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リストとショパンのロマン派の空気を堪能して/リーズ・ドゥ・ラ・サール インタビュー

リストとショパンのロマン派の空気を堪能して/リーズ・ドゥ・ラ・サール インタビュー

フランス、シェルブール生まれのピアニスト、リーズ・ドゥ・ラ・サールが、2025年7月17日にヤマハホールでのリサイタルを行う。今回の演目についてインタビューした。

ショパンとリストに共通するもの、異なるものを感じてほしい

4歳でピアノを始め、パリ国立高等音楽院で学び、13歳でコンチェルト・デビュー。ヨーロッパのさまざまなコンクールで1位を獲得し、2004年にはニューヨークのヤング・コンサート・アーティスツ国際オーディションで優勝を果たしたという経歴を持つ実力者だ。日本では2004年に初のツアー、2011年、2012年にもリサイタルツアーで訪れ、各地で絶賛された。

今回、ヤマハホールに登場するのは10年ぶりとなる。リサイタルに用意されているのは、リストとショパンの作品を交互に並べた、ユニークなプログラムだ。

「これは私がリストへのオマージュとして最近録音したアルバム『Phantasmagoria(幻想)〜リスト作品集』から派生したプログラムです。全体をロマン派の空気でまとめたいと、もう一人の作曲家にショパンを選びました。リストとショパンの作品には、鏡のようにお互いを映し合うところがあります。どちらも記憶に残るメロディを持ち、心を揺さぶり多くの感情を伝え、人間の最も深い部分に触れます。そのうえ二人ともピアノのヴィルトゥオーゾ(※)でした」(※音楽演奏の名人のことをさすイタリア語)

ショパンからは『バラード第1番』と『第4番』、リストからは『詩的で宗教的な調べ』より『愛の賛歌』、そして『ドン・ジョヴァンニの回想』、『ピアノ・ソナタ ロ短調』が選ばれている。

「10年ほど前にショパンのバラード全4曲を録音していて、特に1番と4番は私のお気に入りです。ピアニストが学生時代に学び、その成長にとって欠かせないレパートリーですが、ある時点を過ぎると、その音楽を真に理解して深く没頭し、自分のものにするおもしろさを感じるようになる作品だと思うのです」

自身の思い入れのある作品を通じ、ショパンとリストに共通するもの、異なるものを感じてほしいという。

「ショパンはシャイで控えめな性格で、故郷から遠く離れて暮らすなか、ノスタルジーとメランコリーを抱えて生きた人です。私は彼を“絶望的な希望を持った人”と呼んでいます。その音楽には、楽しげな瞬間でも常に暗い色が感じられます。

その意味で、明るくエネルギーに満ち、他者や人生にオープンだったリストは、真逆のキャラクターといえるでしょう。もちろんリストの音楽にも時折暗い影が見えますが、苦しみを抱え続けるタイプではありません。私はリストにずっと魅了されていて、その関係性は、長い音楽のラブストーリーそのものなのです」

なかでも『ピアノ・ソナタ ロ短調』は、彼女が長らく心の中で温め続けてきたレパートリーだという。

「大好きな作品だけれど、まだ自分の準備が十分でないと思い続けていました。実際に弾いて勉強することなしに、作品は年月をかけて自然と私の中で成熟していたように思います。そしてある瞬間、今こそこの山に登るタイミングだと感じ、この曲に取り組むことにしたのです」

若き日からステージに立ち続けるなかで、ピアノとの関係も変化してきた。

「失敗から学び、同じ間違いをしなくなって、しかしまた新しい間違いをして学んでゆく。そうすることで、ピアノや自分の仕事について、より多くのことを知るようになります。一方で、舞台に立つことへの愛や新鮮な驚き、深い喜びと特別な感覚は、ずっと変わりません」

リーズ・ドゥ・ラ・サール

思考、指、心が楽器と結びつく

近年は、子育てとピアニストとしての活動の両立で多忙を極めているが、「旅をして、家事をして、娘の面倒を見るという忙しい毎日の中で、新しい経験が次々ともたらされる」という。そんな日常で彼女のインスピレーションの源となっているものは何なのだろうか。

「それは太陽の光かもしれないし、良いワインと一緒に味わうすばらしいディナーや、コンサートホールで聴く交響曲かもしれません。娘の笑顔から感じる大きな喜びもその一つです。あらゆることがインスピレーションになり得ます。

ただ確かなのは、さまざまな感情を経験し、受け入れることができなければ、何かにインスパイアされることも、音楽を通じて感情を伝えることもできないということ。ピアノを弾くにはたくさんの努力が必要なのは確かですが、ただ練習室にこもって弾いていれば上達するという考えは間違っています。もし自分が空っぽの貝殻のような存在なら、誰かに何かを与えることは不可能です」

ピアノは「技術だけで自在に扱える楽器」ではなく、十分に歌うには「思考、指、そして心が、楽器とどのように結びついているかが大切」だと話す。

今回はロマン派のショパンとリストの作品を通じ、そんな歌心にあふれた表現をたっぷりと聴かせてくれることだろう。

■珠玉のリサイタル&室内楽
リーズ・ドゥ・ラ・サール ピアノ・リサイタル

日時:2025年7月17日(木)19:00開演(18:30開場)
会場:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14)
料金:5,500 円(税込・全席指定)
出演:リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)
曲目:
F.ショパン/バラード 第4番 へ短調 Op.52
F.リスト/詩的で宗教的な調べ S.173 R.14 より 第10曲 愛の賛歌
W.A.モーツァルト=F.リスト/「ドン・ジョヴァンニ」の回想 S.418 R.228
F.ショパン/バラード 第1番 ト短調 Op.23
F.リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178 R.21
詳細はこちら

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