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「コントラバスヒーロー」として音楽と三浦半島の魅力を伝える/音楽で活躍するご当地ヒーローの仕事
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2025.1.17
tagged: コントラバスヒーロー, 地代所悠, オトノ仕事人
シリーズ「オトノ仕事人」に今回登場するのは、音楽で活躍するご当地ヒーロー。「コントラバスヒーロー」として三浦半島を盛り上げるべく、ヒーローショーや特撮ドラマを企画制作する地代所悠さんに話をうかがった。コントラバス奏者であり、映像監督、CGアーティストなどマルチに活動するヒーローの素顔に迫る。
「コントラバスヒーロー」とは、ヒーロースーツに身を包み、コントラバスの演奏を通して三浦半島の人々と心をかよわせ、音楽と表現の自由をおびやかす悪者と戦うご当地ヒーロー。オリジナル特撮ドラマ、生演奏を聴かせるヒーローショー、地域密着のロケ番組などを通して、三浦半島の魅力を広く伝える活動をしている。
2020年に筆者がコントラバス奏者としての地代所さんにインタビューした際、彼は「コントラバスという楽器の魅力を伝えられるコントラバスヒーローになりたい」と語っていた。しかし、それはあくまで“ヒーローのような存在”になりたいというたとえ話。まさか実際にヒーロースーツに身を包み、ヒーローショーでアクションを繰り広げることになるとは。
「きっかけは妻の“本当にヒーローになれば?”というひと言でした。もともと僕は特撮ヒーローものが大好きで、自分で映像制作をやっていたこともあり、“そうか!”と。2022年にネット配信をしているとき、“コントラバスヒーローのテーマソングを作ろう!”ということになり、“コンバス星からやってきた”からはじまる歌ができました。そうしたら、配信を見ていた作曲家の松﨑国生さんが、翌日にその曲をオーケストラ・アレンジしてSNSに投稿してくださって。ヒーローの活動が本格化したのは、そこからです。まずはヒーローのマスクとスーツを作ろうということになり、インターネットで情報収集しながら、見よう見まねで作りました」
こうして誕生したコントラバスヒーローは、特撮ドラマをYouTubeで公開したり、クラシック音楽の演奏とアクション満載のヒーローショーを開催したりするなど、着実に活動のフィールドを広げていく。
「企画から脚本執筆、演出、映像制作、演奏、アクションまですべて自分でやっていますが、もちろんひとりではできないので、“地代所プロダクション”という会社を設立し、数人の仲間たちと一緒に制作しています。音楽、映像、写真、Webデザインなど、さまざまな分野のクリエイターがいて、自分のスキルを活かしつつ、幅広い経験がしたいといって集まってきてくれた人たちです。まだ小さな会社ですが、頭の柔らかい人たちと一緒に、スピード感とやりがいのある仕事ができるので、興味のある人がいたらぜひ来てほしいですね」
ドラマにおいてもショーにおいても、地代所さんがなにより大切にしているのは音楽。コントラバスヒーローやその仲間たち、またあるときは悪役による演奏シーンは、ストーリーの要としての役割を果たす。そこでたっぷり時間をとって奏でられるのは、クラシック音楽の名曲たちだ。
「2024年11月に逗子文化プラザホールの主催で開催したヒーローショーは早々にチケットが完売し、この2年の成果を実感することができました。ホールのスタッフによると、親が子どもに聴かせたいと言ってチケットを買いに来るのではなく、子どもが“これ見たい!”と言って親の手を引っ張って来ることも多いそう。ヒーローショーを楽しみにしていた子どもたちは、思いがけずそこで演奏されるクラシック音楽に触れることになります。そういう出会いって、ある意味、理想的ですよね。あのとき聴いた音楽を憶えている、そんなふうになにかが心に残ったらいいなと」
もちろんヒーローショーなので、音楽だけでなくアクションも充実していなければならない。
