Web音遊人(みゅーじん)

パワーマン5000

パワーマン5000が新作『Abandon Ship』で訪れる“過去にあった未来”

パワーマン5000(以下略してPM5K)のニュー・アルバム『Abandon Ship』が2024年5月にリリースされ、新旧ファンから注目を浴びている。

1999年のアルバム『トゥナイト・ザ・スターズ・リヴォルト!』でブレイク。フューチャリスティックでディストピアンなメタル・サウンドと世界観、ダンサブルなビート、ヴォーカリストのスパイダー・ワンを中心としたヴィジュアル・スペクタクル(彼の実兄ロブ・ゾンビを思わせる箇所も)が熱狂的な支持を得た。それは1990年代のグランジともラップ・メタルとも異なる、20世紀を総括し新時代へと突入していく音楽性が“21世紀のメタル”を予見させた。

興味深いのは、この時期のメタル・バンドはしばしば1980年代のポップ・ヒット曲をカヴァーしていたことだ。それは過ぎ去りゆく時代への惜別の念も込められていたのだろうか、ディスターブドが『シャウト』(ティアーズ・フォー・フィアーズ)、オージーが『ブルー・マンデイ』(ニュー・オーダー)、ドープが『ユー・スピン・ミー・ラウンド』(デッド・オア・アライヴ)、エイリアン・アント・ファームが『スムーズ・クリミナル』(マイケル・ジャクソン)など、メタル・アレンジに大胆に生まれ変わっていた。PM5Kもそんな流れに乗ってか、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『リラックス』をカヴァーしている。

(少し間を置いてマッドヴェインもザ・ポリスの『キング・オイブ・ペイン』をカヴァーした。)

新世紀メタル覇権への突然のブレーキ

“21世紀のキリング・マシーン”を標榜する『ボムシェル』を先行シングルに、バンドは『エニワン・フォー・ドゥームズデイ?』(2001)を完成させる。新世紀メタルの覇者となるか?と期待された彼らだが、思わぬところでブレーキがかかった。発売2週間前になって、アルバムが突如発売中止になってしまったのだ。

その原因についてはいくつかの説があるが、『ボムシェル』に思ったほどの反響がなく、アルバムのセールスに期待できなかったこと、マーケティング計画が合意に至らなかったなどが噂されている。ともあれ、本国アメリカ盤のみならず日本盤CDもパッケージ含め完成している状態にも拘わらず発売中止という異例の事態は関係者・ファンを驚かせた(日本盤CDの帯・解説付きの完品は激レアだが、解説の内容が充実していないせいもあってか、プレミア価格はついていない)。

その後『ボムシェル』は映画『フレディvsジェイソン』やWWEプロレスでダドリー・ブラザーズの入場テーマ曲に使われるなど強力なタイアップを得るが、いったん失った勢いを取り戻すことは難しく、彼らは次作『トランスフォーム』(2003)を最後にメジャーを去ることになる。

(『エニワン・フォー・ドゥームズデイ?』は2009年、バンドの自主レーベルからリリースされた。)

PM5Kはそれからも3~4年に1枚というペースで作品を発表。通算11作目のオリジナル・アルバムとなるのが『Abandon Ship』だ。

“過去にあった未来”を見据えたアルバム

スパイダー以外のメンバー交替を繰り返してきたPM5Kであり、本作からギタリストのダン・シッツが加入。マリリン・マンソンのカヴァー・バンドで活動しながらロサンゼルス周辺のジャム・ナイトに参加してきた彼だが、バンドにスムーズに溶け込んでいる。

『Abandon Ship』の音楽性は、バンドの“過去にあった未来”を見据えたものだ。1曲目『Invisible Man』イントロから気合い一発の「ゴー!」。根拠もなく威勢の良いこのかけ声は時代のターニング・ポイントを象徴するもので、『エニワン・フォー・ドゥームズデイ?』の1曲目『デンジャー・イズ・ゴー』やスタティックXの『プッシュ・イット』、オフスプリングの『ザ・キッズ・アーント・オーライト』でも聴くことができた。

『1999』は1999年に想いを馳せた“昔は良かった”系懐かしソングだ。このタイプの曲はボウリング・フォー・スープの『1985』やスタン・ブッシュの『The 80s』など、具体的なバンドや映画、人名などを挙げながらノスタルジアに浸ることが多いが、『1999』では“ロックンロール・ヘア”に言及する程度で、過剰にセンチメンタルに陥ることがない。

さらにジャンクなフューチャリズムに満ちたメタル・ナンバーを軸としながら、イギー・ポップばりの低音ヴォイスを聴かせる『The Company Loves Misery』や未来へのペシミズムを込めた『The Last Chapter』など、起伏に富んだアルバムとなっている。

ラストを飾るのは『ボムシェル』のリメイク・ヴァージョン。大きくアレンジをいじることなく、オリジナルのノリを再現している。

四半世紀前、PM5Kが描いていた“未来”は、我々の生きる2024年とは異なったものだ。『Abandon Ship』に乗って、そんなマルチバースへと旅立っていこう。ゴー!

■アルバム『Abandon Ship』

アルバム『Abandon Ship』

発売元:Cleopatra Records

詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

facebook

twitter

特集

カニササレアヤコ

今月の音遊人

今月の音遊人:カニササレアヤコさん 「音楽は、自分の居場所をあたえてくれるものです」

6282views

音楽ライターの眼

もうすぐ没後10年。心に刻まれるゲイリー・ムーアの ブルース・ギター

6536views

REVSTAR

楽器探訪 Anothertake

いまの時代に鳴るギターを目指し、音もデザインも進化したエレキギターREVSTAR

9909views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

6238views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

12330views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

47405views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

18455views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8982views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

16033views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

13653views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

7043views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

29015views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

9290views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

27038views

音楽ライターの眼

ベートーヴェンの苦闘からシューマンの夢幻へ。仲道郁代 スペシャル・コンサート~フォルクハルト・シュトイデ(バイオリン)を迎えて~

4866views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

8502views

IMOZ

われら音遊人

われら音遊人:そろイモそろってイモっぽい?初心者だって磨けば光る!

2454views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカを進化させる「クリップ」が誕生

21160views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

14238views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

6632views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

32919views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

17862views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35866views