今月の音遊人
今月の音遊人:小曽根真さん「音楽は世界共通語。生きる喜びを人とシェアできるのが音楽の素晴らしさ」
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四ツ谷駅から右手に桜並木、左手に上智大学を見ながら5分ほど行くと、左手奥に見えてくる紀尾井ホール。かつてここに尾張藩の江戸屋敷があったことから、紀伊徳川、尾張徳川、井伊彦根の1字を取ってついた地名がホール名となった。歴史と文化の香り漂う、静かなたたずまいのなかで音楽を堪能できる場所。それが紀尾井ホールだ。
ホールの扉を入ると、木のぬくもりに包まれたような感覚とホール全体のシックな色調に、思わず深呼吸をしたくなる。素材と構造にこだわり、高度な建築技術を駆使して作られた静寂と響きは、ここが都心であることをすっかり忘れさせてくれる。
オープンは1995年。5年間にわたるヨーロッパ各地の名ホール研究の結果をもとに、シューボックス形式、800席という基本設計が採用されたのは、バロックから古典派の時代の「本物の響き」をリアルに再現するうえで最適とされたから。
この「本物の響き」をコンセプトに活動するのが、レジデント・オーケストラである「紀尾井シンフォニエッタ東京」。開館と同時に結成された二管編成の室内オーケストラで、今や主要オーケストラの首席奏者やソリストなど、第一線で活躍する演奏者たちとなったメンバーで構成される。1シーズン5回行われる定期演奏会はすでに105回(2016年6月時点)。毎回、注目の指揮者やソリストを迎え、数々の名演を生み出してきた。
ホールの響きを知り尽くしたオーケストラが奏でる音は、ホールと一体となった、まさにここでしか聴けないもの。もちろん、リサイタルや室内楽など、年間を通してさまざまなコンサートにも利用され、多くの演奏家にとって目標の舞台ともなっている。さらに、クラシック音楽ファンには意外に知られていない邦楽専用ホール(5階)も、ぜひ一度は訪れたい場所。響きはもちろん、迎賓館赤坂離宮を臨むホワイエからの眺めも絶品だ。
洋の東西を問わず、音楽と人とが出会う紀尾井ホール。その運営母体である新日本製鐵株式会社(現・新日鐵住金株式会社)は、私たちの暮らしの礎を築いてきた歴史ある鉄鋼会社。音楽もまた人が生きるうえで「なくてはならないもの」であり、そこには共通点がある。
民間放送AMラジオ初のクラシック専門番組「新日鉄コンサート(当初はフジセイテツコンサート)」を1955年にスタートし、長年にわたって若手音楽家を世に送り出し、新日鉄住金音楽賞(旧新日鉄音楽賞)を1990年に創設、その5年後に音楽ホールを作るに至る壮大な音楽文化創成のストーリーは、20周年を機に始まった新たなチャレンジとともに、さらなる未来へと続いていく。
(写真左)天井はガラス繊維補強セメントという素材でできていて、音を拡散し、響きを自然に減衰させて客席を包み込む効果がある。(写真右)舞台や客席は、根太(ねだ)組という構造により床下が空洞になっており、ホール全体で響きの空間を作っている。
所在地:東京都千代田区紀尾井6-5
TEL:03−3237−0061
ホール形式:シューボックス形式
席数:800席(1階/522席、2階/278席)
文/ 芹澤一美
tagged: ホール自慢を聞きましょう, ホール, 紀尾井ホール
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