Web音遊人(みゅーじん)

2019年4月、エリック・クラプトン来日。アメリカからイギリス、そして日本に流れ込むブルースの潮流

2019年4月、エリック・クラプトン来日。アメリカからイギリス、そして日本に流れ込むブルースの潮流

エリック・クラプトンが2019年4月、来日公演を行う。

“LIVE at BUDOKAN 2019”と題された今回の来日はタイトル通り、4月13日(土)から20日(土)にかけて東京・日本武道館で全5公演を行うというものだ。1945年3月30日生まれのクラプトンは公演時には74歳。古希と喜寿の狭間にある大ベテランであり、 前回、2016年4月の来日時には「これが見納めとなるのでは……?」とファンを心配させたが、ちょうど3年ぶりに日本に戻ってくることになった。

さすがに近年のツアー日程は絞りぎみとなっている彼だが、前回同様、今回も武道館5回公演。2018年10月、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンの2回、2019年5月、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールの3回という公演数を上回る。そんなあたりからも、クラプトンの日本のファンへの特別な想いが伝わってくる。

1974年10月に初来日公演を行ってから、日本で200回以上のライヴを行ってきたクラプトンだが、それ以外に“お忍び”でも訪れてきた。総合格闘技イベント“PRIDE”の観客席にいるのをスクリーンに映し出されて、場内を騒然とさせたこともある。

日本のファンにとっても、クラプトンは特別な存在だ。ブルースを基調とする音楽性のアーティストでは4月にジョン・メイヤー、6月にテデスキ・トラックス・バンドが来日公演を行う。どちらも日本で絶大な人気を誇るが、武道館5回という公演回数からしても、やはりクラプトンは“別格”だ。

20世紀初頭にアメリカ黒人の中で生まれたブルース音楽を現代に伝える代表アーティストがクラプトンだといえるだろう。ただ興味深いのは、ブルースのアンバサダーである彼がアメリカでなくイギリス出身だということである。

イギリスにおいて、ブルースは独自の進化を遂げてきた。一足先、1930年代初めにジャズ・ブームが起こり、数多くのアメリカ人ミュージシャンが訪英したため、イギリス人ミュージシャンの仕事が奪われるという、音楽家労働組合からのクレームがあった。彼らの主張が通って、1935年にはビザの発給条件が厳しくなり、“本場”のジャズ・ミュージシャンのライヴ演奏を聴くことが困難になった。そんな規制は音楽ジャンルを問わず行われたため、ブルース・ミュージシャンにも当てはめられた。

それが関係したのかしなかったのか、レッド・ベリーは1949年にヨーロッパを訪れ、フランスで公演を行っているが、イギリスのステージに立つことはなかった。

ただ、この規制には“抜け道”があった。アコースティック・ギター弾き語りのフォーク・ブルースマンは“ミュージシャン”でなく“芸人 variety artist”と分類されたため、問題なくライヴを行うことができたのだ。1950年7月にジョシュ・ホワイトが訪英、数回ライヴを行っており、好評を得て翌1951年2月には全英縦断28回の公演を行っている。

さらに1951年9月にはビッグ・ビル・ブルーンジーが初渡英。洗練されたホワイトと比べて生々しい“ど”ブルースの彼は熱狂的に受け入れられ、1953年・1955年・1957年にも英国ツアーを行った。

ロニー・ジョンソンも1952年7月にイギリス公演を行っているが、バラード中心の選曲があまり受けなかったと報じられている。なお、このとき前座を務めたトニー・ドネガン・ジャズ・バンドのリーダー、トニー・ドネガンはロニーにちなんでロニー・ドネガンと名乗り、レッド・ベリーのカヴァー「ロック・アイランド・ライン」のヒットでイギリス全土にスキッフル・ブームを巻き起こす。そんな若手スキッフル・バンドのひとつ、ザ・クォリーメンが発展して結成されたのがザ・ビートルズである。

