今月の音遊人
今月の音遊人:原田慶太楼さん「音楽によるコミュニケーションには、言葉では決して伝わらない『魔法』があるんです」
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人生の時を刻むように「ポエム・サンフォニック ~100台のメトロノームのための」に寄せて
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2015.11.13
tagged: ポエム・サンフォニック~100台のメトロノームのための, リゲティ, メトロノーム, MP-90, サントリーホール
「カチ、カチ、カチ……」と正確にリズムを刻むメトロノーム。演奏速度を確認するなど練習用として使われ、表舞台に出ることはない。ところが、いつもは脇役のメトロノームがついに主役となる日がやってきた。
ハンガリーの作曲家、リゲティが1962年に作曲した「ポエム・サンフォニック ~100台のメトロノームのための」は、100台のメトロノームだけで演奏される作品。国内で演奏される機会はほとんどなかったが、東京交響楽団の第635回定期演奏会のプログラムにのることになったのだ(2015年11月22日/サントリーホール、11月23日/ミューザ川崎シンフォニーホール)。
演奏する上で必要なのは、ゼンマイ駆動による振り子式のメトロノーム。ここで登場するのが100台のヤマハメトロノーム「MP-90(アイボリー)」だ。いったいどのように演奏されるのだろうか。
まず、ホール内に置かれた100台を、作曲家の指示する速度にそれぞれ設定する。それらを順次作動させ、振り子が音を刻み始めたときが演奏の始まり。速度が速いものはスピーディに細かく、遅いものはゆったりと大きくと、各々に時を刻む100台のメトロノーム。その動きと音の生演奏の迫力はどんなものなのか、想像すらできない。
先日行われた動作確認の際には、実際に動く100台のメトロノームが、まるで人のようにも見えたという。
この作品を冒頭において演奏会のプログラムを構成した指揮者のジョナサン・ノット氏(東京交響楽団音楽監督)は、刻まれる音を「人生の時を刻む音のように思える」と語ったという。果たして作曲家が意図したものとは何なのか。
演奏が進むにつれ、ゼンマイが戻り終わったメトロノームから自然に振り子が止まっていく。1台、また1台と時を刻む音が止み、最後の1台が止まったところで演奏が終了。ホール内には深い静寂の瞬間が訪れることだろう。そしてその静寂のなか、次のプログラム(バッハ作品)へと移っていく。
100台のヤマハメトロノーム「MP-90」は、音楽ホールでどのような音響空間を生み出すのだろうか。そしてまた、すべての音が止まった時、その静寂のなかで、人はそれぞれに何を思い、感じるのだろうか。
私たちは鼓動や脈拍といったさまざまなリズムを刻みながら毎日を生きている。だからこそ、メトロノームによる「その日、その瞬間だけ」の音楽に身をまかせて、わが身に起こるさまざまな変化に思いを馳せることは、とても興味深い体験だ。もしかしたら、今よりもっとメトロノームに愛着がわいてくるかもしれない。
第635回 定期演奏会
日時:2015年11月22日(日)13:30開場/14:00開演
会場:サントリーホール
名曲全集第112回
日時:2015年11月23日(月・祝)13:30開場/14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
※「ポエム・サンフォニック ~100台のメトロノームのための」 は、開演前(開場時)から演奏が始まっています。
※リゲティ、J.S.バッハ、R.シュトラウスの3曲は続けて演奏されます。
定番の三角錐スタイルのデザインを継承し、スペースを十分に確保したボディデザインを追及した、豊かで深みのある響きのゼンマイ駆動による振り子式メトロノーム。