Web音遊人(みゅーじん)

オトノ仕事人 ボイストレーナー

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

うえむらさんは高校生の頃、先輩のバンドに参加したのを機に、音楽活動をスタート。ソロシンガーとしてレコードデビューもしたが、事情により中断。30代後半で活動を再開したときに、その歌声を聴いた専門学校関係者から歌の講師を依頼された。それがきっかけでボイストレーニングの仕事を始め、プロを目指す多くの若者たちの指導にあたった。
それぞれの生徒の声質や体格をふまえ、どのように歌っていきたいのかという要望に応える。その指導を支えてきたのは、自身のコンプレックスだと、うえむらさんは振り返る。
「私の周りにいた女性シンガーたちは、天才肌で体にも恵まれて声量豊か。比べて私は声が全然出ないと、コンプレックスを持っていました。そこで、発声の先生について正しい声の出し方を教えてもらったら、その場で三度も音が伸びたんです。ちゃんと教わったらできると気が付きました。苦手なことやコンプレックスがあったから、そのぶん他の人の欠点や弱点もわかるようになりました」

また、自身がプロの歌い手として歌い続けていることも、「ライブでの経験がアドバイスの引き出しになる」と、大きなプラスになっているという。
何度も訓練していく中で、出せなかった高さのキーが出せるようになる、声量が伸びる。その瞬間を一緒に喜べるのがボイストレーナーとしての醍醐味だと感じている。それは思い描く声が出せたときの感動を、自らも知っているからこそ。
「人が聴いて気持ちのいい声で歌ってあげると、心と共鳴して癒すことができます。自分の体の中も同じで、響きのよい声を出せると、体中に共鳴して、心も体も喜ぶと思います」
心地よい声を出せる気持ちよさは、プロもアマも変わらない。歌を、そして音楽をより楽しむための礎作りをボイストレーナーは担っている。

Q.子どもの頃、なりたかった職業は?
A.役者です。3歳の頃から大阪の児童劇団に入っていたんです。小学5年くらいから歌って踊って芝居をする仕事をしたいと思うようになり、中学1年で宝塚コドモアテネに入学したのですが、高校で先輩のロックバンドに誘われて歌っているうちに、芝居より音楽が面白くなって音楽の道に入りました。

Q.歌に関わる仕事の魅力は?
A.挫折のリスクは高いし、アップダウンも激しいけれど、それだけに感動は大きいですよね。そこが楽しい。自分の特技を仕事にできていますし、フリーの場合は、多少の不安はあるものの組織にしばられないという良さもあります。

Q.良いコンディションを保つためにしていることは?
A.朝起きたら必ず鼻うがいをしています。寝る前にはヨガの3点倒立。血を逆流させることで、腰の疲れや肩の疲れが取れるんです。自分の姿勢がちゃんとしていないと、ライブも、教えることもできませんので。

Q.休日の過ごし方は?
A.小さい頃から親と映画をよく観に行っていたせいか、いまでも映画を観ずにはいられないところがあって、家でも映画や欧米ドラマのDVDをよく観ています。最近良かったのは『シェフ』。主人公がフードトラックを運転しながらマーヴィン・ゲイを口ずさんだり、キューバの音楽が盛り込まれていたりと、音楽も素敵でした。

Q.好きなミュージシャンは?
A.ナイル・ロジャースが大好き。バーナード・エドワーズと組んでいたシックは今も聴いています。彼はマドンナの『ライク・ア・ヴァージン』やデビッド・ボウイの『レッツ・ダンス』など、プロデューサーとしても優れていますよね。マイルス・デイヴィスとクインシー・ジョーンズも偉大ですね。マイルス・デイヴィスは夏に聴いたらクールになるし、冬に聴くと温まる。不思議だなぁって思っています。他に、グラディス・ナイト、アン・ピーブルズ、エスター・フィリップスなども好きですね。私にとって、いい音楽は元気の源なんです。

Q.プライベートでよく聴く音楽は?
A.35年前から変わらず好きで、何かにつけ聴いているアルバムが、ルーファス・フィーチャリング・チャカ・カーンの『アスク・ルーファス』です。ナイル・ロジャースがプロデュースしたダイアナ・ロスの『ダイアナ』、マーヴィン・ゲイの『レッツ・ゲット・イット・オン』などもフェイバリットアルバムですね。ラテンを最近歌っているのですが、マーク・アンソニー、グロリア・エステファン、イサック・デルガドも大好きです。ブルースギターのボニー・レイットもヘビロテ。うわぁ、いろいろありますね。

Q.最近行ったコンサートは?
A.ジャクソン・ブラウンと東京JAZZ。東京JAZZではスティーヴ・ガッド・バンド、リー・リトナー、そしてフォープレイを観ました。

Q.これから楽器を習うとしたら?
A.ギターを弾いてみたいです。以前、ブランフォード・マルサリスに憧れてヤマハ大人の音楽レッスンでソプラノサクソフォンを習っていたことがあるんです。息を吹き込んで演奏する楽器だから取り組みやすかったのですが、ギターはそうもいかず……。でも、誰かが背中を押してくれたら、チャレンジするかもしれません。

>前のページに戻る

 

特集

今月の音遊人:葉加瀬太郎さん

今月の音遊人

今月の音遊人:葉加瀬太郎さん「音楽は自分にとって《究極のひまつぶし》。それは、この世の中でいちばん面白いことだから」

11363views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase7)ブーレーズとベリーのパラレルワールド、現代音楽はイノベーションのジレンマか

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase7)ブーレーズとベリーのパラレルワールド、現代音楽はイノベーションのジレンマか

1484views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11519views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

23392views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12310views

鬼久保美帆

オトノ仕事人

音楽番組の方向性や出演者を決定し、全体の指揮を執る総合責任者/音楽番組プロデューサーの仕事

2222views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13555views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6001views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11226views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

4986views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6712views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9903views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8258views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

22267views

音楽ライターの眼

ブラームス国際コンクール、日本人初優勝のバイオリニスト中村太地が3大Bに挑む

7999views

オトノ仕事人

プラスマイナス0.05ヘルツまで調整する熟練の技/音叉を作る仕事

29506views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

1069views

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

23328views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

22380views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

4749views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

3802views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6814views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9903views