Web音遊人(みゅーじん)

ローリー・ブロックが偉大なるブルース・ウィメンに捧げるアルバム『プルーヴ・イット・オン・ミー』を発表

アメリカの女性アコースティック・ブルース・ギタリスト、ローリー・ブロックが2020年4月、ニュー・アルバム『プルーヴ・イット・オン・ミー』を発表した。

1949年、ニュージャージー州プリンストンに生まれたローリーは、ニューヨークのフォークやミシシッピのブルースのシーンに身を投じ、“生”のギター・スタイルを修得。1970年代からソロ・アーティストとして成功を収め、“ブルース・ミュージック・アワード”を6回受賞するなど、人気と実力を兼ね備えたキャリアを築いてきた。

数多くのオリジナル曲を発表、ソングライターとしても高い評価を得てきたローリーだが、近年、彼女は自作曲よりも偉大なるブルース・プレイヤーの音楽を現代、そして後世に伝える活動に従事している。

過去にもブルースの名曲をカヴァーすることのあった彼女だが、2006年に発表した『The Lady And Mr. Johnson』はアルバム全曲がロバート・ジョンソンのナンバーで占められていた。続いて彼女は直接影響を受けた“メンター(師匠)”シリーズを開始。サン・ハウス、ミシシッピ・フレッド・マクダウェル、レヴェレンド・ゲイリー・デイヴィス、ミシシッピ・ジョン・ハート、スキップ・ジェイムズ、ブッカ・ホワイトの楽曲をプレイするトリビュート・アルバムを1枚ずつ発表している。(ちなみにロバート・ジョンソンは直接面識がないため、シリーズには含まれていない。ブッカ・ホワイトは「一度隣に座ったことがある」程度の関係のため、当初はシリーズに含まれないはずだったが、現在ではシリーズの1枚と見做されているようだ)

それに続いて彼女がスタートさせたのが“パワー・ウィメン・オブ・ザ・ブルース”シリーズだ。

「ブルースは“悪魔の音楽”とされて、男性ですら色眼鏡で見られた。女性が旅をしながらブルースを歌うことに対する偏見は、想像を絶するものだった」とローリーは語っているが、そんな偏見と戦ってきたブルース・ウィメンの音楽と人生へのセレブレーションとして、まず第1弾としてベッシー・スミスに捧げる『ア・ウーマンズ・ソウル/ア・トリビュート・トゥ・ベッシー・スミス』が2018年に発表された。

そして2020年、シリーズ第2弾アルバムとして発表されたのが『プルーヴ・イット・オン・ミー』である。

これまでの“メンター”シリーズと“パワー・ウィメン・オブ・ザ・ブルース”シリーズではアルバム1枚ごとに1アーティストを特集してきたが、今回は全10人のアーティストによるブルース・ナンバーを1曲ずつピックアップしている。

マ・レイニーの「プルーヴ・イット・オン・ミー・ブルース」やメンフィス・ミニーの「イン・マイ・ガーリッシュ・デイズ」など、それなりに知名度のあるブルース・ウィメンの楽曲はあるものの、いわゆるスタンダード曲は無し。1920年代から1940年代にSP盤で発表された曲を中心に選曲している。ヘレン・ヒュームズwithビル・ドゲット・オクテットが1945年に発表した「ヒー・メイ・ビー・ユア・マン」やマドリン・デイヴィスの1928年の「イッツ・レッド・ホット」、ロゼッタ・ハワード、アリゾナ・ドレインズ、ロッティ・キンボローなどなど、豊潤なる女性ブルース音楽への扉を開いてくれるアルバムだ。

もちろん、いずれもローリーならではのフィルターを通したアレンジが施されており、オリジナルにはギターが入っていなかったり、バッキングのみの曲も少なくない。また、彼女のオリジナル曲「イーグルス」も収録されている。

また、全10曲中4曲で“母親の喪失”が歌われているなど、アルバムとしてのトータル性があるのも、本作を単なるカヴァー・アルバムと一線を画する作品たらしめている。

このアルバムを発表してツアーを開始する予定だったローリーだが、新型コロナウイルスの猛威で多くの公演が延期/中止に。彼女は“ホーム・コンサート”シリーズと題して自宅からアコースティック・ライヴを定期的に行い、ウェブキャストで公開している。

今後“パワー・ウィメン・オブ・ザ・ブルース”シリーズでどんなアーティスト、どんな楽曲がレコーディングされるか?楽しみでならない。

70歳を迎えてさらに輝きを増すアコースティック・ギターとヴォーカル。ローリーこそが現代の“パワー・ウーマン・オブ・ザ・ブルース”である。

■アルバムインフォメーション

『プルーヴ・イット・オン・ミー』

発売元:BSMF RECORDS
発売日:2020年4月22日
料金:2,400円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

生田絵梨花

今月の音遊人

今月の音遊人:生田絵梨花さん「ステージに立つと“音楽って楽しい!”という思いが、いっそう強くなります」

10378views

音楽ライターの眼

イタリアン・シネマチック・ファンク・バンド、カリブロ35が新作アルバム『モーメンタム』を発表

2928views

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

楽器探訪 Anothertake

【動画】「楽しさ」をまるごと運ぼう!「ELC-02」の分解、組み立て手順

18676views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!トランペットをうまく鳴らすコツと練習方法

125656views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17540views

オトノ仕事人

子ども向けコンサートを企画し、音楽が好きな子どもを増やす/コンサートプロデューサーの仕事

8644views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

7061views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11018views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15186views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブル仲間が集う仲よしサークル

9810views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8826views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26121views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8564views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20133views

Even Hell Has Its Heroes

音楽ライターの眼

伝説のドローン・バンド、アースを題材にした映画が海外公開。ニルヴァーナにも多大な影響

5519views

オトノ仕事人

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

3533views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

8404views

楽器探訪 Anothertake

ピアノならではのシンプルで美しいデザインと、最新のデジタル技術を両立

6798views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

12044views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5788views

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

楽器のあれこれQ&A

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

39157views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10080views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10373views