今月の音遊人
今月の音遊人:AIさん「本当につらいときも、最終的に救ってくれるのはいつも音楽でした」
6456views
情感溢れるハスキーな歌声で、人々の心を揺さぶってきた歌手、八代亜紀さん。最近は、演歌歌手の枠を超え、ジャズやブルースでファンの幅を広げています。大ベテランとは思えない明るく気さくな語り口の中に、音楽に対するひたむきな姿勢がにじみます。
自分の曲じゃダメかしら。「八代亜紀」として歌って48 年目ですから、一番聴いて一番歌った曲はやっぱり八代亜紀の歌でしょう。『なみだ恋』と『舟唄』。『なみだ恋』は最初の大ヒット。『舟唄』は八代亜紀のイメージを変えるために、阿久悠先生がレコード会社から何十曲も却下された末に作ってくれた曲。歌詞を最初の2行読んだだけで大ヒットすると思いました。
でも、私の曲を度外視して選ぶのだったら、『Fly me to the moon』かしら。小学生の時に父が買ってきてくれた、ジャズシンガーのジュリー・ロンドンのLPレコードに入っていた曲です。爽やかで心地良いボサノバのリズムにビックリしました。父は浪曲しか聴かない人だったから、そのレコードは「ジャケ買い」したと思うんです。私は子どもの頃からよく絵を描いていたのですが、ロングヘアーのジュリー・ロンドンが、私の描く絵にとってもよく似ていたんですね。
当時、父は運送会社を経営し始めたので、ガレージに停めたトラックでジュリー・ロンドンを流しながら練習していました。たくさん聴いて、たくさん練習しました。家族の前で「18番!ふらいみーとぅーざむーん、歌いますっ!」なんて、意味も分からないのに歌っていましたね。
音や音楽がないと人間は生きていけないと思います。だって、ウチの「チビたん」でさえもそうです。「チビたん」って?猫ちゃんです。以前飼っていたヒマラヤン。母がテープで私の曲『舟唄』をかけた時のこと。寝ていたはずの「チビたん」が「ミィミィミィミィミィ!」と走っていって、テープレコーダーを抱きしめたんですよ。面白くて、面白くて。母は「音楽は何でも好きなんじゃない?」と言って、今度はクラシックをかけたんです。そうしたら、全然知らんぷりだったの。また、入れ替えて私の曲をかけたら、やっぱり「ミィミィミィミィミィ!」って。笑っちゃいました。私の声や曲に愛の響きを感じるんでしょうね。動物だって、音楽がないと生きていけないのかもしれません。その時の様子を撮影していたら、ネット上で相当な再生回数だったと思いますよ(笑)。
出先で偶然音楽が流れてくるのはうれしいですね。何気なくコーヒーを飲んだり、みんなと話したりしている時に、ジャズとか流れてくると心が溶けちゃいます。やっぱり、音楽は必要なものですね。
2018年の冬は平昌オリンピックで盛り上がりましたが、フィギュアスケートを見ている時の私は、まさに「音遊人」でしたね。どの選手も楽しめる素敵な音楽を使っていて、フィギュアと音楽は切っても切れない関係だと思いました。選手たちが美しく躍る姿を見ながら、好きな音楽に心を委ねているとき、音楽で遊んでいるなあという感じがします。
『アランフェス協奏曲』が大好きでリサイタルで歌ったこともあるんですけど、五輪でも誰かが使っていました。やっぱりいいなと思いましたね。
以前行われたフィギュアの大会では、あまり上位の選手じゃなかったのですが『Bensonhurst Blues』という曲が使われていて、私のブルースアルバム『哀歌-aiuta-』にも入れたんです。超かっこいいです!超難しかったですけどね(笑)。フィギュア選手は、羽生(結弦)君も、宇野(昌麿 )君も好きだけど、特にネイサン・チェンが好き。姪の息子にソックリなこともあって、応援しちゃいました。
また、絵を描くためにアトリエに行くときは、移動中の車の中で必ず自分の昔のアルバムをかけるのですが、その時も音と遊んでいるのかもしれません。懐かしんだり、今度のコンサートで歌おうと考えたり。自分の作品に酔えるのは幸せだなと思います。
八代亜紀〔やしろ・あき〕
熊本県八代市出身。1971年デビュー。1973年に『なみだ恋』がヒット。その後、『愛の終着駅』『もう一度逢いたい』『舟唄』など、数々の名曲をリリース、1980年には『雨の慕情』で日本レコード大賞を受賞。芸能生活40周年を迎えた2010年には、文化庁長官表彰を受賞した。歌手活動の一方で、画家としても活躍し、“画家の登竜門”といわれるフランスの美術展「ル・サロン」で5年連続入選を果たす。2012年には、ジャズアルバム『夜のアルバム』を発表、以降は「フジロックフェスティバル」への出演など、幅広いジャンルで活躍。2017年10月に、ジャズアルバム第2弾『夜のつづき』を発売した。
八代亜紀オフィシャルサイト http://yashiro.mirion.co.jp/