Web音遊人(みゅーじん)

最適な音響システムを提案し、理想的な音空間を創る/音響施工プロジェクト・リーダーの仕事

コンサートや演劇などを行う施設の設計や施工、改修などから関わり、音響システムを提供するヤマハサウンドシステム株式会社。その技術部でプロジェクト・リーダーとして施工に携わる吉村紳平さんにお話を聞いた。

音響システムを使うさまざまなお客様をイメージする

一口に音響システムの施工と言っても、新築や改修など、そのプロジェクトによって作業の内容や工期は違ってくる。吉村さんは、新たなプロジェクトが始まると、それまで担当してきた営業スタッフと打ち合わせて、経緯、コンセプト、必要機材などを確認し、現場調査で施主の要望を把握し、最適な音響システムを提案する。そして施主側の了解のもと実際の工事に入るのだ。
「一般的に言うと現場監督の仕事です。営業部が結んだ音響システム工事の契約を技術部が受け継いで竣工までを担当します。私はプロジェクトのリーダーとして監督・管理をします」
職種としては建設業になるという。そのため、建物本体を造る建設会社と連携して、どの段階から工事に参加するか作業の分担はどうするかなど、こなすべき課題は山積みだ。
「その施設の施主様だけでなく、その会場で実際に音響を管理・運営するオペレーターの方、会場を使う方、そして来られる観客。このすべての方に満足していただけるように頑張っています」
工期の長いケースでは、およそ2年も現場に常駐することもあるという。音響機器を取り付けると、施設側の担当者と音響のチューニングを行い、取り扱いを説明して引き渡しとなる。しかしその後も、実際にシステムを稼働させながら改良していくなど、施設との関係は続いていく。
「私が心がけているのは、音響システムを使う人の動きを綿密にイメージすることです。施設のオペレーターだけでなく、外部の音響スタッフや音を聴く観客の視点もイメージして、最終的に“ここは残念だったね”ということにならないように作業を進めます」
複数の案件が並行して進んでいく場合もあるという。
「一つの大きなプロジェクトに集中するのは大変ですけど、逆にいろいろなプロジェクトを同時並行で進めるというのも、また違った大変さがありますね。プロジェクトによって進捗段階も全然違いますし、チームも違いますから。間違って別のホールの現場に行かないよう気をつけています」

ヤマハサウンドシステムが音響システムを納入した施設の一つ、東京芸術劇場の音響調整室(左)と音響機械室(右)。その他、舞台、ホワイエ、控室など、劇場内の主な現場は施設全体に及ぶ。

最優先するのは音のクオリティ

中学時代にバンドを組んでギターを担当すると同時に、演劇の魅力に取りつかれた吉村さんは、役者を目指して上京し、大学で舞台芸術を学んだ。
「そこで音楽や効果音を使って音響面で舞台を創っていく舞台音響というジャンルを知ったんです」
大学卒業後はホールの管理運営と舞台作品の音響デザイナーの仕事に就いたが、ホールの改修工事を担当したヤマハサウンドシステムの仕事に魅力を感じて中途入社。それから6年が経ったという。
仕事において吉村さんがもっとも重要視しているのは「音」そのものだ。
「もちろんお客様の意図や要望を最優先にしますが、それがなければ音のクオリティを優先します。時にはお客様と意見が違ったりすることがありますが。その場合でも、“私たちはこうしたら良いと思います”という提案はさせていただいています」
施主の意志を尊重しながらもより良い施設にしたいとする熱意は、この仕事には欠かせないものだろう。
「当社で施工管理をする他のスタッフを思い浮かべると、僕のようにお客様ファーストで考える方もいますし、また違った考え方の人もいますが、いずれにしろ「音」に対して信念を持っている方が多い気がします。それに加えて、みんな音楽が大好きです。工期が2年の案件ですと、実際に音響機材が入るのは最後の3か月、音が出るのは最後の1か月くらいです。音が出た時は、もうみんな涙していますね」

