今月の音遊人
今月の音遊人:實川風さん「音楽は過ぎ去る時間を特別な非日常に変えるパワーを持っていると思います」
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大阪・関西万博で活躍した、ヤマハやベーゼンドルファーのピアノたち
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2025.10.29
2025年4月13日から10月13日まで、半年にわたって開催された大阪・関西万博。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、参加各国の個性豊かな展示が注目を集め、開催期間は多くの来場者の熱気にあふれた。そんな中、いくつかのパビリオンやイベント会場にて、ヤマハがピアノをはじめとする楽器の提供や技術協力を行った。その活躍を振り返ろう。
「芸術は生命を再生する」がテーマのイタリアパビリオン内のホールでは、ヤマハのコンサートグランドピアノ「CFX」が常設展示された。ピアニストによるコンサートをはじめ、ダンス、歌、舞台芸術など、多彩なライブパフォーマンスが毎日開催され、コンサートがある際にはCFXが使用された。
パビリオンを入ってすぐの円形劇場では、透明感ある柔らかなピアノ音源が来場者を迎え入れた。正面の大型ビジョンに映し出される淡い色調の映像と見事にマッチして、来場者を一瞬で穏やかな気持ちにさせ、圧倒的な没入感で心を癒した音色。それこそがCFXだった。
その映像で流されたのは、CFXの公式アンバサダーを務めるピアニスト、アルベルト・ピッツォ氏による演奏。この万博のためにピッツォ氏が作曲したというオリジナル曲『SKY』(イタリアパビリオンテーマソング)。優しい曲調がCFXの繊細な色彩感と溶け合って、時空や場所を超えた展示会場へと来場者を誘った。イタリアパビリオンを訪れた人は、このCFXの音色と空間全体の雰囲気を堪能したことだろう。

イタリアパビリオン。アルベルト・ピッツォ氏による生演奏も行われた(写真一番上)。
楽譜をモチーフにした螺旋状のオブジェがとても印象的だったオーストリアパビリオンでは、「未来を作曲」をテーマに、音楽とテクノロジーを融合した展示が話題となった。
国の多様性と創造性が体験できる館内に入ると、オーストリアを代表するピアノメーカー、ベーゼンドルファーのグランドピアノが視界に飛び込んできた。ピアノの屋根に葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」が描かれた絢爛豪華なピアノ。そこには、オーストリアと日本の歴史と伝統が絶妙にブレンドされた特別な風格が漂っていた。

オーストリアパビリオン。ベーゼンドルファー「The Great Wave off Kanagawa(神奈川沖浪裏)」自動演奏機能付きピアノが設置されていた。
このピアノで、日本とオーストリアの歴史を紹介する映像と同期させた自動演奏が披露された。ピアノ協奏曲風の軽やかな小曲は、オーストリアの学生が「未来を作曲する」をイメージして作ったオリジナル曲とのこと。浮世絵が描かれたピアノで演奏された、モーツァルトを想起させる作品。その融合も実に見事だった。
オーケストラの音と連動して鍵盤とペダルが動き、自動でピアノ演奏が進んでいく様子に、子どもたちはみな目をキラキラ輝かせて見入っていた。テクノロジーと音楽との融合にインパクトを受けた子どもたちが、将来は新技術の担い手になるかもしれない。
一方、日本のプロデューサー8人がそれぞれの視点でテーマを探求・表現する「シグネチャーパビリオン」の一つでもCFXが活躍した。設置されたのは「いのちの遊び場 クラゲ館」の「いのちのゆらぎ場」。屋外の広場に、自然の中に溶け込むように佇むCFXは「希望のピアノ」と名付けられた。
世界の子どもたちが描いたクラゲの絵でラッピングされた「希望のピアノ」は、誰でも自由に弾くことができたコンサートグランドピアノ。大人も子どももクラゲが浮遊するように無心になって、創造力を呼び起こそうというのが狙いだったこのパビリオン。

CFXが使われた「希望のピアノ」(左)とクラゲ館で開催されたイベントの様子(右)。
「希望のピアノ」を囲むように子どもたちが順番待ちの列を作り、思い思いに音を出す。レパートリーの1曲を弾く子や初めて触る鍵盤をちょっとだけ押してみる小さな子、レッスンで弾いている練習曲を弾く子……。みんな何にもとらわれず、心を解放してピアノと遊んでいた。
クラゲ館ではほかに、テクノロジーを使って多彩な音を出す遊びや打楽器が叩けるコーナーなど、たくさんの仕掛けで創造性を呼び覚ました。そのシンボルとなった「希望のピアノ」を体験した人は、きっと自身の内なる創造性を発見しただろう。プロデューサーの中島さち子氏(音楽家・数学研究者)が、「『希望のピアノ』で創造性あふれる音楽を奏で、遊んでほしい」と願った通りの展示となった。
このほかにも、いくつかの海外パビリオンが、ヤマハの協力によりさまざまな機種のピアノの展示などを行った。
カナダパビリオンに設置されたコンパクトグランドピアノ「GB1K」(下左)やポーランドパビリオンに設置されたディスクラビア「S6X-ENPRO」(下右)。

さらには、EXPOホール「シャインハット」にはCFX、EXPOナショナルデーホール「レイガーデン」にはハイブリッドピアノ「N3X」も提供され、万博こども音楽会(下左)やCANADA- Te Aratini Gala Showcase -(下右)といった催事やイベントで使われた。

9月17日(水)からは、ミャクミャクなどをデザインしたストリートピアノも提供。設置当日にはハラミちゃんがサプライズで登場し、演奏を楽しんだ。閉幕まで多くのピアノファンが演奏に訪れ、大いに会場を盛り上げたストリートピアノ。ここにも、これまで全国のべ200か所以上でストリートピアノを実施してきたヤマハのノウハウが活かされていた。

こうして多くのパビリオンにヤマハのピアノや技術が採用されたことは、ヤマハへの信頼の証でもある。イタリアパビリオンへの協力は、ピアニストのピッツォ氏を通じてコミッショナージェネラルのマリオ・ヴァッターニ大使から直々に依頼されたものだという。
これまで幅広いジャンルでの楽器開発やアーティストサポート、教育分野への尽力など、長年にわたって世界各地で地道に積み重ねてきたヤマハの活動が、万博という国際舞台で結実し、こうして会場のさまざまな場所でピアノ製品が活躍したことを心から誇りに思う。
開催期間:2025年4月13日(日)〜10月13日(月・祝)
会場:大阪 夢洲
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