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今月の音遊人:矢野顕子さん 「わたしにとって音は遊びであり、仕事であり、趣味でもあるんです」
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伝説のレーベル“ワックス・トラックス!”その栄枯盛衰を描いた映画『インダストリアル・アクシデント』の海外ブルーレイ発売
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2021.8.6
インダストリアル・ミュージックの名門レーベル“ワックス・トラックス!レコーズ”の栄枯盛衰を描いたドキュメンタリー映画『インダストリアル・アクシデント〜ザ・ストーリー・オブ・ワックス・トラックス!レコーズ』が海外でブルーレイ/DVD化され、音楽ファンの間で大きな話題を呼んでいる。
ジム・ナッシュとダニー・フレッシャーがコロラド州デンヴァーでレコード店“ワックス・トラックス!”をオープンしたのは1975年のことだった。この店は1978年にシカゴに移転、パンクやニュー・ウェイヴ、“4AD”や“ファクトリー”などイギリスのインディーズを扱う“聖地”として音楽ファンから支持を得る。
バウハウスのシカゴ公演の招聘なども行った“ワックス・トラックス!”だが、世界にその名を轟かすのは、独自のアイデンティティを持ったインディー・レーベルとしてだった。1981年にパンク・バンドのストライク・アンダー、そして映画『ピンク・フラミンゴ』への主演で悪名高き女装クイーンのディヴァインのシングルを発表。ミニストリーの『コールド・ライフ』『エヴリ・デイ・イズ・ハロウィン』などが地元のクラブ・シーンでヒットしたことで一気に飛躍していく。
エレクトロニックなビートと硬質な演奏のインダストリアル・ミュージックを同レーベルがメジャーに押し上げ、ミニストリーやKMFDM、ナイン・インチ・ネイルズらのメインストリーム市場での成功への突破口となったことが、本作で描かれている。“ワックス・トラックス!”は1980年代末にはレーベル単位での人気を誇り、“ワックス・トラックス!・ナイト”などのクラブ・イベントも行われるようになった。
ジム・ナッシュの愛嬢ジュリアが監督、彼女の夫で現在の“ワックス・トラックス!”の運営を担当するマーク・スキリコーンが構成・脚本を手がけた『インダストリアル・アクシデント』は、膨大なジャケット・アートやポスター、ライヴ映像、インタビューなどを交えながら、レーベルの軌跡を辿っていく。
インタビューが収録されているのは“ワックス・トラックス!”から作品を発表したアーティスト達が中心。アル・ジュールゲンセン(ミニストリー)、ポール・バーカー(ミニストリー)、パトリック・コデニーズ(フロント242)、リチャード23(フロント242)、グルーヴィ・マン(マイ・ライフ・ウィズ・ザ・スリル・キル・カルト)、マーストン・デイリー(マイ・ライフ・ウィズ・ザ・スリル・キル・カルト)、サシャ・コニエツコ(KMFDM)、エン・エッシュ(KMFDM)、ビル・リーブ(フロント・ライン・アセンブリー)、リュック・ヴァン・アッカー(リヴォルティング・コックス)、クリス・コネリー(リヴォルティング・コックス)、クリス・カーター&コージー・ファニ・トゥッティ(クリス&コージー)らが感慨深げに語っている。
さらにアル・ジュールゲンセンとのプロジェクトで作品を発表した、ラードのジェロ・ビアフラ(ザ・デッド・ケネディーズ)、ペイルヘッドのイアン・マッケイ(マイナー・スレット、フガジ)、1000ホモDJズのトレント・レズナー(ナイン・インチ・ネイルズ)、そして当時のシーンを知るスティーヴ・アルビニ(ビッグ・ブラック、シェラック他)、デイヴ・グロール(ニルヴァーナ、フー・ファイターズ)、デヴィッド・J・ハスキンズ(バウハウス)らの談話も貴重だ。
イギリスの“サザン・レコーズ”やベルギーの“プレイ・イット・アゲイン・サム”と提携するなど急激な規模拡大が裏目に出て、レーベルは赤字に陥り、1992年に“TVTレコーズ”に買収される。ナッシュは1995年に亡くなり、2001年のレーベル閉鎖後、フレッシャーも2010年にこの世を去った。『インダストリアル・アクシデント』は20年ちょっとの短い活動期間、音楽シーンを全力で突っ走った“ワックス・トラックス!”のセレブレーションである。
なお“ワックス・トラックス!”は2014年にジュリアによって復活。2016年から本映画プロジェクトが始動し、2019年から北米のフェスティバルなどで上映が始まっている。ナッシュとフレッシャー、コイルのジョン・バランスとピーター・クリストファーソン、ディヴァインなどは亡くなっており、新規のインタビューは収録されていないが、膨大な量のアーカイヴ資料から選び抜かれた95分は密度が濃い。
さらにブルーレイには75分のボーナス特典映像が追加収録されている。単なるインタビューのアウトテイクの域に留まることなく、ほとんど独立した1篇のドキュメンタリーとして成立しており、“ワックス・トラックス!”関連ミュージシャン達の群像劇として楽しむことが出来る。アル・ジュールゲンセンをひとつの軸として、様々なスタイルのミュージシャン達が影響し合い、刺激を与え合いながらシーンを創り上げた時代が語られている。
2021年夏時点では日本未公開の『インダストリアル・アクシデント』だが、見事に時代の空気を捉えた作品であり、ぜひ映画館で大音量のインダストリアル・ミュージックを全身に浴びたい。
DVD/Blu-ray『インダストリアル・アクシデント〜ザ・ストーリー・オブ・ワックス・トラックス!レコーズ』
発売元:Wax Trax! Records
オフィシャルサイト
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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tagged: レスリー・ウェスト, マウンテン, 音楽ライターの眼
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