常に挑戦していきたい

2020年にオープンしたTACHIKAWA STAGE GARDEN様は、吉村さんが初めて新築工事の施工担当として一からやり遂げた施設で、音へのこだわりが反映されているという。
「TACHIKAWA STAGE GARDEN様では、PAブースを客席の後ろを音響操作するスペースとしました。一般的な公共ホールでは、音響調整室で音響のオペレートをすることが多いのですが、TACHIKAWA STAGE GARDEN様の施設コンセプトから、私は客席にPAブースがあるほうが操作しやすく、音のクオリティが高くなると思いました。たとえば、観客不在のリハーサルの時と観客が入った本番ではスピーカーから聞こえる音質が変わるのですが、客席で操作ができる環境だとすぐに音質の修正ができます。用途にもよるのですが、個人的には客席に置くことを推奨していきたいと思っています」
精力的に仕事に取り組む吉村さんが、やりがいを感じるのはどんな時なのだろう。
「竣工後に公演本番に立ち会うんですけど、会場にたくさんの観客が入って演目を鑑賞している姿を見るときにいちばんやりがいを感じます。カーテンコールの拍手の時には、勝手ながら自分も拍手されているような気になったりするんです」
最後に、将来的に手がけてみたいことを聞いてみた。
「まだ誰も考えたことがないような音響システムに挑戦してみたいとずっと思っています。僕が担当させてもらったプロジェクトをみんなが参考にしてくれるようになるのが理想というか。培ってきたスキルで順当に仕事をこなしていくだけでなく、常に挑戦していきたいなと思います」

「音響システムの構築から工事、引き渡し後の保守メンテナンスまでをワンストップで承れることもヤマハサウンドシステムの特徴の一つです」と吉村さん。

ヤマハサウンドシステム オフィシャルサイト

Q.子どもの頃の夢は?
A.舞台役者になりたかったんです。中学1年生の時に、町が主催している劇団でキャストの募集があり、興味があったので応募してその舞台に出たんですが、生のライブ感や高揚感と、終わった後に拍手をもらった時の達成感がクセになりまして、そこから舞台にハマりました。役者になりたくて演劇コースがある大学に進学しましたが、せっかくだから役者以外のことも勉強しようと舞台音響を積極的に学ぶようになっていったんです。

Q.どんな音楽が好きですか?
A.クラシックももちろん聴きますし、民族系の音楽も好きで聴きます。音響デザイナーとして仕事をしているころ、先輩から「いろんな引き出しを持たないとダメだ」と言われ、特定のジャンルに偏らず広く聴いています。
少し話は変わりますが、私は音と一緒にいろいろなことを記憶するんです。例えばゲームの音楽を久々に聴くと、そのゲームをしていた時の記憶を鮮明に思い出します。今聴いている音楽も、10~20年後に聴けば、記憶が一緒によみがえるのかな。音の記憶というのはおもしろいなと思います。

Q.趣味は何ですか?
A.仕事が趣味みたいになってきています。移動中なんかでも音響機材について調べていたりするんですよ。それから、各地のいろいろな美しいものを食べること。コロナ禍になってからは自分でも料理をするようになって、鶏のから揚げを極めるのがマイブームなんです。でも妻が料理好きなのであまり作る機会はないんですけど。

photo/ 中村ユタカ

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:村治佳織さん「自分が出した音によって聴き手の表情が変わったとき、音楽の不思議な力を感じます」

8849views

伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

音楽ライターの眼

N響コンサートマスターと6人の名手ならではの極上のアンサンブル/伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

1356views

CLP-600シリーズ

楽器探訪 Anothertake

強弱も連打も思いのままに、グランドピアノに迫る弾き心地の電子ピアノ クラビノーバ「CLP-600シリーズ」

45032views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

4553views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12907views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

43504views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

5506views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6259views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22909views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

1925views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5976views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30893views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11811views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12100views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#033 ジャズの潮流を逆回転させるきっかけとなったハード・バップの“教科書”~ソニー・クラーク『クール・ストラッティン』編

908views

梶望さん

オトノ仕事人

アーティストの宣伝や販売促進など戦略を企画して指揮する/プロモーターの仕事

11686views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6739views

クラビノーバ「CSPシリーズ」

楽器探訪 Anothertake

これまでピアノを諦めていた多くの人を救う楽器。楽譜作成・鍵盤ガイド機能が付いた電子ピアノ/クラビノーバ「CSPシリーズ」

22009views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

7061views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8826views

ヴェノーヴァ

楽器のあれこれQ&A

気軽に始められる新しい管楽器 Venova™(ヴェノーヴァ)の魅力

2517views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

14374views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26118views