今月の音遊人
今月の音遊人:村松崇継さん「音・音楽は親友、そしてピアノは人生をともに歩む相棒なのかもしれません」
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19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」
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2016.3.8
tagged: ギター文化館, マヌエル・カーノ, アントニオ・デ・トーレス, カーノ, トーレス, ギター, 楽器博物館探訪
筑波山地の連なりが臨める田園地帯の中に建つギター文化館。この施設は1992年(平成4年)、スペインのフラメンコギタリストであるマヌエル・カーノのギターコレクションをすべて預かる形で誕生しました。19世紀につくられたアントニオ・デ・トーレスをはじめとする至宝も含まれたコレクションがなぜ日本にあるのか、ギター文化館のスタッフの方にお話をうかがいました。
世界中に多くのファンを持つ、スペインが生んだフラメンコギターの巨匠、マヌエル・カーノ。彼は演奏活動と並行して歴史的なギターの蒐集にも興味を寄せていました。そのコレクションの核となっていたのが、カーノと同じスペイン生まれのアントニオ・デ・トーレスです。
19世紀に活躍したトーレスは、狭い場所でフラメンコ舞踊のために使われていたギターを大きなコンサートホールで演奏できる楽器に生まれ変わらせ、現代ギターの原型をつくり上げたギター製作者です。
スペインでは、そのトーレスを祖とした優れたギター製作者が次々に登場しました。そこでカーノは、それらスペインの至宝級ギターを製作系譜に則って集めることに意味を見出し、おそらく世界の誰も持ち得ていない18本を手元に置きました。そのすべてがギター文化館に収められています。
なぜスペインではなく遠く離れた日本にカーノ・コレクションがあるのか?
「会員が中心となって企画・運営を行う音楽鑑賞団体の東京労音がカーノ氏の公演を日本で実現させたのがきっかけです。日本から遠く離れたスペインに住む自分に声をかけてくれたことをカーノ氏はとてもよろこんだそうです。東京労音のスタッフは世界中に飛び、各地の音楽家と直にコンタクトするよう努めていますが、スペインのグラナダに暮らすカーノ氏を訪ねたときは、氏の手配で閉館後のアルハンブラ宮殿に招かれ、『アルハンブラの思い出』を聴かせてもらいました。そんな交流が縁で、カーノ氏のコレクションを預かることになった。いわばこの建物は、カーノ・コレクションのためにつくられたのです」
日本への寄贈に当たり、カーノはこんなリクエストを出したそうです。18本すべてを収蔵すること、弾かれない状態での保存はしないこと。実は、貴重なギターゆえ方々から引き合いがあったようですが、系譜としてのコレクションが散り散りになることも、ガラスケースの奥でただ飾られるのもカーノは嫌ったと言います。彼は1990年に病没しましたが、その2年後、願いをすべて叶える形でギター文化館が完成しました。
カーノの遺志を引き継いだということは、今も19世紀のギターの響きがここで聴けるということになります。また、世界中の名立たる演奏家が日本に来るたびここを訪れ、こぞってトーレスを弾いていくといいます。
「スペイン人のスサナ・プリエトとギリシャ人のアレクシス・ムズラキスによる「デュオ・メリス」が来たときは印象的でした。彼らはここでコンサートを終えた後、カーノ・コレクションの部屋に入ったきりなかなか出てこなかったのです。やっぱり『アルハンブラの思い出』を弾いていましたよ。コンサートの演目になかったんですけどね」
彼らのような超一流でもトーレスに触れる機会はまずないから、とスタッフの方は微笑みます。
プロギタリストさえ虜にする歴史的ギターを保管しながら、なぜ博物館ではなく文化館を名乗ったのか、その疑問には次のページで迫ります。
文/ 田村十七男
photo/ ギター文化館
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