今月の音遊人
今月の音遊人:Crystal Kayさん「音楽がなかったら世界は滅びてしまうというくらい、本当に欠かせない存在です」
3439views

レッド・ツェッペリンを超えて、ロバート・プラントが進む“NOW AND ZEN”
この記事は4分で読めます
520views
2025.11.18
tagged: 音楽ライターの眼, セイヴィング・グレイス, ロバート・プラント
2025年、ロバート・プラントは不動の存在感で君臨を続ける。
1968年、レッド・ツェッペリンのシンガーとして世界デビュー、一躍世界最大のロック・バンドの座に。解散後はソロ・アーティストとして活動、1948年生まれというから77歳となる現在も精力的に作品を発表、日本は2014年の“サマー・ソニック”フェス出演からご無沙汰だが、元気に世界をツアーしている。
レッド・ツェッペリンでの輝かしい経歴と現在の音楽志向を両輪にして、ロバートは前進を続ける。彼は1988年に『NOW AND ZEN ナウ・アンド・ゼン』というアルバムを発表。“Now and Then 今と昔”とZEPを合体させたヒネリの効いたネーミングだが、2025年の彼にむしろ相応しいタイトルだろう。
2025年9月から日本劇場公開された映画『レッド・ツェッペリン:ビカミング』はロバートとジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナムの4人がレッド・ツェッペリンに“なっていく=ビカミング”までを描いたドキュメンタリー作品だ。彼らの出生から若手ミュージシャン時代、『レッド・ツェッペリン』『レッド・ツェッペリンII』(共に1969)で世界的なブレイクを果たすまでがバンドの音楽とインタビューを交えながら綴られていく。
『グッド・タイムズ・バッド・タイムズ』『胸いっぱいの愛を』など初期のツェッペリン・クラシックスをIMAXの大スクリーンと爆音でエクスペリエンス出来た本作だが、映画館での公開は一段落、これから我々は配信やブルーレイなどで見ることになりそう。細かいディテールに注目しながら何度も見ることができるのもファンにとっては楽しみだろう。
なお本作はバーナード・マクマホン監督によるものだが、それは彼が1920年代周辺のアメリカン・ミュージックを掘り下げたドキュメンタリー・シリーズ『American Epic』を手がけており、それを見たロバートとジミーが気に入ったのがきっかけだった。特にロバートは近年のソロ・キャリアでこの時期の音楽に傾倒しており、マクマホンと合体を果たすのは自然の成り行きだった。
名盤アルバム『フィジカル・グラフィティ』(1975)の50周年を記念して発表されたEP。1975年5月のロンドン“アールズ・コート”公演から『死にかけて』『トランプルド・アンダーフット』、1979年8月の英国“ネブワース・パーク”公演から『シック・アゲイン』「カシミール』という構成で、4曲だけ?……とはいっても全34分という、ちょっと短めのアルバムぐらいの長さだ。
4曲いずれも『レッド・ツェッペリンDVD』(2003)で既発の音源ということで拍子抜けしたファンもいたが、もちろんライヴ・パフォーマンスは最高。両公演で演奏されたこれら以外の曲のサウンドボード音源も存在するため、本格的なライヴ・アルバムからの“先行シングル”になるのでは?……という噂も立ったが、現時点ではフル・ライヴがリリースされるという発表はない。
いくつかのリーダー・プロジェクトやアリソン・クラウスとのコラボレーションを経て、ロバートが2019年に結成したのがセイヴィング・グレイスだ。ファースト・アルバム『セイヴィング・グレイス』ではスージー・ディアンの女性ヴォーカルやアコースティック・ギター、バンジョーなどをフィーチュア。ラインド・ウィリー・ジョンソンの戦前ブルースから近年のインディーズLOW、レッド・ツェッペリン時代から愛好してきたメンフィス・ミニーやモビー・グレイプなど、新旧世代のアメリカン・ミュージック歌曲集となっている。
往年のシャウトは封印されているものの、抑えの効いた説得力のあるヴォーカルは年輪を経たからこそ出せるもの。半世紀を超えるその音楽キャリアが染み込んだ、味わい深いアルバムだ。
ロバートはまたポール・ウェラーのアルバム『ファインド・エル・ドラド』にもゲスト参加。ハミシュ・イムラックのカヴァー『クライヴズ・ソング』(作曲はインクレディブル・ストリング・バンドのクライヴ・パーマー)でヴォーカルを聴かせている。ザ・ジャム〜スタイル・カウンシルで人気を博し、ロバートとは世代が異なるようにも思えるポールだが、1958年生まれの67歳。この年齢になると10年程度は大した差ではないので、“夢の共演”を思わせないリラックスした歌いっぷりで楽しませてくれる。
『セイヴィング・グレイス』発表に伴い、ロバートはいくつかインタビューを受けているが、その中で白眉といえるのがゲイリー・ケンプ(スパンダー・バレエ)&ガイ・プラット(ピンク・フロイド他)の配信トーク番組『Rockonteurs』への出演だ。アルバムについてはもちろん、戦前ブルースやアメリカーナ、スティーヴ・マリオットやテリー・リードとの交流、最初期のレッド・ツェッペリンがライヴで『フレイムズ』をカヴァーしていたエルマー・ガントリーズ・ヴェルヴェット・オペラなど、さまざまな話題について1時間以上雄弁に語っている。「『ビッグ・ログ』や『シー・オブ・ラヴ』をライヴでやるつもりはない」というのは近年のセット・リストからすると驚きではないが、「家にレッド・ツェッペリンの未発表音源カセットが何本もある」という発言は、いずれ何かがリリースされるのでは?……とつい期待してしまう。
2025年の夏にはヨーロッパ、秋には北米をツアーしているロバートだが、ソロ・ナンバーに加えて『レイン・ソング』『フォー・スティックス』『フレンズ』などレッド・ツェッペリン時代の曲もプレイされている。今後の彼がどんな方向に向かっていくか楽しみにしたい。

発売元:ワーナーミュージック・ジャパン
現在発売中
価格:2,970円(税込)
詳細はこちら
文/ 山崎智之
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
tagged: 音楽ライターの眼, セイヴィング・グレイス, ロバート・プラント
ヤマハ音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!