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ブローウェルに委嘱した新作をサントリーホールで世界初演/村治佳織インタビュー
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2021.12.3
tagged: インタビュー, ギタリスト, 村治佳織, Music Gift to
音楽家として、人間として、豊かにときを重ねている村治佳織。1992年のブローウェル国際ギター・コンクール優勝の翌年にデビューして以来、日本のクラシックギター界に颯爽とした風を送り込み、幅広い層にギターの魅力を伝えてきた。2021年12月12日にサントリーホールで開催されるリサイタルでは、そのブローウェルに村治が委嘱した新作が世界初演され、同月にはベスト・アルバムもリリース。これまでの活動を振り返り、新しい年に向けて一歩を踏み出そうとしている村治に、彼女の「今」を聞いた。
キューバ出身のレオ・ブローウェルは、クラシックギタリストなら誰もが知る偉大な作曲家であり、ギタリスト。村治は2019年12月のサントリーホールでのリサイタル直後、キューバに飛んでブローウェルに会い、作曲を依頼したのだという。
「当時、キューバに駐在していた日本大使の方が、クラシックギターをとても好きでいらして、“ブローウェルさんに会いにキューバに来ませんか?”とお声がけくださったのです。ブローウェルさんにはじめてお会いしたのは、東京で開催されたブローウェル国際ギター・コンクールで優勝した中学2年生のとき。その後、キューバでレッスンを受けたこともありましたが、もう20年近くお会いしていませんでした。できれば曲をお願いしたいという気持ちがあったので、ぜひ行きたいとお返事し、サントリーホールでの大一番が終わった翌日に出発しました。キューバの日本大使公邸でブローウェルさんにお会いしたのが12月24日で、作曲を快諾してくださったときは、すごいクリスマス・プレゼントだと思いましたね」
こうして生まれたのが『青いユニコーンの寓話』という作品。ちょうど2年後の2021年12月に、サントリーホールで初演されることになった。
「再会した直後に世界がコロナ禍に見舞われて、ブローウェルさんも旅ができなくなってしまったようで、すぐに作曲にとりかかってくださいました。80歳を超えてもエネルギッシュで、創作意欲はどんどん増してきているそうです。『青いユニコーンの寓話』でも、単旋律のフレーズが連なっていく部分などは、まさに次から次へとイマジネーションが湧いてくるといった感じです。そして、“寓話”というタイトルの通り、音でなにかを語りかけてくるような曲。ストーリーは聴く人それぞれの想像に委ねられていますが、スペイン語圏のポップスに同じタイトルの曲があって、直接的なつながりはないとはいえ、その歌詞を読むと“青いユニコーンが突然どこかへ消えてしまった”と嘆き悲しむものなんですね。そこから私は、今まであったものがなくなってしまったという意味で、これまでの現実がぱっと変わってしまった今の世界のことを連想しました」
今回のリサイタルでは、このほかに『舞踏礼賛』、《黒いデカメロン》より『こだまの谷を逃げて行く恋人たち』、『ラ・グラン・サラバンダ』という3曲のブローウェル作品も演奏される。
「キューバに生まれ育ったブローウェルさんの作品には、民族音楽的な歯切れのいいリズムがたくさん入っているのですが、一方で、彼は子どもの頃から大衆的なサルサやポップスよりもベートーヴェンや宗教的な音楽に心を寄せていたそう。そのせいか、なにかを追い求めるような神秘性や、祈るような宗教性が、音楽のいたるところから感じられます。原始的な部分と聖なる部分をあわせ持っているところがブローウェル作品の魅力ではないでしょうか」
また、リサイタルの第2部では、2021年に生誕120周年を迎えたスペインの作曲家、ホアキン・ロドリーゴの作品がプログラミングされている。ロドリーゴもまた、村治にとっては活動の初期から関わりの深い作曲家である。
「ブローウェルさんとロドリーゴさんの作品には子どもの頃から親しんできましたが、どちらにも祈りの気持ちや神秘性があるんですよね。私もきっと、ひとりの人間としてそういった世界観が好きなのでしょう。あと少しでデビュー30周年も見えてきますが、その前に自分の原点をあらためて見つめる機会になると思います。10年間一緒に歩んできたヤマハのギターは、ずっと弾き込んできたことで、見た目も音色も“黄金色”になったと言われました。今回のリサイタルでも数曲弾きますので、楽しみにしていてください」
2021年12月にリリースされるベスト・アルバム『Music Gift to』も、これまでの村治の歩みを振り返る一枚となっている。
「自分としては“振り返る”といった意識はまったくなかったのですが、結果的には2003年にデッカに移籍してから今までの録音がまんべんなく入ったアルバムになりましたね。コンサートや配信でお客様が気に入ってくださった曲のなかから、純粋に“いいメロディ”を聴いてほしいという気持ちで選びました。ジャケットにあるタイトル “to”のあとにスペースを設けたのは、ここに大切な人の名前を書いてほしかったからです。このアルバム自体がギフトとなって音楽の力で人との繋がりが強くなったら嬉しいです」
コロナ禍で余儀なく音楽活動が制限されることになったが、かつて病気で長期休養したこともある村治にとって、休止は人生2度目の体験だったという。それだけに「コンサートができることに毎回感謝し、さらには毎日がスペシャルだと思えたら最高」と語る彼女の言葉はポジティブな説得力に満ちていた。
日時:2021年12月12日(日)17:00開演(16:15開場)
会場:サントリーホール 大ホール
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発売元:ユニバーサル ミュージック合同会社
発売日:2021年12月1日
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文/ 原典子
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