今月の音遊人
今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」
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バッハ生誕333年、名手25人が秀逸な響きで333の客席を包んだ/J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会
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2018.4.26
tagged: ピアノ, ヤマハホール, J.S.バッハ, ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会
公演の中で、堀米ゆず子(バイオリン)も語っていたが、今年は「音楽の父」J.S.バッハの生誕333年で、ヤマハホールの客席数も同じく333。しかもこの日は、合奏協奏曲の金字塔「ブランデンブルク協奏曲」がブランデンブルク辺境伯に献呈された日でもあるという。そんな特別な時間と空間にふさわしく、舞台には堀米やオーボエの古部賢一ら、日本を代表する若手とベテランの名手25人が集結。この上なく色彩豊かでしなやかな、そして精妙さも十二分な「ブランデンブルク」全曲演奏を繰り広げた。
プログラムは休憩を2度挟んだ3部構成で、堀米と古部を中心に全6曲の演奏順を決定。演奏効果の高い第2番をラストに置いた上で、舞台の転換や流れなどを考慮したそうで、第1部には第1&3番が並べられた。
第1番では、堀米と古部の美しく自然体の対話が秀逸だった第2楽章、日橋辰朗のホルンをはじめとした複数のソロが軽快に絡みあった第3楽章など、独奏陣が華々しく活躍。一方、ソロと合奏の区別がない第3番では、曽根麻矢子の緻密で推進力のあるチェンバロに支えられながら、第1楽章から第3楽章まで弦楽器群が艶やかな流れを持続してみせる。ベテランの山口裕之(バイオリン)の的確な指示もあり、楽器間の旋律の受け渡しが精確に行われ、春風のように心地よい疾走を聴かせてくれた。
続く第2部の演目は、第5&6番。第5番は、フルート、バイオリン、チェンバロのソロが聴きどころだが、この日は、高木綾子(フルート)、堀米、曽根の豪華共演が実現。第1楽章のチェンバロの長大なカデンツァや、第2楽章のトリオ・ソナタにおける3楽器の滋味深く充実したやりとり。それを誠実に支える合奏のふくよかでキレもある秀演は、この日のハイライトのひとつになった。その後に置かれた第6番は、バイオリンを欠いて編成も小さいため、一見地味。だが、この日はその印象を一新するバーボン・ウイスキーのように濃厚な琥珀色の旨みに酔いしれた。中でも、速度指定のない第1楽章を骨太かつ繊細に構築したのが絶妙で、日本チェロ界の重鎮、安田謙一郎や、篠崎友美&柳瀬省太(ビオラ)、池松宏(コントラバス)など、オケでおなじみの面々の実力に改めて恐れ入った。
そして第3部の第4&2番。第4番では、水内謙一&宇治川朝政の温かく凛としたリコーダーが、堀米の堂に入った名人芸と息の合った掛けあいを展開。ソロと合奏が同じ旋律を呼び交わす第2楽章で、リコーダーが巧みなエコーを添えていたのもよかった。このように名演の連続を受けたトリの第2番では、トランペットの高橋敦が圧巻のソロを披露して、輝かしいフィナーレを現出。第3楽章の典雅で愛らしい主題を彼がオーボエにリレーする際の呼吸も実にみごとだった。
あと最後に一言。この日の6曲すべてを通し、演奏の屋台骨を献身的かつ情熱的に支え続けた通奏低音、曽根&池松の縁の下の“舞”に、心から拍手を贈りたい。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
文/ 渡辺謙太郎
photo/ Ayumi Kakamu
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