今月の音遊人
今月の音遊人:城田優さん「音や音楽は生活の一部。悲しいときにはマイナーコードの音楽が、楽しいときにはハッピーなビートが頭のなかに流れる」
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ゲーム音楽は勝ってはいけない、負けてはいけない。大切なのは調和──/ゲームコンポーザーの仕事
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2024.8.29
ゲームの世界観を彩り、プレイヤーの感情に大きな影響を与えるゲーム音楽。近年ではBGMの枠を飛び出し、ひとつのジャンルとしても確立するようになった。
多くの人々を虜にするゲーム音楽は、どのようにして生み出されているのだろう。人気ゲーム『モンスターハンター』シリーズをはじめ、多くのゲーム音楽に携わってきたゲームコンポーザーの小見山優子さんにうかがった。
『モンスターハンター』シリーズを手がけるゲームメーカー、カプコンに所属していた小見山さんは、ファンの間で“神曲”と称される『モンスターハンター 3(トライ)』のメインテーマ『生命ある者へ』などの生みの親。作曲だけにとどまらないというコンポーザーの仕事は、どのように進行していくのだろうか。
「私がカプコンに勤めてい当時の場合でいうと、まず企画や音楽、絵など各職種部門のリーダーが集まって、どんなゲームをつくりたいのか、世界観や雰囲気などを共有するところから始まりました」
コンポーザーはそのゲームにどれだけの音楽が必要なのかを考え、スケジューリングする。その後、ディレクターや企画担当とやり取りし、音楽のジャンルなどの大まかな方向性が決まったら、次に取り組むのは音楽演出のいわば“設計図”づくりだ。たとえば、同時に2曲鳴らしつつ、1曲はミュート。状況が変わったところでクロスフェードする。そうした音楽再生のしかけを考え、そのためのシステムをサウンドプログラマーに発注する必要がある。ここで、ようやく作曲のスタートとなる。
「まずは音楽的な顔となるテーマ曲をつくり、シーンごとの音楽を制作していくという流れが多いですね」
ゲーム画面を見てイメージを膨らませていくのかと思いきや、最後までまったく画面を見ることがないまま作曲することもあるというから驚く。手がかりとなるのは、資料のイメージ画像やミーティングでの情報だ。そうした“こんな感じ”をいかにして萌芽させ、壮大な作品として実らせているのだろう。
「たとえば、“今回のゲームは、この映画のこのシーンのこの世界観に近い”といったヒントになる情報をミーティングで共有し、イメージをつくっていくことが多いですね。昔から映画やドラマが好きだったことが、役に立っていると思います。80年代の『マッドマックス』のあの感じ、みたいなことを言われてもわかります(笑)。映像と音楽という意味では、映画はゲームに近いものがありますしね」
小見山さんは5歳からヤマハ音楽教室に通い、エレクトーンに情熱を傾けてきた。エレクトーンの先生を目指し、相愛大学音楽部に進学。そこで曲づくりの才能を評価され、卒業後はカプコンに入社することになるが、エレクトーンの経験はゲーム音楽の作曲に大いに活かされているという。
作曲は、パソコンとキーボードで行うのが基本。キーボードでリアルタイムに演奏しながら音楽ソフトに打ち込み、曲を完成させていくスタイルだ。
中にはエレクトーンやキーボードの音源ではなく、生のピアノにこだわって作曲した曲もあった。『モンスターハンターワールド;アイスボーン』のさまざまなシーンで使用されている『継がれる光』だ。
「当時の『モンスターハンター』シリーズではめずらしく、ストーリー性が強いタイトルでした。人の気持ちや相手を思う心を語り継いでいく話で、それが感じられるフレーズにしたいと考えました。人の琴線に触れるのにピアノの音がよいのではないかと思い、実家からピアノを持ってきて作曲しましたね。木の温もりを大切にしたかったんです」
