今月の音遊人
今月の音遊人:世良公則さん「僕にとって音楽は、ロックに魅了された中学生時代から“引き続けている1本の線”なんです」
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YouTubeチャンネルの登録者数115万人越え、動画総再生数3億回以上(2020年10月現在)という、人気YouTuberのよみぃさん。ストリートピアノでのパフォーマンスを中心に、ピアノの演奏動画を配信する“ピアニストYouTuber”として活動している。動画内では、流行のJ-POPなどを中心に演奏する傍ら、オリジナル曲も発信。彼のピアニストとして、さらには作曲家としての一面を取材した。
よみぃさんはこの日、ヤマハ コンサートグランドピアノ『CFX』を弾いての動画収録を行っていた。CFXの感触を確かめるようにしながら、慎重なタッチで弾き始めた曲は、Official髭男dismの『Pretender』。丁寧に紡いだ音が放たれて、室内は美しく儚なげな空気に満ちていく。
「今日は観客の方はいらっしゃらないですが、演奏するとき、とくにストリートピアノでは、可能な限り聴いてくださる方とコミュニケーションを取るようにしています。会話をしながら演奏することもありますよ」
聴く人との交流を大切にしているよみぃさんは、ピアノに対しても同様で、丁寧に対話をしながら演奏しているようにうかがえる。続いて軽快に弾き始めたのは、米津玄師の『感電』。原曲は、多彩な楽器の音が絡まり合う色彩豊かな曲だが、なんとこの楽曲をピアノ一つで見事に表現しきる。
「カバー曲を演奏するときは、常に頭のなかで原曲が鳴っているので、それをアレンジしながら表現していきます。あとは、音をうるさく鳴らしすぎないように気をつけています。例えば楽譜に“メゾフォルテ”記号が出てきたとしても、それぞれの楽曲によって強さは異なると思うんです。その曲に寄り添った強弱をつけることが大切かなと思っています」
そう語りながら次に弾き始めたのは、あいみょんの『裸のこころ』。しっとりと柔らかく、女性的な音で表現され、さきほどとは別の楽器を弾いているのかと思うほど音の印象が一変した。CFXは、演奏者の弾きかたによって多彩に無限に音色(ねいろ)が変化する。そのCFXの音色と、よみぃさんの繊細な表現力が重なり合い、美しいコラボレーションとなった。
ピアニストに留まらず作曲家としても活躍しているが、初めて取り組んだのは15歳のときだという。「その頃、音楽ゲームの『太鼓の達人』にどっぷりはまっていたのですが、プロアマ問わず『太鼓の達人』の楽曲を公募するコンテストがあったんです。当時、作曲経験はまったくなかったですし、コードの知識も少なかったのですが、“こんな曲でゲームしてみたいな”という気持ちで作った曲が採用されたんです。その後も『太鼓の達人』のプロジェクト内でいくつか曲を作らせていただきました。中学生ながら、楽曲制作の締め切りに追われる経験もしました(笑)」
このときに作曲した『D‘s Adventure Note』は、彼のYouTubeチャンネルで聴くことができるのだが、中学生が作ったと思えないほどクオリティが高い。その音楽センスの秘密をこう語る。
「2~3歳のころから、積み木などは与えてもらえず、代わりにピアノで遊んでいました。どんな遊びかというと、聞こえてきた音をピアノで鳴らして当ててみるというゲームです。音が当たった時や綺麗にハモった時に脳内に気持ちのいい物質が出るような気がしてその遊びを繰り返していました。その中で自然と音感と和声の力が身についたんだと思います。でも、小学校1年生の歌の授業のときに、その気持ちいい音程をつくってひとりだけ対旋律を歌っていたら、先生には音が楽譜とズレてるって怒られちゃいましたけど(笑)。そのころから、対旋律やハモリが恋しくて街でかかっている曲のハモリの部分をよく聴いていたので、3度や6度の音楽的に綺麗なハモりが瞬時に作れるようになりましたね」
