今月の音遊人
今月の音遊人:石若駿さん「音楽っていうのは、人の考えとか行動の表れみたいなものだと思う」
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最適な音響システムを提案し、理想的な音空間を創る/音響施工プロジェクト・リーダーの仕事
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2022.6.3
tagged: オトノ仕事人, 音響, ヤマハサウンドシステム
コンサートや演劇などを行う施設の設計や施工、改修などから関わり、音響システムを提供するヤマハサウンドシステム株式会社。その技術部でプロジェクト・リーダーとして施工に携わる吉村紳平さんにお話を聞いた。
一口に音響システムの施工と言っても、新築や改修など、そのプロジェクトによって作業の内容や工期は違ってくる。吉村さんは、新たなプロジェクトが始まると、それまで担当してきた営業スタッフと打ち合わせて、経緯、コンセプト、必要機材などを確認し、現場調査で施主の要望を把握し、最適な音響システムを提案する。そして施主側の了解のもと実際の工事に入るのだ。
「一般的に言うと現場監督の仕事です。営業部が結んだ音響システム工事の契約を技術部が受け継いで竣工までを担当します。私はプロジェクトのリーダーとして監督・管理をします」
職種としては建設業になるという。そのため、建物本体を造る建設会社と連携して、どの段階から工事に参加するか作業の分担はどうするかなど、こなすべき課題は山積みだ。
「その施設の施主様だけでなく、その会場で実際に音響を管理・運営するオペレーターの方、会場を使う方、そして来られる観客。このすべての方に満足していただけるように頑張っています」
工期の長いケースでは、およそ2年も現場に常駐することもあるという。音響機器を取り付けると、施設側の担当者と音響のチューニングを行い、取り扱いを説明して引き渡しとなる。しかしその後も、実際にシステムを稼働させながら改良していくなど、施設との関係は続いていく。
「私が心がけているのは、音響システムを使う人の動きを綿密にイメージすることです。施設のオペレーターだけでなく、外部の音響スタッフや音を聴く観客の視点もイメージして、最終的に“ここは残念だったね”ということにならないように作業を進めます」
複数の案件が並行して進んでいく場合もあるという。
「一つの大きなプロジェクトに集中するのは大変ですけど、逆にいろいろなプロジェクトを同時並行で進めるというのも、また違った大変さがありますね。プロジェクトによって進捗段階も全然違いますし、チームも違いますから。間違って別のホールの現場に行かないよう気をつけています」
中学時代にバンドを組んでギターを担当すると同時に、演劇の魅力に取りつかれた吉村さんは、役者を目指して上京し、大学で舞台芸術を学んだ。
「そこで音楽や効果音を使って音響面で舞台を創っていく舞台音響というジャンルを知ったんです」
大学卒業後はホールの管理運営と舞台作品の音響デザイナーの仕事に就いたが、ホールの改修工事を担当したヤマハサウンドシステムの仕事に魅力を感じて中途入社。それから6年が経ったという。
仕事において吉村さんがもっとも重要視しているのは「音」そのものだ。
「もちろんお客様の意図や要望を最優先にしますが、それがなければ音のクオリティを優先します。時にはお客様と意見が違ったりすることがありますが。その場合でも、“私たちはこうしたら良いと思います”という提案はさせていただいています」
施主の意志を尊重しながらもより良い施設にしたいとする熱意は、この仕事には欠かせないものだろう。
「当社で施工管理をする他のスタッフを思い浮かべると、僕のようにお客様ファーストで考える方もいますし、また違った考え方の人もいますが、いずれにしろ「音」に対して信念を持っている方が多い気がします。それに加えて、みんな音楽が大好きです。工期が2年の案件ですと、実際に音響機材が入るのは最後の3か月、音が出るのは最後の1か月くらいです。音が出た時は、もうみんな涙していますね」
2020年にオープンしたTACHIKAWA STAGE GARDEN様は、吉村さんが初めて新築工事の施工担当として一からやり遂げた施設で、音へのこだわりが反映されているという。
「TACHIKAWA STAGE GARDEN様では、PAブースを客席の後ろを音響操作するスペースとしました。一般的な公共ホールでは、音響調整室で音響のオペレートをすることが多いのですが、TACHIKAWA STAGE GARDEN様の施設コンセプトから、私は客席にPAブースがあるほうが操作しやすく、音のクオリティが高くなると思いました。たとえば、観客不在のリハーサルの時と観客が入った本番ではスピーカーから聞こえる音質が変わるのですが、客席で操作ができる環境だとすぐに音質の修正ができます。用途にもよるのですが、個人的には客席に置くことを推奨していきたいと思っています」
精力的に仕事に取り組む吉村さんが、やりがいを感じるのはどんな時なのだろう。
「竣工後に公演本番に立ち会うんですけど、会場にたくさんの観客が入って演目を鑑賞している姿を見るときにいちばんやりがいを感じます。カーテンコールの拍手の時には、勝手ながら自分も拍手されているような気になったりするんです」
最後に、将来的に手がけてみたいことを聞いてみた。
「まだ誰も考えたことがないような音響システムに挑戦してみたいとずっと思っています。僕が担当させてもらったプロジェクトをみんなが参考にしてくれるようになるのが理想というか。培ってきたスキルで順当に仕事をこなしていくだけでなく、常に挑戦していきたいなと思います」
Q.子どもの頃の夢は?
A.舞台役者になりたかったんです。中学1年生の時に、町が主催している劇団でキャストの募集があり、興味があったので応募してその舞台に出たんですが、生のライブ感や高揚感と、終わった後に拍手をもらった時の達成感がクセになりまして、そこから舞台にハマりました。役者になりたくて演劇コースがある大学に進学しましたが、せっかくだから役者以外のことも勉強しようと舞台音響を積極的に学ぶようになっていったんです。
Q.どんな音楽が好きですか?
A.クラシックももちろん聴きますし、民族系の音楽も好きで聴きます。音響デザイナーとして仕事をしているころ、先輩から「いろんな引き出しを持たないとダメだ」と言われ、特定のジャンルに偏らず広く聴いています。
少し話は変わりますが、私は音と一緒にいろいろなことを記憶するんです。例えばゲームの音楽を久々に聴くと、そのゲームをしていた時の記憶を鮮明に思い出します。今聴いている音楽も、10~20年後に聴けば、記憶が一緒によみがえるのかな。音の記憶というのはおもしろいなと思います。
Q.趣味は何ですか?
A.仕事が趣味みたいになってきています。移動中なんかでも音響機材について調べていたりするんですよ。それから、各地のいろいろな美しいものを食べること。コロナ禍になってからは自分でも料理をするようになって、鶏のから揚げを極めるのがマイブームなんです。でも妻が料理好きなのであまり作る機会はないんですけど。
文/ 前田祥丈
photo/ 中村ユタカ
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