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今月の音遊人:西村由紀江さん「誰かに寄り添い、心の救いになる。音楽には“力”があります」
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バイオリンならではの学びを通じて、人生をより豊かにしてほしい/伊藤亮太郎インタビュー
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2025.4.23
お子さんの入園や入学、進級をきっかけに「楽器を習わせてみようかな」と考える保護者も多いのではないだろうか。今回はバイオリニストの伊藤亮太郎さんに、幼少期からバイオリンを学ぶことについてアドバイスを伺った。
2005年から2015年まで札幌交響楽団のコンサートマスター、2015年から2024年までNHK交響楽団のコンサートマスターという重要なポストを歴任してきた伊藤さん。現在はソロや室内楽など幅広い活動を展開しながら、昭和音楽大学附属ストリングスアカデミーで主任教授として後進の指導にあたっている。
「2024年3月にN響を退団したタイミングで、昭和音楽大学附属ストリングスアカデミーでバイオリンを教えはじめました。アカデミーにはプロを目指すコースだけでなく、バイオリンにはじめて触れるお子さんや初心者向けのコースもあって、私は小学校4年生のお子さんも教えています」
そんな伊藤さんに、バイオリンを習うことで得られるメリットを聞いた。
「まずバイオリンは旋律楽器なので、歌うように自然な音楽表現ができるところでしょうか。そのとき楽器が直接触れている肩から身体に音の振動が伝わる気持ちよさもあります。声楽家のように、自分の身体そのものが楽器になるんですね」
もう一つの大きなメリットは、アンサンブルの楽しみがあることだと伊藤さんは語る。
「たとえばピアノはメロディーも伴奏も同時に弾けるので、ひとりで完結できる楽器です。けれどバイオリンは無伴奏作品を除けば、ピアノとのデュオ、弦楽四重奏、オーケストラなどといったアンサンブルでの演奏が基本です。子どもの練習曲にもピアノ伴奏がついていますから、小さいころから人と合わせる経験を重ねることで学ぶことがたくさんあるのではないでしょうか。それは音楽的なことだけに限らず、人とのコミュニケーションという意味でも重要なポイントだと思います」

バイオリンを習いはじめるのに適した年齢も気になるところだ。
「もちろん何歳からはじめても上達はできますが、小学校に上がる年齢あたりからはじめると、いちばん自然に入っていけるのではないかと私は思います。鉄は熱いうちに打てということわざの通り、小さいころから楽器に親しんでいると音程や和声の感覚が身につきやすいというのはあります」
とはいえ、ピアノと比べると少々ハードルが高いように思われる方もいらっしゃるかもしれない。伊藤さんによると、バイオリンを学ぶ人の数はここ数年で減少傾向にあるとのこと。
「たしかにバイオリンは音程がとれるようになるまでが大変なんですよね。ピアノは鍵盤をポンと押せばその音が鳴りますが、バイオリンは自分で音程を作っていかなければならない楽器です。最初のうちは指板にシールを貼って指で押さえる位置を目で確認したりもしますが、音程の感覚が育ってくると“ソとド”とか“ミとラ”といった相対的な音の関係を聴いて、耳で音程がとれるようになっていきます。そういった意味では、ピアノを並行して学んで和声の感覚を養うのもおすすめです。音程は初心者だけでなくプロのバイオリニストにとっても永遠のテーマで、身につくまで時間はかかりますが、そこの部分をしっかりフォローしてあげればあとは弾くのがどんどん楽しくなっていくと思いますよ」
楽器について不安や疑問をお持ちの方もいらっしゃるだろう。こども用のバイオリンは「分数バイオリン」と呼ばれ、大人用のバイオリンの1/16のサイズから 1/10、1/8、1/4、1/2、3/4、4/4といったように、成長に合わせて持ち替えていく必要がある。
「分数バイオリンでも、やはりしっかりした音が鳴る良い楽器で練習すると、上達も早いものです。どう弾けばいいかということを、楽器が教えてくれるのです」

身長による楽器選択の基準
お子さまにおすすめ!こども用分数バイオリンの選び方
バイオリンに限らず、楽器の上達にはたゆまぬ努力がつきものだが、まずは本人が楽しいと思わなければ続かない。バイオリンを楽しむ秘訣はどんなところにあるのだろう。
「私は5歳から家の近くのバイオリン教室に通いはじめたのですが、それがきっかけでクラシック音楽にのめり込んでいきました。小学生のころからレコードを買い漁ったり、オーケストラのコンサートに連れて行ってもらったり、クラシック少年でしたね。弾くことと同じぐらい、聴くことも好きだったんです。自分の部屋で、ただひとりでバイオリンを練習していても楽しくはありません。でもそれは勉強と同じで、やるときめたら1〜2時間はしっかり練習して、あとは自分なりに音楽を思いっきり楽しむ。作曲家の伝記を読んだり、名曲が生まれた背景を調べたりするのも面白いと思います」

最後に、伊藤さんにとってのバイオリンはどんな存在かを尋ねた。
「一生をかけるに値するもの、でしょうか。25年以上も続いているストリング・クァルテットARCOの仲間たちともバイオリンをやっていたから出会えたわけですし、最近では25歳も年下のチェリストと室内楽を演奏したりもしています。オーケストラでは世界の巨匠たちの指揮のもと演奏できましたし、本当に貴重な体験をさせていただきました。50歳を超えた今、フィジカルが衰えないように日々の練習をますます大切にしていかなければと思っています。また、演奏活動と並行して教えることも続けていきたいですね。中には練習の仕方を自分なりに編み出すのが上手な子もいて、教えるほうもとても勉強になります。バイオリンが好きな子を増やしていくことが、私にできる恩返しだと思っています」
人生に豊かな時間と経験をあたえてくれるバイオリンに、ぜひお子さんと触れてみてほしい。
幼少期のバイオリンとのかかわりについて、ご紹介しています。
「こどもとバイオリン」はこちら
文/ 原典子
photo/ 阿部雄介
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