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今月の音遊人:May J.さん「言葉で伝わらないことも『音』だったら素直に伝えられる」
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ピアノ演奏のヒントが見つかるかも!「もっと知りたい!バルトークの魅力」レクチャー&コンサート
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2023.3.17
tagged: ベーゼンドルファー, バルトーク, 中原佑介, 兼重稔宏, 「もっと知りたい!バルトークの魅力」レクチャー&コンサート, バルトーク・ベーラ批判校訂全集
20世紀を代表するハンガリーの作曲家、バルトーク・ベーラ(1881-1945)。彼はとても優れたピアニストでもあり、ピアノという楽器を熟知した彼が書いた子どものためのピアノ教育作品について知ることは、大作曲家が思い描いた”小さなピアニスト”を育てるためのヒントを享受できるのではないだろうか。
2022年12月24日、ヤマハ銀座コンサートサロンにて『「もっと知りたい!バルトークの魅力」レクチャー&コンサート』が開催された。ハンガリーにあるバルトーク・アーカイヴでバルトークを研究する中原佑介氏による解説と、国際的に活躍するピアニストであり、バルトーク作品の愛奏者である兼重稔宏氏による演奏。公演前の話も交え、本公演のレポートをしていく。
本公演は、中原氏による解説から始まった。バルトークが暮らしていた時代のハンガリーは多民族国家であったため、多くの民族が生活をしており、彼はハンガリーをはじめとし、ルーマニアやスロヴァキアなどさまざまな民族の民俗音楽の採集をしていたそうだ。中原氏は「もしも、バルトークがハンガリーの民俗音楽だけにこだわっていたら、20世紀を代表する作曲家になっていなかったかもしれない」と話す。
バルトークが教育のために手掛けた『ミクロコスモス』は、1932年から39年にかけて書かれた153曲の小曲が収められており、それぞれが違った音楽的性格を持つ。指導者は、学習者の理解度に応じて段階的に曲を与えることができ、技術だけでなく作曲法や理論など、総合的に音楽を学ぶことができる。さらに、19世紀末までの教育作品にはあまり見られない変拍子や旋法が初歩の学習レベルで盛り込まれているので、バルトークの音楽のエッセンスを知ることはもちろん、他の作曲家の楽曲に取り組む際にも活用できるものとなっている。
その『ミクロコスモス』を含むバルトーク作品の『バルトーク・ベーラ批判校訂全集』は、中原氏が編集作業に携わっていることからこの全集について解説された。それによると、ドイツのヘンレ社とハンガリーのムジカ・ブダペスト社の共同制作による批判校訂版は、現在利用できるあらゆる資料をもとに、全ての作品を信頼できる形で出版するそうだ。また、この楽譜は作曲家の意図の尊重はもちろん、演奏家にとっての使いやすさも重視されていて、バルトークがこの作品を演奏していた際に行っていた、音の追加なども盛り込んでいることが特徴的である。『子どものために』第1巻第26番は、初稿と改訂稿が見開きになっているため、比較がしやすいのも演奏家や研究者の目線に立った仕様といえるだろう。
作曲家による“生きた”音までも記されているこの批判校訂全集版は、演奏家が多くのインスピレーションを得られるのではないだろうか。
バルトークの魅力を伝える存在として忘れてはいけないのが、ベーゼンドルファー社のピアノだ。中原氏は「バルトークはハンガリーの自宅ではベーゼンドルファーのピアノを所有していたので、『ミクロコスモス』を書くときは、この音色を基準としていたのではないかと思います」と述べていた。また兼重氏は特に『ミクロコスモス』をベーゼンドルファーの音色で弾くことが、重要な意味を持つと話す。「どのように弾くべきかが自然と見えてくる気がするのです。そもそも彼自身がとても美しい音色とフレージングで演奏するピアニストでした。音にこだわることは楽曲理解にも大きく繋がるのではないでしょうか」
今回の公演で使用されたのは、バルトークが生きていた時代からある1909年製の『Model250』だ。音の決め手となる響板やボディの木材には良質なスプルースが使用されている。
このピアノを兼重氏が演奏すると、透明感のある音色とあたたかみのある響きが会場を包んでいた。この音色こそがバルトークの音楽をさらに深く味わうために大きな役割を果たすと兼重氏は語っている。さらに「記譜されたペダル記号にそのまま従うと現代のペダルでは濁ってしまうが、ベーゼンドルファーのピアノで弾くと、一聴すると不協和音に聞こえるものも、音が折り重なったものとして響いてくる」という。「バルトークの楽曲は、きれいな響きにリズムやアクセントといった要素が絡み合うことで、総合的な美しさを作り出し、それが空間に広がっていく感覚がある」と話していたが、実際に演奏を聴くと、確かにさまざまな要素が一度に奏されてもまったく濁らず、音楽が立体的に聞こえてきた。『Model250』は鍵盤が92鍵あり、通常のピアノよりも多いのだが、それも兼重氏によれば「倍音が豊かになり、楽器だけでなく、空間までも鳴らしているようなイメージで演奏できる」効果があり、自然界の音も表現しようとした作曲家であるバルトークの、「楽譜に収まりきらなかったものまでも表現する」という役割を果たしているそうだ。
中原、兼重の両氏とも「バルトークは決して堅苦しく演奏する必要はなく、もっと自由に楽しんで演奏していいもの」と語っていたが、その言葉を体感したレクチャーコンサートであった。小さな子どものころからバルトークの作品に触れて育つのはなんと贅沢なことだろうか。
文/ 長井進之介
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