1950年代後半以降、ブルースにエレクトリック楽器が使われることが多くなった。1957年のシスター・ロゼッタ・サープ、1958年のサニー・テリー&ブラウニー・マギー、マディ・ウォーターズらの公演はエレクトリック・バンド編成で行われた。

労働組合による規制とブルースの電化/バンド化は、独自の進化をイギリスのブルースにもたらすことになる。“ブリティッシュ・ブルースの父”と呼ばれるクリス・バーバーは自らがミュージシャンだったのと同時に、プロモーターとしてアメリカのブルースメンを招聘。バックにイギリス出身の若手ミュージシャンをあてがったのである。1963年12月に訪英したサニー・ボーイ・ウィリアムソンのバックを務めたのが、若き日のクラプトンを擁するヤードバーズだった。

ヤードバーズの花形ギタリストとなったクラプトンだが、バンドのポップ化を嫌って脱退。シリル・デイヴィスやアレクシス・コーナーと共にブリティッシュ・ブルースの礎を築いたジョン・メイオールと合流する。メイオールのアルバム『ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』(1966)は全英ヒット・チャートの10位となり、1960年代後半のブリティッシュ・ブルース・ブームへの起爆剤となった。

その後、クラプトンはクリームのハード・ロック、デレク&ザ・ドミノズのアメリカ南部志向、『MTVアンプラグド』でのアコースティック路線などを経ながら、常にブルースに根差した活動を行ってきた。

日本のミュージシャンも、クラプトンから多大な影響を受けてきた。ブルース・クリエイション(後にクリエイションと改名)のアルバム『ブルース・クリエイション』(1969)にはアメリカ黒人ブルースのカヴァーが収録されているが、いずれもクラプトンなど白人ブルースを経由した“孫カヴァー”である。

アメリカからイギリスへと流れ込んだブルースの潮流は、日本にも繋がってきた。2019年4月の来日公演は、クラプトンの半世紀にわたるブルースの旅路の集大成となる。

■ツアーインフォメーション

『ERIC CLAPTON LIVE at BUDOKAN 2019』
4月13日(土)18:00開演(17:00開場)
4月15日(月)/17日(水)/18日(木)19:00開演(18:00開場)
4月20日(土)17:00開演(16:00開場)
場所:日本武道館
料金:S席15,000円 / A席14,000円(税込)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:佐渡裕さん「音楽は、“不要不急”ではない。人と人とがつながり、ともに生きる喜びを感じるためにある」

8585views

ブラック・サバス

音楽ライターの眼

ブラック・サバスのトニー・マーティン期作品を収録したボックスが発売

3581views

REVSTAR

楽器探訪 Anothertake

いまの時代に鳴るギターを目指し、音もデザインも進化したエレキギターREVSTAR

9318views

フルート

楽器のあれこれQ&A

初心者にもよくわかる!フルートの種類と選び方

24525views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

10498views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

4761views

サントリーホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

クラシック音楽の殿堂として憧れのホールであり続ける/サントリーホール 大ホール

26462views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

7296views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

26494views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

6664views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

9640views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35008views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

8469views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

37178views

音楽ライターの眼

連載27[ジャズ事始め]アメリカへ渡った渡辺貞夫をトリコにした甘口&ポピュラー路線のジャズ

3862views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

楽器のデモンストレーション、解説、管理までをこなすマルチプレイヤー/楽器博物館の学芸員の仕事(前編)

13311views

われら音遊人:高度&骨太なサウンドにソウルフルな歌声が響く!

われら音遊人

われら音遊人:高度&骨太なサウンドにソウルフルな歌声が響く!

1238views

楽器探訪 Anothertake

ナチュラルな響きと多彩な機能で電子ドラムの可能性を広げる、新たなフラッグシップモデルDTX10/DTX8シリーズ

5567views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

13425views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8925views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

12706views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

4153views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28214views