Web音遊人(みゅーじん)

目指したのは大編成のなかで際立つ音と響き「チャイム YCHシリーズ」

約30年ぶりのフルモデルチェンジ

ピアノのように半音階に並べた音管を、ハンマー状のマレットで叩いて演奏するチャイム。教会の鐘の音を再現するために考案された打楽器で、その名は広く知られていますが、どんな楽器か、詳しいところはよく知らない人が多いのではないでしょうか。
「オーケストラや吹奏楽で打楽器パートを担当しない限り、触れる機会はまずないかと思います。片手で単音を叩くだけでなく、両手にマレットを持って複雑なパッセージを叩くこともあり、いずれにしても観客の注目を浴びるので、打楽器奏者にとっては気の抜けない楽器といえます」と、奏者としても打楽器に親しんできたという、商品企画担当の入佐歩未いりさあゆみさん。

ヤマハのチャイムとして約30年ぶりのフルモデルチェンジとなる「YCHシリーズ」は、迫力ある響きの太管モデル「YCH-7018」と、「YCH-7018」より背丈が低く、クリアで明るいサウンドの細管モデル「YCH-6018」を展開。最新の音響解析技術によって、大編成でも埋もれない伸びやかな音色と響きを実現しています。
「音の改良でポイントとなったのは、マレットで叩くヘッドキャップの重量を上げたことです。音管の頭部を重くしたことで倍音構成が変わり、音程のクリアな音が鳴るようになりました。またヘッドキャップ以外の音管は塗装(クリアラッカー塗装)にすることで、共鳴音が柔らかく、あたたかい響きになり、音の伸び(余韻)と音量も格段にアップしました」と、開発担当の井上秀行さん。

(写真左)ヘッドキャップは音管の内部に伸びており、重量を上げることで音質の改良に結びついた。(写真右)前列は幹音(全音)、後列は派生音(半音)の音管を吊り下げる。音数が少ない楽曲では、必要な音管のみピックアップして吊すこともある。

(写真左)商品企画担当の入佐歩未さん。チャイム、マリンバ、ビブラフォン、ティンパニ、バスドラムなどのコンサート打楽器や、マーチング打楽器を担当している。幼稚園の鼓笛隊でマーチングドラムに出会ってから打楽器一筋。(写真右)開発担当の井上秀行さん。「多くのスタッフが関わり、時間をかけて形にした『YCHシリーズ』の音と響きを、ぜひ生で聴いていただきたいです」

使うほどに実感する演奏性、操作性の高さ

音色の質を左右する演奏性や、操作性にもさまざまな改良が加えられていますが、なかでも画期的なのが新開発の「ワイヤー吊りシステム」。実はチャイムで苦労するのが運搬とセッティングで、演奏会のたびに重量のある音管を取り外して運搬し、会場で取り付けなければならないそう。
「音管のセッティングには何工程かあり、コツが必要ですが、ワイヤー吊りシステムがあれば、音管をワンタッチで着脱することができます。誰がやってもヘッドキャップの位置が水平に揃うため、ミストーンしにくくなるという利点もあり、打楽器奏者が歓喜する夢のようなシステムだと思います」(入佐さん)

音管に付属したポールエンドを、ハンガーの溝に合わせてワンタッチで引っかけられる「ワイヤー吊りシステム(特許取得済)」。不具合が起きても、簡単に部品の取り換えもできる。

モダンながら楽器の伝統を踏まえたデザイン

音管が水平に、きれいに並ぶように設計した作り手の意図は、デザインにも反映されています。
「チャイムという楽器の特性や、作り手の意図を考えたとき、音管を際立たせるデザインにしたいと思いました。ステージ上で、キラキラと輝く音管が整然と並ぶ姿が際立つよう、フレームなどのその他のパーツは黒に統一し、余計な情報は与えないようにしています」と、デザインを担当した西岡大貴ひろきさん。
また、シンプルさを追求しつつも、装飾性を持たせてきたチャイムの伝統を汲み、サイドフレームには王冠をモチーフとする造形があしらわれています。
「過剰な装飾は控えるのがヤマハのデザインポリシーですが、無機質になりすぎると『アコースティック楽器らしくない』と捉えられる恐れがあります。アコースティック楽器のデザインにおいては、合理性の追求だけでなく、歴史や伝統に基づいた造形を模索することが大切だと思います」(西岡さん)

(写真上)クラシカルなチャイムの佇まいを意識した、左右のサイドフレームの王冠のモチーフ。(写真下)脚の部分には、ヤマハの楽器のアイコンとして、フルコンサートグランドピアノ「CFX」の腕木(うでぎ)曲線を取り入れている。

「30年前にやり残したことを拾い上げながら、装飾しすぎず、かといってぶっきらぼうでない、ヤマハらしいアコースティック楽器の造形にまとめられたと思います」というのは、YCHシリーズの前身であるCHシリーズのデザインも担当した辰巳恵三さん。辰巳さんは、30年のときを経て、新旧2つのチャイムを手掛けることになりました。こうしたストーリーが存在するのは、開発のスパンが長いアコースティック楽器ならでは、といえそうです。
「アコースティック楽器は、すべてのパーツの形状が音に影響しますので、パーツごとに議論があったといっても過言ではないくらい、辰巳さんとはさまざまな意見交換をしました。なぜフレームが黒なのか、なぜ脚が曲線なのかなど、すべての造形に意味があることを皆さんに知っていただきたいです」(西岡さん)

(写真左)デザイン担当の西岡大貴さん。本モデル以外にもビブラフォン、シロフォンとパーカッション楽器を担当。その他、ドラムのキックペダル「FP9」、サイレントベース「SLB300」、デジタルミキサー、ゴルフ「RMX」と幅広い製品デザインに関わる。(写真右)YCHシリーズの前身であるCHシリーズのデザインも担当した辰巳恵三さん。これまでにチャイムをはじめ、カジュアル管楽器「ヴェノーヴァ」やエレクトリックバイオリン「YEV」など、ヤマハの数々の楽器デザインを手掛けてきた。

「楽器のデザインの本質はずっと変わっていませんが、30年前は紙に平面で描いていたものを、今は3Dで作ることができます。技術面での精度、完成度は確実に上がっているなか、今の自分たちが持ち得る限りのアイデア、ノウハウを『YCHリーズ』につぎ込めたことは感慨深いです」(辰巳さん)

商品企画、開発、デザインだけでなく、音響解析や生産管理など、さまざまな分野のスペシャリストがチームを組み、構想だけで数年かけ、じっくりと形にした「YCHシリーズ」。今後ステージでチャイムを見かけたときは、チャイムの佇まいや音色、奏者の動きに注目してみてはいかがでしょうか。

ヤマハチャイム YCH-7018/YCH-6018 菅原淳インタビュー

■チャイム「YCH-7018」

C52-F69の⾳域を持つ太管モデル。豊かな基⾳とサスティン、そして広いダイナミックレンジが特⻑で、⼤編成の中でも埋もれないパワーがあります。
詳細はこちら

■チャイム「YCH-6018」

C52-F69の⾳域を持つ細管モデル。 豊かな基⾳とサスティンを持ちながら、美しくクリアな響きが特⻑です。 YCH-7018に⽐べて10cm演奏ポジションが低いため、背丈の⼩さめの⽅でも楽に演奏することができます。
詳細はこちら

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