師の仕事

3791views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

14067views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4415views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

13447views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

6696views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

6431views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34868views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

11679views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

13447views

塩谷哲

音楽ライターの眼

内なるポリフォニーが導くジャズピアノの展開力/塩谷哲 PIANO CONCERT 2023

3109views

オトノ仕事人

プラスマイナス0.05ヘルツまで調整する熟練の技/音叉を作る仕事

39260views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

6318views

P-515

楽器探訪 Anothertake

ポータブルタイプの電子ピアノ「Pシリーズ」に、リアルなタッチ感が得られる木製鍵盤を搭載したモデルが登場!

36484views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

17109views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

9585views

サクソフォンの選び方と扱い方について

楽器のあれこれQ&A

これからはじめる方必見!サクソフォンの選び方と扱い方について

61607views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8041views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11745views