Web音遊人(みゅーじん)

82Z

アンバー仕上げが生む新感覚のヴィンテージ/カスタムサクソフォン「82Z」

表面仕上げのバリエーションが豊富で、多彩なジャンルの奏者に愛されるカスタムサクソフォン「82Z」。2023年秋に登場した「アンバーラッカー仕上げ」は、ヴィンテージ感のある外観に加えて、音色や吹奏感でも多くの奏者に新たなインスピレーションを与えそうだ。

前例のない「二重塗装にじゅうとそう」で実現したモダンでヴィンテージなサクソフォン

厳選した素材と最新の技術、長年培ったノウハウを集めて作られるヤマハのカスタムサクソフォン。そのなかで、ゴールドラッカー、金・銀メッキ、ブラックラッカーなどの幅広い表面仕上げが揃うのが「82Z」シリーズ。管楽器の場合、管体の素材や形状はもちろん、小さなパーツの仕様ひとつで音色や吹奏感が変わってくるが、表面の塗装もこれらを左右する大きな要素となる。
またサクソフォンに限ったことではないが、ジャズプレイヤーのなかにはヴィンテージ楽器を好む奏者もいる。製造から時間がたったヴィンテージならではの質感は魅力的だが、メンテナンスが大変だったり、音のコントロールが難しかったり、そもそも楽器の数が少なく手に入れにくい。そこで「82Z」をベースに、ヴィンテージの趣を持たせた新たな仕上げのモデルを開発。2023年秋、アンバーラッカー仕上げのアルトサクソフォン「YAS-82ZA」とテナーサクソフォン「YTS-82ZA」が発売された。
「『82Z』シリーズは、それまでヴィンテージを愛用していた多くのジャズプレイヤーから支持を得てきた歴史があります。ただジャズ向けの楽器というわけではなく、新しいアンバーラッカー仕上げも、奏者の皆さんのより幅広い要望に応えるために生まれたものです」と教えてくれたのは、開発を担当する佐野剛昭さん。

最新の塗装技術でヴィンテージ感を表現する

開発において最初の関門となったのは、「ヴィンテージサクソフォンを思わせる管体の色とはどういうものか?」という問いだ。
「一般的にヴィンテージサクソフォンと呼ばれるものは、長年の使用により塗装が剝がれてアンラッカーの状態になったものが多いです。ですが今回の開発では、ヴィンテージの再現ではなく、ヴィンテージの味わいと現代的な華やかさが同居する“モダンなヴィンテージ”という新しい価値観を生み出したいと思いました。世の中でヴィンテージと表されるあらゆる商品の色を調査し、数えきれないほどの試作品を作りましたが、“アンバー”という名称も含めて、結論を出すまでには多くの議論と試行錯誤がありました」。そう語るのは、開発を担当した藤井駿さん。

(左)開発を担当した藤井駿さん。中学の吹奏楽でサクソフォンに出会って以来、奏者としてもサクソフォンに親しみ、開発業務に生かしている。(右)開発を担当した佐野剛昭さん。ユーフォニアムの開発、品質管理などを経て現職に。今回の開発では、主に量産体制を整える業務に携わる。

重要なのは、アンバーラッカーという色だけではない。ラッカーをかけたあとに彫刻を施す“後彫あとぼり”と、その上にトップコートをかけて保護する“二重塗装”もポイントとなっている。
「サクソフォンは、奏者がどんな演奏をするかと同じくらい楽器の“見た目”にも注目が集まります。特にステージ上では多くの観客の視線を浴びるため、サクソフォンの顔でもあるベルの彫刻がより際立つ後彫りを採用しました。ただし、アンバーラッカーはごく薄い塗装になっており、彫った箇所は下地の真鍮が露出してさびやすくなるため、トップコートをかけて保護することにしました。すると錆びを防げるだけでなく、音にも良い変化が生まれ、まとまりのある落ち着いた音色になることがわかりました」(藤井さん)

<カスタムサクソフォン「82Z」とは?>
ジャズ・サクソフォン奏者であるフィル・ウッズ氏の協力を得て、2002年にアルトサクソフォンとテナーサクソフォンを発売(第1世代)。
2013年にリニューアルを実施(第2世代)。ベルの製造法とネックの変更、メタルレゾネーター(キイパッド中央部の反射板が金属製)の採用により反応の良さや表現力の幅が向上。2022年に20周年を迎え、現在ソプラノ、アルト、テナーを揃える。

●ラッカーと真鍮のコントラストが美しい「後彫り」
現代的でありながら、ヴィンテージの風合いも感じさせるアンバーラッカー仕上げ。アンバーラッカーで塗装したあとに「カスタムZ」のロゴをレーザーで、また、花びらを職人の手作業で“後彫り”することで、筐体の真鍮の色を露出させる。ステージでライトを浴びたとき、彫刻がより立体的に浮き出て見える効果がある。82Z

