今月の音遊人
今月の音遊人:神保彰さん「音楽によって、人生に大きな広がりを獲得できたと思います」
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やわらかな雰囲気と強い個性で、魅力的な世界へ誘う/Ichiko Aoba solo concert 2024 at Yamaha Hall
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2024.3.28
クラシックギターの趣ある音色と繊細な歌声で世界中のファンを魅了するシンガーソングライターの青葉市子が、2024年2月16日にヤマハホールに初登場。やわらかで懐かしく、幻想的でもある青葉のステージは“親しみのある非日常”とも言うべき不思議な魅力を放っていた。
ライブ開始前、主のいない舞台にはグランドピアノと椅子、譜面台のほかに、ランプがいくつか置かれている。舞台セットと呼ぶには簡素なのに、そこが“誰かの場所”であることを教えてくれている。ヤマハホールの木調の壁面も影響してるのか、森の奥にある隠れ家を見ているような気分にさえなる。
そんな興味をかきたてる舞台に、全身を羽根で包んだようなふわっとした衣装の青葉が登場。静かに椅子に腰かけると、ハミングをしながら演奏の準備を進める。いや、鼻歌といったほうがいいだろうか、それくらい自然なふるまいでいるものだから、こちらも自然と肩の力が抜けてくる。
ギターをポロンと爪弾きはじめると、鼻歌はハッキリとしたメロディへと変わり、1曲目の『ココロノセカイ』が始まった。透きとおった歌声。ゆったり鳴らされる深みのあるギターの音色。それらが形作るあたたかい旋律は、やさしく降り注ぐ陽射しのようだ。
続く『Sagu Palm’s Song』はテンポがあがり、歌声もギターも躍動的に。オープニング曲で感じたのが陽光だとすれば、こちらは吹き抜ける風や波打つ草原といったイメージ。演奏中にはさまれる口笛も鳥のさえずりのようで、まるで“自然”を奏でているみたい。
青葉のギターの奏法はクラシックや民族音楽の要素が強く出ているが、メロディーはポップスのような親しみやすさを持っている。地声からファルセットまでを自由に行き来する歌声も、思うがままに流れる風のようで心地よい。
ジャズの香りがほんのり漂う『太陽さん』や、10分以上の長尺ながらドラマチックな展開で耳を引き付け続ける『機械仕掛乃宇宙』、青葉の音楽表現の礎となった山田庵巳のカバー『旭をつれて』や、喪失の心模様をピアノとともに紡ぐ『海底のエデン』など、演奏が続くたびに新たな世界が生まれゆき、それぞれが魅力的な音を放ち、その世界へと誘ってくれる。
どの曲も鮮烈な個性を放っているが、青葉本人の醸し出す雰囲気は実にやわらかく、ライブの最後のほうで「いまさらですけど、本当自由に聴いてください」なんてMCをするところに、なんともいえない愛嬌が感じられたりした。
本編ラストの『ひかりのふるさと』では、ステージ背景に装飾されている植物を、青葉が演奏しているあいだにスタッフが切り取り、それをライブ後に来場者に持ち帰ってもらうという試みもあり、青葉の自由な世界は、最後まで楽しませ、こころ潤し続けてくれた。植物を受け取った人であれば、家でその緑を眺めながら、この夜の響きを再びこころに芽吹かせることができただろう。
飯島健一〔いいじま・けんいち〕
音楽ライター、編集者。1970年埼玉県生まれ。書店勤務、レコード会社のアルバイトを経て、音楽雑誌『音楽と人』の編集に従事。フリーに転向してからは、Jポップを中心にジャズやクラシック、アニメ音楽のアーティストのインタビューやライヴレポートを執筆。映画や舞台、アートなどの分野の記事執筆も手掛けている。
文/ 飯島健一
photo/ Konatsu Yamaguchi、Takako Miyachi(4枚目)
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tagged: ヤマハホール, 音楽ライターの眼, 青葉市子
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