「アクションも吹き替えなしで頑張っていますが、11月のヒーローショーでは僕がアクロバットを習っていた先生にもチームに入っていただいて、より迫力が増しました。じつは自分に子どもが生まれてからいろいろな発見があって、それによってショーの演出もガラッと変えたんです。遠慮せずに泣いてもらっていいんだなと思って、人が宙返りしたり、ステージから落ちたりするシーンも入れたりして。子どもは言葉にできない感情がわーっと動いて、インプットのキャパシティを超えた瞬間に泣くわけですから、決して悪いことじゃないと思うんです」
ヒーローショー以外にも、地元のイベントに呼ばれればコントラバスを持って駆けつけ、三浦半島の魅力を発信すべく日々奔走している。
「全国各地でさまざまなご当地ヒーローが活躍していますが、重要なポイントは、ヒーローとして会った人が、次に会ったときも同じ人であることだと僕は思っていて。つまり“中の人”がつねに同じであるということですね。やはり実際にヒーローがその土地に住んでいるという感覚が大事で、そこでフィクションとノンフィクションの線引きが曖昧になるところが面白いです」
そんな地代所さんは、コントラバスヒーローとしての活動と並行して、コントラバス奏者、映像監督、CGアーティストなど、クリエイターとしてさまざまな仕事をしている。そのひとつが、映像監督を務めたヤマハのエレクトリックバイオリン「YEV PRO」のプロモーションビデオ。バイオリニストの﨑谷直人と音楽プロデューサー・作曲家の浅倉大介によるコラボレーション動画である。
「音楽の移り変わりに合わせて、映像をいかにして場面転換していくかなど、構成から撮影までトータルで担当しました。とくに悩んだのは、急にサルサ調のアレンジに切り替わる部分。窓をパーンと開いて外に出ていくという流れにしたのですが、﨑谷さんと浅倉さんにも気に入っていただけたようで嬉しいです。YEV PROを手にして、楽器のもつあらゆるポテンシャルが目覚めていくというストーリーに合わせて、﨑谷さんのいろいろな表情を引き出したいと思いながら撮りました」
そのほかにも、コロナ禍で自宅にいることが多かった期間中にはCGの勉強をし、CGアーティストとしての仕事もしているとのこと。
「コントラバスヒーローの活動をはじめたころから作品制作にCGを使うようになって、これは早く仕事にした方がいいなと思いました。そこで、CGの会社に“なんでもいいのでやりたいです!”と言って飛び込んで、2年ほど仕事をさせていただくなかで、CG業界の仕組みやワークフロー、リギングと呼ばれる専門的な技術を学びました」
コントラバス奏者としては、スタジオでのレコーディングを中心に、映画、アニメ、ゲームなどジャンルを問わず活躍中。最近ではKing Gnuのツアーへの参加や、作曲家の坂東祐大が音楽を手がけるアニメ『怪獣8号』のサウンドトラックへの参加も話題となった。
「子どものころから好きだったヒーローもの、映像、映画、音楽……すべてが仕事になっている今は、自分にとっての“伏線回収”だと思っています」
これからもコントラバスヒーローこと地代所悠さんから目が離せない!
Q.子どものころになりたかった職業は?
A.映画監督。小学生のときに映画監督の金子修介さんにお会いして、「監督になりたいなら脚本が書けないとダメだ」と言われたので、自分で脚本を書いて短編映画を撮っていました。
Q.趣味は?
A.コンビニのスウィーツが好きで、いつも新商品をチェックしています。それが仕事とは関係ないささやかな趣味です。
Q.休日の過ごし方は?
A.2024年に子どもが生まれてからは1日の半分を育児にかかりっきりで休日もないのですが、もし休みがあったら温泉に行きたいですね。
Q.座右の銘は?
A.“Fake it till you make it.”英語圏でよく言われる言い回しのようですが、「できるようになるまで、できるフリをしろ」という意味です。やれる自信はあっても、やったことのないことに挑戦するとき、この言葉が支えになりました。
文/ 原典子
photo/ 阿部雄介(1~5、8、9枚目)
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