Web音遊人(みゅーじん)

地代所悠/コントラバスヒーロー

「コントラバスヒーロー」として音楽と三浦半島の魅力を伝える/音楽で活躍するご当地ヒーローの仕事

シリーズ「オトノ仕事人」に今回登場するのは、音楽で活躍するご当地ヒーロー。「コントラバスヒーロー」として三浦半島を盛り上げるべく、ヒーローショーや特撮ドラマを企画制作する地代所じだいしょ悠さんに話をうかがった。コントラバス奏者であり、映像監督、CGアーティストなどマルチに活動するヒーローの素顔に迫る。

妻のひと言がきっかけでヒーローに

「コントラバスヒーロー」とは、ヒーロースーツに身を包み、コントラバスの演奏を通して三浦半島の人々と心をかよわせ、音楽と表現の自由をおびやかす悪者と戦うご当地ヒーロー。オリジナル特撮ドラマ、生演奏を聴かせるヒーローショー、地域密着のロケ番組などを通して、三浦半島の魅力を広く伝える活動をしている。
2020年に筆者がコントラバス奏者としての地代所さんにインタビューした際、彼は「コントラバスという楽器の魅力を伝えられるコントラバスヒーローになりたい」と語っていた。しかし、それはあくまで“ヒーローのような存在”になりたいというたとえ話。まさか実際にヒーロースーツに身を包み、ヒーローショーでアクションを繰り広げることになるとは。

地代所悠

「きっかけは妻の“本当にヒーローになれば?”というひと言でした。もともと僕は特撮ヒーローものが大好きで、自分で映像制作をやっていたこともあり、“そうか!”と。2022年にネット配信をしているとき、“コントラバスヒーローのテーマソングを作ろう!”ということになり、“コンバス星からやってきた”からはじまる歌ができました。そうしたら、配信を見ていた作曲家の松﨑国生さんが、翌日にその曲をオーケストラ・アレンジしてSNSに投稿してくださって。ヒーローの活動が本格化したのは、そこからです。まずはヒーローのマスクとスーツを作ろうということになり、インターネットで情報収集しながら、見よう見まねで作りました」

こうして誕生したコントラバスヒーローは、特撮ドラマをYouTubeで公開したり、クラシック音楽の演奏とアクション満載のヒーローショーを開催したりするなど、着実に活動のフィールドを広げていく。
「企画から脚本執筆、演出、映像制作、演奏、アクションまですべて自分でやっていますが、もちろんひとりではできないので、“地代所プロダクション”という会社を設立し、数人の仲間たちと一緒に制作しています。音楽、映像、写真、Webデザインなど、さまざまな分野のクリエイターがいて、自分のスキルを活かしつつ、幅広い経験がしたいといって集まってきてくれた人たちです。まだ小さな会社ですが、頭の柔らかい人たちと一緒に、スピード感とやりがいのある仕事ができるので、興味のある人がいたらぜひ来てほしいですね」


特撮ドラマ「駆けつけろ!!コントラバスヒーロー」の第1話「空から落ちてきた男」。

地代所悠/コントラバスヒーロー

地代所プロダクションの一室には、マスクやスーツをはじめ、手作りされた衣装や小道具などがズラリ。

なにより大切なのは音楽

ドラマにおいてもショーにおいても、地代所さんがなにより大切にしているのは音楽。コントラバスヒーローやその仲間たち、またあるときは悪役による演奏シーンは、ストーリーの要としての役割を果たす。そこでたっぷり時間をとって奏でられるのは、クラシック音楽の名曲たちだ。
「2024年11月に逗子文化プラザホールの主催で開催したヒーローショーは早々にチケットが完売し、この2年の成果を実感することができました。ホールのスタッフによると、親が子どもに聴かせたいと言ってチケットを買いに来るのではなく、子どもが“これ見たい!”と言って親の手を引っ張って来ることも多いそう。ヒーローショーを楽しみにしていた子どもたちは、思いがけずそこで演奏されるクラシック音楽に触れることになります。そういう出会いって、ある意味、理想的ですよね。あのとき聴いた音楽を憶えている、そんなふうになにかが心に残ったらいいなと」

地代所悠/コントラバスヒーロー

もちろんヒーローショーなので、音楽だけでなくアクションも充実していなければならない。
「アクションも吹き替えなしで頑張っていますが、11月のヒーローショーでは僕がアクロバットを習っていた先生にもチームに入っていただいて、より迫力が増しました。じつは自分に子どもが生まれてからいろいろな発見があって、それによってショーの演出もガラッと変えたんです。遠慮せずに泣いてもらっていいんだなと思って、人が宙返りしたり、ステージから落ちたりするシーンも入れたりして。子どもは言葉にできない感情がわーっと動いて、インプットのキャパシティを超えた瞬間に泣くわけですから、決して悪いことじゃないと思うんです」
ヒーローショー以外にも、地元のイベントに呼ばれればコントラバスを持って駆けつけ、三浦半島の魅力を発信すべく日々奔走している。
「全国各地でさまざまなご当地ヒーローが活躍していますが、重要なポイントは、ヒーローとして会った人が、次に会ったときも同じ人であることだと僕は思っていて。つまり“中の人”がつねに同じであるということですね。やはり実際にヒーローがその土地に住んでいるという感覚が大事で、そこでフィクションとノンフィクションの線引きが曖昧になるところが面白いです」

