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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#011 ジャズであるための理由を教えてくれる、かたくななピアノ・スタイル~ウィントン・ケリー『ケリー・ブルー』編
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2023.4.24
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?
1960年代“黄金期”のジャズを象徴するピアニスト、ウィントン・ケリーの出世作。
10代からプロとしてのキャリアをスタートさせたウィントン・ケリーは、20代でダイナ・ワシントン(ヴォーカル)のバックを務めたり、ビバップのオリジネーターであるディジー・ガレスピーのバンドに参加するなど、着実にキャリアを積み重ねていました。
そして1959年、時代の寵児として脚光を浴びていたマイルス・デイヴィスから声がかかり、彼のバンドへ参加。歴史的名盤である『カインド・オブ・ブルー』の収録にも名を連ねることになります。
本作は、その『カインド・オブ・ブルー』のレコーディング時期と重なるようにして録られた、飛躍の瞬間をとらえた記念碑と言える作品です。
メンバーは、マイルス・デイヴィスのバンドでも一緒のポール・チェンバース(ベース)とジミー・コブ(ドラムス)によるピアノ・トリオを軸に、2曲でナット・アダレイ(コルネット)、ボビー・ジャスパー(フルート)、ベニー・ゴルソン(テナー・サックス)が参加したセクステット(=6重奏団)となっています。
リリース時のアナログ盤には6曲を収録。CDリマスター版で2曲が追加されて、現行では8曲となっています。
ベニー・ゴルソンは当時、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズで音楽監督的な立場にいたので、本作もその勢いにあやかろうという意図があったのかもしれません。
実際に、ベニー・ゴルソンが参加している収録曲『ケリー・ブルー』と『キープ・イット・ムーヴィング』は、彼がホーン・セクションのアレンジをしたものと思われる仕上がりになっていて、それがウィントン・ケリーのピアノの特異性を引き立たせる効果を生んでいます。
それでは、ウィントン・ケリーの特異性とはなにか?
ひと言で言えば、リズム&ブルースのフィーリングにあふれた演奏スタイルということになると思います。
その特異性があったからこそ、ビバップからハード・バップへとジャズが進化を遂げていく時期に、旧来のジャズ・ファンから新しもの好きまでを取り込んで支持されたのです。
それはまた、“ジャズにとって忘れてはならないものはなにか”をシッカリと主張するサウンドを備えている──ということだったはずです。
ウィントン・ケリーの特異性は、ジャズを改革していく進取性とは逆のベクトルをもつものだと思います。
言うなれば、「不器用ですから……」とTVCMで語っていたイメージそのままの高倉健さんのように、変わりゆく時代に合わない自分を否定せず、認めている潔さに対して、ジャズ・ファンは共鳴してしまうのではないでしょうか。
時代の先に飛び出ることしか考えていなかったようなマイルス・デイヴィスがウィントン・ケリーを起用したのも、そのかたくななブルース由来のジャズのフィーリングを自分のバンドに混ぜることで、拠り所=アイデンティティを見失わないようにしたかったからではないか──とも想像できます。
ジャズのアイデンティティについての問題は、ロバート・グラスパーら現代の最先端を切り拓こうとしているミュージシャンたちの作品を読み解くうえでも参考になるポイント。
ピアノ・トリオとセクステットが混在した本作は、サウンド・コンセプトの違いによってアイデンティティをあぶり出すことのできる最適な教科書になっているのです。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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文/ 富澤えいち
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