●彫刻のあとにラッカーをかけた場合
サクソフォンで最も一般的なゴールドラッカー仕上げ(下写真の楽器は「YAS-82Z」)。彫刻してからラッカーをかけるため、アンバーラッカー仕上げに比べると彫刻の主張は少ない。82Z

●ベルから1番管にかけての二重塗装
ラッカーとトップコートの二重塗装になっているのは、音の出口であるベルと、ベルにつながる1番管(U字管)。音の出口に近い管体の重量がやや増すことで、はっきりとした輪郭がありながら、落ち着いた深みのある音が鳴るようになった。82Z

部門の垣根を越えて確立した「二重塗装」のノウハウ

二重塗装が音色に影響を与えることはわかっていたが、あくまでもヴィンテージ感のある外観に重きを置いていた開発陣。だが塗装によって変化した音色に、多くの奏者が反応を示しているという。
「当初は、おとなの趣味層の方が、アンバーラッカー仕上げのヴィンテージ感や彫刻の美しさに注目してくださったらいいなと考えていました。ですが蓋を開けてみると、トップアーティストを含めて多くの奏者の方が『82ZA』の外観だけでなく、音色や響きにも注目してくださり、アンバーラッカー仕上げの予想以上の反響の広がりをうれしく思っています」(佐野さん)
またアンバーラッカー仕上げが形になった背景には、「開発」「化学技術」「生産」の3部門による密な連携があったそうだ。
「量産に至るまでの過程は、乗り越えなければならないハードルの連続でした。特に苦労したのは彫刻のあとにかけるトップコートの配合比で、透明に近いので色むらはできないものの、塗料の付着のしかたに難点があったため、一時は量産を諦めかけたこともありました。ですが“モダンなヴィンテージ”という新しい価値観を持った楽器を世に送り出したいという強い思いがあったからこそ、3部門のスタッフで知恵を出し合い、トライ&エラーを繰り返し、これまでにやったことのない二重塗装での量産体制を整えることができました」(藤井さん)
佐野さんが、ヤマハの塗装技術について教えてくれた。「ヤマハのサクソフォンは、まず静電気によって均質な塗膜を作ります。そのあとに焼き付けをすることで、さらに強い塗膜になっています。こうした技術をはじめ、さまざまなノウハウを時間をかけて確立してきたのですが、今回のアンバーラッカー仕上げのように、薄くラッカーをかけたあとにトップコートを重ねる二重塗装は前例がなかったため、新たにノウハウを作る必要がありました。ヤマハには、サクソフォンだけでなく、あらゆる楽器における塗装のノウハウがあり、深い知見を持った技術者がいるから実現できたことだと思います」(佐野さん)
過去に作られたヴィンテージではなく、最新の塗装技術で現代のヴィンテージを表現したアンバーラッカー仕上げの「82ZA」。自分の音色を追求する奏者との化学反応によって、これまでにない新しい音楽やステージパフォーマンスが生まれることだろう。

●仕上げのバリエーション
「82Z」シリーズにはアンバーラッカー仕上げを含む6種類の仕上げがあり、それぞれ音色と吹奏感に特徴がある。※下記モデルはすべてアルトサクソフォン

82Z

(左)ゴールドラッカー仕上げ。音の立ち上がりが良く、艶のあるきらびやかな音が特徴。息を入れやすく、奏者のレベルを問わない。
(右)金メッキ仕上げ。芯のある力強さと重厚な響きが特徴。抵抗感ある吹き応えが、豊かな表現力を生み出す。

82Z

(左)銀メッキ仕上げ。程よく抵抗感のある吹き心地で、やや明るめで密 度の濃い、独特のニュアンスのある音色が特徴。
(中)ブラックラッカー仕上げ。吹き応えがあり、ダイナミックレンジの広さが特徴。明るくパワフルな音色。
(右)アンラッカー仕上げ。管体の振動が奏者に伝わりやすく、心地よい吹奏感を生む。時間とともに味わいを増す外観も魅力。※写真は経年変化後の一例。出荷時にはラッカー仕上げと同じく表面には光沢があるが、何も表面処理をしていないので、時間の経過と共にくすんだ色合いに変化していく。その変化は使用環境やメンテナンス方法などの経年によって風合いが大きく左右される。

■カスタムサクソフォン 82ZA アンバーラッカー仕上げ

82Z
(左)<YAS-82ZA>アルトサクソフォン(右)<YTS-82ZA>テナーサクソフォン

ヴィンテージサクソフォンのような味わいのある、深みのあるアンバーラッカー仕上げのモデル。ベルと、ベルに続く1番管をアンバーラッカー+トップコートの二重塗装にすることで、「82Z」の特徴である明るく抜けのいい音に、シックな落ち着きが加わった。
YAS-82Zの詳細はこちら
YTS-82Zの詳細はこちら

photo/ 坂本ようこ(2~4枚目)

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