地代所悠/コントラバスヒーロー

ヒーローショーでは、美しいクラシック音楽を合奏したかと思えば、激しいアクションを決めることも。

今の仕事は、自分にとっての“伏線回収”

そんな地代所さんは、コントラバスヒーローとしての活動と並行して、コントラバス奏者、映像監督、CGアーティストなど、クリエイターとしてさまざまな仕事をしている。そのひとつが、映像監督を務めたヤマハのエレクトリックバイオリン「YEV PRO」のプロモーションビデオ。バイオリニストの﨑谷直人と音楽プロデューサー・作曲家の浅倉大介によるコラボレーション動画である。
「音楽の移り変わりに合わせて、映像をいかにして場面転換していくかなど、構成から撮影までトータルで担当しました。とくに悩んだのは、急にサルサ調のアレンジに切り替わる部分。窓をパーンと開いて外に出ていくという流れにしたのですが、﨑谷さんと浅倉さんにも気に入っていただけたようで嬉しいです。YEV PROを手にして、楽器のもつあらゆるポテンシャルが目覚めていくというストーリーに合わせて、﨑谷さんのいろいろな表情を引き出したいと思いながら撮りました」


Yamaha Electric Violin YEV PRO Artist Special Performance – Naoto Sakiya × Daisuke Asakura

地代所悠/コントラバスヒーロー

自らカメラを構えて撮影し、映像と音楽の編集などトータルに手掛ける。

そのほかにも、コロナ禍で自宅にいることが多かった期間中にはCGの勉強をし、CGアーティストとしての仕事もしているとのこと。
「コントラバスヒーローの活動をはじめたころから作品制作にCGを使うようになって、これは早く仕事にした方がいいなと思いました。そこで、CGの会社に“なんでもいいのでやりたいです!”と言って飛び込んで、2年ほど仕事をさせていただくなかで、CG業界の仕組みやワークフロー、リギングと呼ばれる専門的な技術を学びました」
コントラバス奏者としては、スタジオでのレコーディングを中心に、映画、アニメ、ゲームなどジャンルを問わず活躍中。最近ではKing Gnuのツアーへの参加や、作曲家の坂東祐大が音楽を手がけるアニメ『怪獣8号』のサウンドトラックへの参加も話題となった。
「子どものころから好きだったヒーローもの、映像、映画、音楽……すべてが仕事になっている今は、自分にとっての“伏線回収”だと思っています」
これからもコントラバスヒーローこと地代所悠さんから目が離せない!

地代所悠/コントラバスヒーロー

プロのコントラバス奏者としても多方面で活躍中。またコントラバスのブランド「オリエンテ」の動画にも登場。


オリエンテコントラバス 品番別試奏動画

どうやって作ってるの?!コントラバス!!ヒガシ絃楽器製作所に潜入!!【コントラバスヒーローの三浦半島に住んでます】

Q.子どものころになりたかった職業は?
A.映画監督。小学生のときに映画監督の金子修介さんにお会いして、「監督になりたいなら脚本が書けないとダメだ」と言われたので、自分で脚本を書いて短編映画を撮っていました。

Q.趣味は?
A.コンビニのスウィーツが好きで、いつも新商品をチェックしています。それが仕事とは関係ないささやかな趣味です。

Q.休日の過ごし方は?
A.2024年に子どもが生まれてからは1日の半分を育児にかかりっきりで休日もないのですが、もし休みがあったら温泉に行きたいですね。

Q.座右の銘は?
A.“Fake it till you make it.”英語圏でよく言われる言い回しのようですが、「できるようになるまで、できるフリをしろ」という意味です。やれる自信はあっても、やったことのないことに挑戦するとき、この言葉が支えになりました。

 

オフィシャルFacebook YouTube公式チャンネル オフィシャルX(旧Twitter) オフィシャルInstagram
オフィシャルtiktok

photo/ 阿部雄介(1~5、8、9枚目)

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」

5407views

音楽ライターの眼

ロビン・トロワーとマキシ・プリーストが合体。スタイルを超えたアルバム『United State Of Mind』を発表

3204views

“音を使って音楽を作る”音楽の冒険を「ELC-02」で

楽器探訪 Anothertake

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

9591views

楽器のあれこれQ&A

モチベーションがアップ!ピアノを楽しく効率的に練習するコツ

43858views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

11770views

コレペティトゥーアのお仕事

オトノ仕事人

高い演奏技術と幅広い知識で歌手の表現力を引き出す/コレペティトゥーアの仕事(前編)

23525views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

30480views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

17083views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

37336views

横浜レンタル倉庫(YRS)

われら音遊人

われら音遊人:目指すはフェス! 楽しみ、楽しませ、さらなる高みへ

2853views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

5500views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11860views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

12105views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

13571views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase44)プロコフィエフ「戦争ソナタ」、上野優子の全曲シリーズ、アウシュビッツ解放80年は「第8番」

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase44)プロコフィエフ「戦争ソナタ」、上野優子の全曲シリーズ、アウシュビッツ解放80年は「第8番」

1699views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

9228views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

6685views

長く使い続けてもらえる電子ドラムを目指して──電子ドラム「DTX6K5-MUPS」

楽器探訪 Anothertake

長く使い続けてもらえる電子ドラムを目指して──電子ドラム「DTX6K5-MUPS」

1308views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

10877views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8951views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

10062views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8115views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11860views