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水戸市民会館

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

徳川御三家のひとつ、水戸黄門でおなじみの水戸徳川家の城下町として歴史を紡ぎ、現在は茨城県の県庁所在地として行政の中心を担う水戸市。北側の那珂川と南側の千波湖に挟まれた馬の背状の台地に市街地が広がり、豊かな自然に囲まれて発展してきた。小澤征爾が総監督を務める水戸室内管弦楽団や、市内の中学・高校の吹奏楽部の活躍で知られるように、文化や教育の面でも高い水準を誇る都市である。

中心市街に賑わいを

そんな水戸市に2023年7月2日、座席数2,000の大ホールを備えた水戸市民会館が誕生した。水戸駅からバスで約5分、すぐ隣には水戸芸術館と京成百貨店が並ぶ中心市街地だけに、街の雰囲気も大きく変わりそうだ。
「1972年に開館した旧市民会館が、以前は市役所に隣接した場所に建っており、年間約30万人の利用者がありました。結婚式場などもあったので、水戸市民にとっては親しみのある建物だったんですね。けれど2011年の東日本大震災で被災し、使用できなくなってしまったことから新しい市民会館のプロジェクトがスタートしました」
そう語るのは、自身も水戸で育ち、水戸市の職員としてまちづくり計画に携わってきた海老澤佳之さん(水戸市 市民協働部 新市民会館整備課)。もとの場所から移転し、現在の泉町1丁目に新しい市民会館を建てた背景には、水戸市としての課題があったのだという。
「私が子どもの頃は、泉町1丁目界隈の中心市街地は多くの人で賑わっていましたが、今では歩いている人の数もずいぶん少なくなりました。これは水戸市に限らず全国的な傾向ですが、役所や学校、病院といった施設が郊外に移ったことにより、中心市街地の賑わいが失われてしまったのです。そこで、人の流れを中心市街地に戻そうという課題がありました。
もうひとつの課題は、茨城県内になかった2,000席規模のホールを造ることでした。音楽コンクールやコンベンションといった大型イベントを開催できるようにしたい。全国ツアーをするような人気アーティストの公演を水戸で開催したい。そういった要望があり、2,000席のホールを造ろうということになりました」(海老澤さん)

城下町の景観や風情に合ったデザイン

こうしてオープンした水戸市民会館。建物に入った瞬間、ふわっと木の香りに包まれ、木製の柱と梁を組み上げて作られた「やぐら広場」(写真下)に迎えられる。訪れた日はピアノが置かれ、市民が弾くピアノの音色が大きな吹き抜けの空間に響きわたっていた。

水戸市民会館

「設計は建築家の伊東豊雄先生を中心に進められ、水戸という城下町の景観や風情に合ったイメージというのが設計コンセプトでした。それもあって、木を基調としたデザインになっています。やぐら広場の本来の役割は通路なのですが、それだけでなくマーケットやパネル展示、パブリックビューイングといったイベントができる空間にしていきたいです」(海老澤さん)
「近年の地球環境に対する意識の高まりに応えるような、自然の優しさを感じられる空間になっています。建物のいたるところに見られる矢羽根のデザインも城下町を意識したものです。それから大ホールの音響反射板は、水戸の名物である梅をイメージしたデザインになっています」(水戸市民会館運営事務局 井上薫さん)

水戸市民会館

地上4階地下2階の建物は、グロービスホール(大ホール・2,000席)、ユードムホール(中ホール・482席)、小ホール(収容人数 192人)のほか、大小さまざまな会議室、展示室、スタジオ、和室などからなる。コンサートホールだけでなく、国際会議にも対応できるコンベンション機能を備え、市民の講座や習い事など、あらゆるニーズに応える施設が求められている。
「公共ホールですから、市民の皆さんに向けて開かれた場でなければなりません。コンサートにしても、生の音を響かせるクラシックから、PAを使うロックやポップスまで、幅広く対応する必要がありました。音響についても綿密に調整をし、先日のオープニング公演では耳の肥えた水戸の皆さんにもご満足いただけたようです」(井上さん)
「新たな公共施設の建築にあたっては、往々にして地元の反対運動が起こります。だからこそ、徹底的に市民の要望を聞いて、取り入れようと考えました。音楽コンクールを開催したい、チアリーディングの練習がしたい、PTAの集会がしたい、趣味のワークショップを開きたい、茶道のお茶会ができる和室がほしいなど……地域のコミュニティ、市民ひとりひとりの活動に寄り添った場にできるよう努めてきました」(海老澤さん)

水戸市民会館

(写真左上)小ホール、(右上)スタジオ、(左下)展示室、(右下)和室。

市民にとってのサードプレイスに

さらには子どもが遊べる「こどもギャラリー」、歓談や打ち合わせができる「ミーティングラウンジ」、自習室としても使える「ラウンジギャラリー」などもあり、細部まで配慮の行き届いた施設を見学するうち、水戸の市民が羨ましくなった。
「私の理想は、ここが市民にとってのサードプレイス(第3の場所)になることです。ファーストがご自宅、セカンドが学校や会社、そしてサードが市民会館。ホールで公演がないときも、市民の皆さんにここで思い思いの時間を過ごしていただく。軽く飲食をしながら友だちと歓談したり、学校帰りに寄って勉強したり、小さな子どもを遊ばせたり。オープニングの日にエントランスでトークイベントをやったら、ほとんど事前告知をしなかったにもかかわらず、道行く人が大勢集まってくださったのを見て、これが本来あるべき姿だなと思いました」(海老澤さん)
「イベントを運営する我々としても、ビッグネームのコンサートだけでなく、市民のワークショップやイベントをたくさん開催していきたいです。そうやってここに日常的に人が集まることによって、まわりの商業施設にも経済効果をもたらし、街の中心に賑わいが戻ってくればと」(井上さん)
地元を愛するスタッフの思いのもと、水戸市民に愛される場として、新しい市民会館はこれからますます充実した時を刻んでいくことだろう。

水戸市民会館

(写真左)こどもギャラリー、(写真右)ラウンジギャラリー。

■水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

所在地:茨城県水戸市泉町1-7-1
TEL:029-303-6226
ホール形式:プロセニアム形式
席数:2,000席(車椅子席は最大26席可能)
詳細はこちら

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