また、4歳のころからはピアノ教室に通い、高校在学中には音楽大学受験用の理論も学んだという。大好きな音楽を自由な発想で探求しながらも、確かな理論も並行して学び感覚 を磨いていった。特にポップスやゲームミュージックをたくさん聴き、どういった構造で楽曲が作られているかを独自の視点で考察していたのだと教えてくれた。
「僕はヒットしている曲を耳コピするのですが、一度聴けばコード進行を覚えることができるんです。 そうして覚えた 曲の数が増えていくと、楽曲の共通点から、例えばコード進行の法則など、どういったことが正解とされているかが次第にわかるようになってきて。後々教科書を開いてみると、全く同じことが書かれていたりするんですけど、僕の場合は曲を聴きながら自分でひも解いていく方法が合っていたように思います」
幼少期に鍵盤に触れながら音を覚えていったように、曲の構造もひとつひとつ確かめながら自分のものにしていったという。
このように作曲は独学だというが、実際にはどのようにして楽曲を作っているのだろうか。
「楽曲制作ソフトを使っていますが、ピアノを主体にして曲を作ることが多いですね。テンポは174くらい、16分音符で、ゲームに出てくるような、音数が多くてわりと複雑な曲を作ります。初めて作った『D‘s Adventure Note』のときは、楽曲制作用のMIDIキーボードを持っていなかったので、作りたい曲を頭のなかで鳴らしたり、実際のピアノを弾いたりしながら、ひとつひとつ音を手作業で入力して作っていきました。いまは機材も充実しているので想像している曲をMIDIキーボードで弾けば、それがそのまま楽譜になるという感じです」
華麗な演奏パフォーマンスが人気のよみぃさんだが、演奏活動を行うなかで、ピアニストとしての技術的な面も今まで以上に磨きがかかっているという。
「観客の方からリクエストを数曲いただき、それをすべて繋げて弾く、というパフォーマンスを行っていますが、曲の繋ぎがスムーズになるように移調する訓練をしています。曲どうしの調が異なると当然、繋げて弾くのは難しいですよね。ですが、瞬時に判断して、いつの間にか次の曲に変わっているように弾いています。これがなかなかおもしろいんですよ。そのためにどんなことをしているかというと、まずある曲を元の調で弾けるようになったら、今度はさまざまな調に移調して弾いていきます。遠い調にすればするほど難しいですが、その訓練をしておくことで曲を繋げる反応が速くなるんですよ。パフォーマンス技術を上げると観客の皆さんが喜んでくれるのでうれしいですし、まだまだ自分ができる幅を広げていきたいと思いますね」
Q.子どもの頃になりたかった職業は?
A.小学生の時は学校の先生になりたいと話していたのですが、将来の夢についてパソコンで調べる授業では、見たかった動画を見るために将来の夢は“ペン回し協会に入る”と書いて提出し、授業中に難しい技の動画を見ていた記憶があります。
Q.プライベートではどんな音楽を聴いていますか?
A.流行の曲が多いです。J-POPが好きで、米津玄師さんはよく聴いています。あとは中島みゆきさんとか、親世代の曲も聴きますね。ほかにも、スパニッシュギターの音楽も好きですし、海外のテクニシャンの動画を見て、プロの奏法を盗んでいます(笑)
Q.お休みの日は何をしていますか?
A.動画編集や音源作りが結構忙しく、休日にこそピアノを弾くことが多いです。練習というよりも、癒されるために弾いています。ほかにも歌を歌ったりしています。東京はカラオケを歌いに行くにも値段が高いので、家にある機材で伴奏を作ってひとりカラオケを楽しんでいます。
Q.今後チャレンジしてみたいことはありますか?
A.ピアノだけでなく、いろいろな楽器を弾いてみたいです。以前動画収録でマリンバをやってみたことがあるのですが、太鼓の達人で培ってきた速打ち経験のおかげもあり、初めてながらプロの方にもお褒めいただきました。普通に教わるよりも、経験を生かしてうまく演奏できる楽器がほかにもあるのではと思っています。音楽以外では、バンジージャンプがやりたいです!
ストリートピアノでの演奏など、よみぃさんの活動を配信するYouTubeチャンネル