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『日本人らしい』奥深い魂の響きを、無伴奏チェロで伝えたい/上野通明インタビュー
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2024.4.8
tagged: チェロ, サントリーホール, 上野通明, 無伴奏チェロ・リサイタル
2021年、ジュネーブ国際音楽コンクールのチェロ部門で日本人として初めて優勝し、ヨーロッパや日本で活躍の場を広げている新進気鋭のチェロ奏者、上野通明。2024年5月24日にサントリーホールで無伴奏チェロ・リサイタル「邦人作曲家による作品選」が開催される。
外交官の父が赴任していたパラグアイで生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごした上野通明。母や2人の姉たちが奏でるピアノやバイオリンの音色に包まれて育った。
「母は音大でピアノを専攻し、姉たちもそれぞれピアノとバイオリンを習っていたので、生まれたときから音楽は常に身近にありました。姉のバイオリンをおもちゃにして遊んでいたようです。チェロに興味をもったのは4歳のとき。ヨーヨー・マの『インスパイアド・バイ・バッハ』のビデオを観て、チェロの音色に魅せられました」
チェロを学びたいと両親に懇願し、5歳のクリスマスにチェロを買ってもらった。
「初めは両親に反対されましたが、頑張って説得しました。ようやく近所でチェロの先生を見つけて、楽器を買いに行ったんです。初めて弓を横に動かして音を鳴らしたとき、身体中に振動が伝わって感動したのを今でも覚えています」
バルセロナでは、母が若いころから愛用していたヤマハのグランドピアノを囲んで、姉弟でアンサンブルを楽しんだ。そのピアノは今も東京の実家にあり、本番前の練習で使うこともあるという。
「白鍵がくすんでいるほど古いものなんですが、僕たち家族と一緒に旅をして、今も現役で活躍しています。母が編曲したカタルーニャ民謡やクリスマスキャロルを、姉たちと演奏するのは、すごく楽しかったですね。教会やホールで演奏する機会をいただいたときは、練習やリハーサルで皆の自我が強くて喧嘩ばかり。今となっては、それも楽しい思い出です。現在、姉たちはそれぞれドイツとスペインにおり、一緒に演奏することは少なくなりましたが、2023年にバイオリン奏者の姉が帰国した際に、ひさしぶりにデュオを演奏しました」
2024年5月24日にサントリーホールで開催する無伴奏チェロ・リサイタルでは、すべて邦人作曲家の作品という意欲的なプロクラムを披露する。
「憧れのホールで単独演奏できるなんて夢のようだと、お話をいただいたときは、飛び上がるほど嬉しかったです。留学生活や海外での演奏活動の中で出会った人たちが、日本の文化や歴史について、僕よりも詳しくて驚いたことがきっかけで、『日本人らしさとは何か』と考えるようになり、日本人特有の感性、内に秘めた情念、静寂の美学、時間の捉え方などに興味をもち、深い精神性を探求するプログラムを考えました。西洋音楽を学びながら、自らのアイデンティティを追求した日本人作曲家たちの作品を、このすばらしい機会にぜひ聴いていただきたいです」
黛敏郎『BUNRAKU』、松村禎三『祈禱歌』、森円歌『Phoenix』、團伊玖磨『無伴奏チェロ・ソナタ』、武満徹『エア』、藤倉大『Uzu(渦)』、20世紀に活躍した日本を代表する作曲家たちの作品に加えて2曲の委嘱作品というプログラム。このリサイタルのために書かれた藤倉大の作品は、世界初演となる。
「黛敏郎『BUNRAKU』は、日本の伝統芸能の文楽(人形浄瑠璃)を西洋楽器のチェロで表現した作品ですが、僕も実際に文楽を鑑賞して、その迫力に圧倒されました。太棹三味線の力強いバチさばきを、弦が指板にバシバシと当たるバルトークピチカートという奏法で表現したり、義太夫の渋い声の節回しを低音で歌ったり、緊張感と生命力にあふれた音楽を楽しんでいただきたいと思います。松村禎三『祈禱歌』は、17弦箏のために書かれた作品ですが、同じ音域のチェロに編曲されています。宗教を題材とし、オスティナート(ある音型を持続的に繰り返す作曲技法)を使うことが多い作曲家ですが、この曲も同じモティーフを繰り返しながら激しく膨らんでいき、心の奥底からの叫びが聞こえてくるように感じられます。暗い闇の中に浮かび上がる日本人の美意識を味わっていただけたらと思います」
森円花さんは、桐朋時代の先輩で、学生のころからさまざまな作品の初演に関わってきた同世代の作曲家。
「『Phoenix』は、2022年に東京オペラシティの『B→C』に出演したときに委嘱した作品です。そのときのテーマは、神話、宗教、祈りで、コロナ禍の中、作品のアイデアができたそうです。社会がどんな困難に直面しても、音楽は不滅だという強いメッセージが込められています」
後半の最初の曲は、團伊玖磨『無伴奏チェロ・ソナタ』。蛇が好きだったという作曲家の何か不気味なものがうごめくような雰囲気が半音階で表現され、そこに古くからの日本の子守唄が流れてくる。
「2024年生誕100年の團伊玖磨さんがチェロのために書いた晩年の傑作で、西洋音楽の構造の中に日本の旋律を取り入れた作品です」
武満徹の『エア』の原曲は、フルートの作品。
「武満さんは、無伴奏チェロ作品を残されていないけれど、どうしても彼の作品を入れたかったのです。『エア』は、もともと独奏フルートのための作品で、今回特別にご遺族の許可を得て演奏できることになりました。漂う空気感、オーガニックに時が流れたり止まったりする雰囲気をチェロで再現できたらと思います」
最後は、このリサイタルのために書かれた藤倉大『Uzu(渦)』。
「非常に自由度の高い作品です。それぞれ異なる魅力が備わる8つのセクションを自由に入れ替えて演奏することが奏者に許されています。強弱や抑揚を任されているセクションもあり、コーダもいくつかの選択肢の中から選べる。この画期的なアイデアのおかげで、弾く度に新たな魅力を感じます」
チェロひとつを携えて音楽と日本人としてのアイデンティティを探求する若き俊英の挑戦に注目したい。
日時:2024年5月24日(金)19:00開演(18:30 開場)
会場:サントリーホール(東京都港区)
料金(税込):S席 5,000円、A席 4,000円、U25(A席) 3,000円
※U25の取り扱いは、カジモト・イープラスのみ
詳細はこちら
文/ 森岡葉
photo/ 宮地たか子
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