人に寄り添いたいと願う小見山さんの優しい人柄が滲む。
作曲が終わった後も、コンポーザーの仕事は続く。最近のゲームはオーケストラのレコーディングをすることも多く、オーケストレーターとともに制作するのもコンポーザーの役割。さらにレコーディング現場に入り、監修も行う。
「私はフェードイン、フェードアウトなどのシステムのバグチェックも行いました。サントラが必要な場合は、これらと並行してつくっていきます」
入り口から出口まで携わるなか、常に心に留めていることがある。ゲーム音楽は勝ってはいけない、負けてはいけない。大切なのは調和──。それをあらためて、痛感する出来事があった。
雄大で温かな世界を音で描いた『生命ある者へ』に、惹き込まれた人も多いのではないだろうか。実はもともとはまったく違うタイプの曲であり、ディレクターからのゴーサインもすでに出ていた。しかし、オープニングムービーを意識し、つくり替えたいと直訴した結果、生まれたのがあの壮大な曲だ。その後、カプコンも出展する東京ゲームショウの日を迎えた。
「カプコンのブースに設置された画面で、テーマ曲とCG映像が合わさったものを初めて見て、ものすごくマッチしていると思ったんです。ここまで合わせてくれたCG制作者さんへの感謝の思いで胸が熱くなりました。初披露の映像に会場も大いに盛り上がっていて、『わ~!すごい』といった歓声とその光景を目の当たりにしたときは本当にうれしかったですし、ゾクッとしましたね。あの瞬間の感動は未だに忘れられません。音楽とCGが調和することで、ひとつの作品が生まれたことをあらためて実感しました」
カプコン退社後はフリーのコンポーザーとして、ドラマやアニメの劇伴など活動の幅を広げ、ゲーム音楽においても『ファイナルファンタジーレコードキーパー』の編曲を手がけるなどその活躍はめざましい。
「ゲーム機が進化したり、遊ぶ世代に若い方が増えていったり、さらにテレビだけでなくスマホへと楽しみ方が変わっていったり。ゲームひとつで時代の文化ができあがっていく感じが、自分を飽きさせないのかなと思っています」
日々心がけているのは、幅広いジャンルの音楽を聴くこと。流行がわかるラジオの音楽番組には、欠かさず耳を傾ける。
「子どもが見ているアニメに食いついて、鬱陶しがられていますね(笑)。彼らと話したり、夢中になっているものに触れたりすることでも刺激をもらっています」
20年以上のキャリアに裏打ちされた経験値と鋭い時代感覚、そして何より人を楽しませたいという思い。それらが詰まったゲーム音楽だからこそ、人の心を打つのだ。
Q.趣味は?
A.映画鑑賞とヨガです。映画はとくに特撮が好きですね。ヨガは、毎朝行っているのですが、すっきりして仕事がはかどります。最後に行う仰向けで横たわるシャバーサナというポーズで、音楽のフレーズが降りてくることもあります。本当は心を無にしないといけないんですけれどね(笑)。
Q.好きな音楽のジャンルは?
A.ジャズです。とくに小曽根真さんが好きです。小曽根さんに始まり、そこから派生していろいろなジャンルやアーティストの曲を聴いています。小曽根さんが最近、クラシックにも取り組んでいらっしゃることも影響して、私もクラシック音楽を聴くことが多くなりましたね。
Q.休日の過ごし方は?
A.子どもが大きくなって忙しくなり、家族全員がそろうのは唯一日曜日なので、家族で過ごす時間は大切にしています。キャンプにも行きたいのですが、子どもの用事で1泊すらかなわないのが現状なので、庭でご飯を食べたりして楽しんでいます。
Q.座右の銘は?
A.「継続は力なり」です。継続のなかで成長したと感じることが楽しいです。もうひとつは「七転び八起き」。何度失敗しても、最終的には何とかなると思っているんです。ヤマハ音楽教室に通っている子どもにも「1回では無理。とりあえず練習していたら、そのうちうまくなるんじゃないの」とよく言っていますね。
文/ 福田素子
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