今月の音遊人
今月の音遊人:大西順子さん「ライブでは、練習で考えたことも悩んだことも全部捨てて自分を解放しています」
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ウェス・モンゴメリーには、リヴァーサイドからヴァーヴへと所属レーベルを“引っ越す”前に、ストリングス・オーケストラと共演していたという“経歴”があった。1963年、移籍直前のことだ。
この年、彼は5枚のアルバムをリリースしている。おそらくリヴァーサイドとの契約を打ち切るための措置として講じられたレコーディングだったのだろう。未発表テイク集まで出していることからも、それが察せられる。
『フュージョン!』は、そんな年の最初にリリースされた1枚だった。
白熱のライヴを収録した前作『フルハウス』(1962年)は、彼の代表作のひとつとして挙げられることも多い作品。
ただ、その時点で“ウェス・モンゴメリーの代表作”というのは、あくまでジャズ・ギターのカテゴリーにおけるものであって、ポピュラー音楽全体を俯瞰すれば微々たるものに過ぎなかったのも事実だった。
とはいえ、その功績によって彼はレーベル移籍というステップアップのチャンスを得ることになったのだけれど、もうひとつのご褒美として“ストリングス・オーケストラとの共演”という栄誉を与えられていた。それがこの『フュージョン!』だったと思われる。
当時、ストリングス・オーケストラと共演するレコーディングは予算的にも贅沢で、ジャズ・ミュージシャンが簡単にできるようなことではなかった。いや、現在もそうかもしれないけれど……。
ウェス・モンゴメリーはこのレコーディングで、ハープを含む21人の弦楽隊が奏でるロマンチックなサウンドに乗せた、生気のない演奏を披露している。
“生気のない”なんてディスった表現をして申し訳ないのだけれど、ストリングス・オーケストラに合わせたようにテンポも音量も控えめで、オクターヴ奏法で前のめりに弾く前作に比べると明らかに彼自身が違和感を感じているレコーディングだったと言わざるをえない。
ところが、このアルバムを“ジャズ・ギター”という枠から外してみると、実にアクがなくスッキリ&スイートで“聴きやすい”のだ。
ウェス・モンゴメリー自身は次作の『ボス・ギター』で、オルガンとドラムスによるトリオ編成の、ハード・バップ・モード全開のスタイルに戻っている。一度出した首を引っ込めるかのように……。
まるでマーケットのリサーチをしていたかのような1963年の活動の陰に、前回で触れたクリード・テイラーというプロデューサーが動いていたかどうかは定かではない。
しかし、ウェス・モンゴメリー本人の個性にフォーカスするだけでは、彼の才能を活かしきれないということに気づかせてくれた“挑戦”でもあった。それを、敏腕と呼ばれるほどのプロデューサーが見逃すはずがない。
ウェス・モンゴメリーという突出した個性を活かしながら、ジャズというカテゴリーを超えるマーケットに訴えることができるスッキリ&スイートで“聴きやすい”場を用意すること――。
それが、ヴァーヴで考えられていた“ウェス・モンゴメリー・プロジェクト”の核となっていたはずだ。
ヴァーヴでの第1弾『ムーヴィン・ウェス』は、ジャズ・オーケストラをバックに、彼の演奏を“生気のないもの”にさせない工夫が施されているように感じる。
それはつまり、アレンジをウディ・ハーマンやクインシー・ジョーンズのようなメリハリの利いたものにすること。要するに、ロックを意識するということになるかな。
こうしてヴァーヴにおける初動では、ウェス・モンゴメリーの個性を活かしながら“脱ジャズ・ギター”を可能にするアレンジ的な方法論が試され、その結果は、ジャズ・ギター的なカテゴリーに片足を残したまま10万枚を超えるヒットというかたちで示されることになった。
あとは、選曲だ。
ようやく話がビートルズに戻ってきそうなので、次回をお楽しみに。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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