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パワーマン5000が新作『Abandon Ship』で訪れる“過去にあった未来”
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2024.7.10
tagged: 音楽ライターの眼, パワーマン5000, Abandon Ship
パワーマン5000(以下略してPM5K)のニュー・アルバム『Abandon Ship』が2024年5月にリリースされ、新旧ファンから注目を浴びている。
1999年のアルバム『トゥナイト・ザ・スターズ・リヴォルト!』でブレイク。フューチャリスティックでディストピアンなメタル・サウンドと世界観、ダンサブルなビート、ヴォーカリストのスパイダー・ワンを中心としたヴィジュアル・スペクタクル(彼の実兄ロブ・ゾンビを思わせる箇所も)が熱狂的な支持を得た。それは1990年代のグランジともラップ・メタルとも異なる、20世紀を総括し新時代へと突入していく音楽性が“21世紀のメタル”を予見させた。
興味深いのは、この時期のメタル・バンドはしばしば1980年代のポップ・ヒット曲をカヴァーしていたことだ。それは過ぎ去りゆく時代への惜別の念も込められていたのだろうか、ディスターブドが『シャウト』(ティアーズ・フォー・フィアーズ)、オージーが『ブルー・マンデイ』(ニュー・オーダー)、ドープが『ユー・スピン・ミー・ラウンド』(デッド・オア・アライヴ)、エイリアン・アント・ファームが『スムーズ・クリミナル』(マイケル・ジャクソン)など、メタル・アレンジに大胆に生まれ変わっていた。PM5Kもそんな流れに乗ってか、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『リラックス』をカヴァーしている。
(少し間を置いてマッドヴェインもザ・ポリスの『キング・オイブ・ペイン』をカヴァーした。)
“21世紀のキリング・マシーン”を標榜する『ボムシェル』を先行シングルに、バンドは『エニワン・フォー・ドゥームズデイ?』(2001)を完成させる。新世紀メタルの覇者となるか?と期待された彼らだが、思わぬところでブレーキがかかった。発売2週間前になって、アルバムが突如発売中止になってしまったのだ。
その原因についてはいくつかの説があるが、『ボムシェル』に思ったほどの反響がなく、アルバムのセールスに期待できなかったこと、マーケティング計画が合意に至らなかったなどが噂されている。ともあれ、本国アメリカ盤のみならず日本盤CDもパッケージ含め完成している状態にも拘わらず発売中止という異例の事態は関係者・ファンを驚かせた(日本盤CDの帯・解説付きの完品は激レアだが、解説の内容が充実していないせいもあってか、プレミア価格はついていない)。
その後『ボムシェル』は映画『フレディvsジェイソン』やWWEプロレスでダドリー・ブラザーズの入場テーマ曲に使われるなど強力なタイアップを得るが、いったん失った勢いを取り戻すことは難しく、彼らは次作『トランスフォーム』(2003)を最後にメジャーを去ることになる。
(『エニワン・フォー・ドゥームズデイ?』は2009年、バンドの自主レーベルからリリースされた。)
PM5Kはそれからも3~4年に1枚というペースで作品を発表。通算11作目のオリジナル・アルバムとなるのが『Abandon Ship』だ。
スパイダー以外のメンバー交替を繰り返してきたPM5Kであり、本作からギタリストのダン・シッツが加入。マリリン・マンソンのカヴァー・バンドで活動しながらロサンゼルス周辺のジャム・ナイトに参加してきた彼だが、バンドにスムーズに溶け込んでいる。
『Abandon Ship』の音楽性は、バンドの“過去にあった未来”を見据えたものだ。1曲目『Invisible Man』イントロから気合い一発の「ゴー!」。根拠もなく威勢の良いこのかけ声は時代のターニング・ポイントを象徴するもので、『エニワン・フォー・ドゥームズデイ?』の1曲目『デンジャー・イズ・ゴー』やスタティックXの『プッシュ・イット』、オフスプリングの『ザ・キッズ・アーント・オーライト』でも聴くことができた。
『1999』は1999年に想いを馳せた“昔は良かった”系懐かしソングだ。このタイプの曲はボウリング・フォー・スープの『1985』やスタン・ブッシュの『The 80s』など、具体的なバンドや映画、人名などを挙げながらノスタルジアに浸ることが多いが、『1999』では“ロックンロール・ヘア”に言及する程度で、過剰にセンチメンタルに陥ることがない。
さらにジャンクなフューチャリズムに満ちたメタル・ナンバーを軸としながら、イギー・ポップばりの低音ヴォイスを聴かせる『The Company Loves Misery』や未来へのペシミズムを込めた『The Last Chapter』など、起伏に富んだアルバムとなっている。
ラストを飾るのは『ボムシェル』のリメイク・ヴァージョン。大きくアレンジをいじることなく、オリジナルのノリを再現している。
四半世紀前、PM5Kが描いていた“未来”は、我々の生きる2024年とは異なったものだ。『Abandon Ship』に乗って、そんなマルチバースへと旅立っていこう。ゴー!
発売元:Cleopatra Records
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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