今月の音遊人
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パイプオルガンのオーバーホールに密着、サントリーホールリニューアルの舞台裏
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2017.10.12
2016年、開館30周年を迎えたサントリーホールが7か月に及ぶ全館改修工事を終え、2017年9月1日にリニューアルオープンを迎えた。ホールの顔とも言えるパイプオルガンも、この機会に本格的なオーバーホールと整音が行われた。日本最大級のパイプオルガンのオーバーホールは、いったいどのように行われたのだろう。
サントリーホールのパイプオルガンはオーストリア、リーガー社製。同社のオルガン製作者と整音師が来日してオーバーホールが行われたが、彼らとともにこの重責を担ったのがヤマハ。実はヤマハはサントリーホール建設当時からパイプオルガン設置に関わり、開館後の保守・管理も行っている。
パイプオルガンを語る上でまず知っておきたいのは、この楽器を扱うには多岐にわたるコンサルティング的な高度なノウハウが必要だということ。海外の製作者と設置希望者との間に立ち、楽器選定に必要な情報提供から、輸入通関業務、実際の設置作業計画、将来にわたる保守・管理など、トータルな高い専門性が求められる。
これまでヤマハとパイプオルガンとの関わりはあまり知られることがなかったが、大正時代にイギリス製のパイプオルガン組立作業に携わったことに始まる長い歴史がある。昭和初期には国産初のパイプオルガンの建造に成功。そういった先人達の情熱と、楽器メーカーとしての経験とノウハウが、近年のサントリーホールをはじめ、国内の大小約130台のパイプオルガンの設置や保守・管理の技術に受け継がれていると言えよう。
さて、オーバーホールを行う上で最も重要なポイントは、音色や響きなど楽器本来のオリジナルな部分は変更せず、それを保持するための作業を行うこと。それを基本として、どんな作業をどのように行うのか、まずは綿密な準備が練られた。こうした準備段階からも、ふだんの楽器の状態を知るヤマハのコンサルティング力が発揮された。
いよいよ作業が始まる。オルガンの周囲には建築現場のような足場が組まれ(写真下左)、総数5,898本のパイプの大部分が慎重に取り外された(写真下右)。そして、パイプの外側はもちろん、内側の埃も丁寧に取り除かれた。また、何種類もあるふいごの張り替え、演奏メカニックの分解・調整、摩耗した部品の交換・修理などが行われた。
ふだんのメンテナンスでは触れられない部分も取り出し、細部まで入念にチェックしていく。見逃しは許されない状況のなか、時には行程を戻って作業することもあったという。膨大な量のパーツを前に、オルガン製作者たちの豊富な経験と鋭い感性、妥協を許さない忍耐力が求められる作業が続いた。調整作業が完了すると全てのパイプがオルガンに戻され、引き続いて慎重に整音・調律された。
今回はまた、オーバーホールと同時に、ヤマハが提供する独自のシステム、ヤマハコンビネーションシステムの更新も行われた。コンビネーションシステムとは、オルガニストがあらかじめ音色の組み合わせをオルガンに記憶させ、演奏中にボタン一つで瞬時に呼び出すことができる、現代のコンサートオルガンには欠かせない装置である。サントリーホールのオルガンは74種類もの音色をもち、オルガニストはリハーサルの時に音色の組み合わせを事前に入力しておくレジストレーション作業というものを行う。今回の改修ではその記憶数を飛躍的に増大させ、さらにオルガニスト30人分の演奏データを専用の認証キーを用いて個別管理できるようにした。また、オルガンの演奏補助機能を一新して操作ボタンを再配置し、演奏上の利便性をさらに向上させた。
この様に、パイプオルガンという古典楽器と最新のデジタル技術とが融合することで、オルガニストが演奏に集中できる環境が整えられていることを知ると、パイプオルガンの響きもまた違う味わいに聴こえそうだ。
こうしてパイプオルガンのオーバーホールは無事に終了した。オルガンはより鮮明で調和のとれた響きとなったという。毎月1回木曜日のランチタイムに開催されている「オルガン プロムナード コンサート」(無料)では、大ホールが開放され誰もが気軽にオルガン演奏を楽しむことができる。今秋はぜひリニューアルオープンしたサントリーホールで、音色にも一層の磨きを増したパイプオルガンの音色をじっくりと堪能してみたい。
所在地:東京都港区赤坂1-13-1
TEL:03-3505-1001(代表)
●サントリーホール オルガン プロムナード コンサート(お昼休みの無料コンサート)
●サントリーホールのオルガン・カフェ#4
日時:2017年10月15日(日)13:30開演(12:50開場)
会場:サントリーホール 大ホール
出演:勝山雅世(オルガン)、前田啓太、綱川淳美(打楽器)、川平慈英(ナビゲーター)
曲目:ヴィエルヌ『ウェストミンスターの鐘〜幻想曲集 第3巻 作品54から(チャイムパート編曲:近藤岳)、J.S.バッハ『バビロンの流れのほとりにてBWV653〜ライプツィヒ・コラール集から』 ほか