Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:大西順子さん「ライブでは、練習で考えたことも悩んだことも全部捨てて自分を解放しています」

今月の音遊人:大西順子さん「ライブでは、練習で考えたことも悩んだことも全部捨てて自分を解放しています」

2012年の突然の引退から3年の時を経て復帰、以来ライブツアーなどで精力的に全国をまわっているジャズピアニスト・大西順子さん。ジャズと出会ってから、一貫して追い続けてきた音や、20年を超えるキャリアの中で変わってきたという、音楽への向き合い方をうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

アート・テイタムの『Just One of Those Things』ですね。一番聴いているかどうか、もはや定かではありませんが、常に心の中にある曲です。ジャズに出会ったばかりの高校生の頃、近所のレコード店のジャズコーナーで「名盤!オススメ!」というポップを見て聴いてみようと思ったのがきっかけです。
私が当時習っていたクラシックの曲では、片手で10度の音階なんてそんなになかったんですけど、この曲はフルに出てくるんです。それに音もひずんでいて、自分でも弾いてみたい!と思ったのですが、どうやってあの音を出していいのかわからない。当時はYouTubeはもちろんビデオもありません。レコードがすり減らないようカセットテープに録音して、そのテープがすり切れるくらい聴いたけどそれでもわからない。絶頂期のラジオでの演奏なども残っていますが、「いったい何人で弾いているんだろう?」というくらい一人で演奏しているようには聴こえない曲なんです。
どうすればあんなふうに弾けるんだろうと探る中で、ジャズを教えてくれる学校がアメリカにあると知り、そこに行けば答えが見つかるんじゃないかと思い渡米しました。だからこの曲は、私にとって原点のような曲なんです。

Q2.大西さんにとって「音」や「音楽」とは?

若いときは音楽がないといられないくらいだったんですけど、今はなくても平気ですね。逆に「音楽をとめて」ということも。楽しみのために自分から音楽を聴くことはあまりないような気がします。
これまでに演奏しすぎたし、聴きすぎたんでしょうね。アート・テイタムの和音の出し方など、細かい部分までミクロで聴き込む作業をずっとやってきましたから。今は、街なかやテレビから聴こえてきた音を自然に受け止めようというスタンス。
以前、テレビの番組でオペラ歌手の女性が歌うヴェルディの『柳の歌』が耳に入ってきて、気になったことがあるんです。そんな風に偶然知った曲を、他のミュージシャンに「こんなメロディあるよ」って薦めることもあります。
今後また間違いなく、ミクロで聴き込むようになるとも思っているんですが、今は音楽へのこだわりは希薄で、正直、銀ちゃん(愛犬・銀次郎)のほうが大事かな(笑)。

今月の音遊人:大西順子さん「ライブでは、練習で考えたことも悩んだことも全部捨てて自分を解放しています」

愛犬の銀次郎と

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

達人になってくると、みんな遊んでいると思うんです。軽々と音楽を奏でている人たちは、みんな遊んでいるように見えます。
トータルに音で遊んでいるのは、デューク・エリントンかな。自身でも言われていますが、彼にとってオーケストラは楽器なんです。大きな編成でも小さなものでも、いろいろなことができる。何もかも使いこなせて、自由自在に遊べているんです。デューク・エリントンというと、日本ではビッグバンドのイメージが強いですが、実は宗教音楽からパーカッションだけのアルバムまで、ジャンルは幅広い。彼はさまざまな音を使って、音だけで表現できる。それが遊んでいるなぁと。
私もライブのときは、思いっきり自分を解放して遊ぶように楽しんでいます。若いときよりも今のほうが遊んでいますね。もちろん、お金をいただいて演奏するという立場を選んだので、その準備はしっかり頑張っていますよ。家で練習しているときはいろいろなことを考えて、できないことがあると落ち込んだりもします。ですが、ライブの時には、全部を一旦捨てて、心底楽しんでいます。もしライブにいらしてくださる機会があったら、そんな私も含めて見ていただけると嬉しいです。

大西順子〔おおにし・じゅんこ〕
1989年ボストンのバークリー音楽大学を卒業後、プロのジャズピアニストとしてニューヨークで活動をスタート。1993年『WOW』でデビュー。1994年には日本人として初めて自己のバンドでニューヨークの「ビレッジ・バンガード」に出演。以降、人気・実力ともに、日本のジャズシーンを牽引する。2012年に引退を宣言。2015年に復帰を果たし2016年、菊地成孔プロデュースにより『Tea Times』をリリース。
大西順子オフィシャルサイト http://junkoonishi.runinc.jp/

 

特集

亀井聖矢

今月の音遊人

今月の音遊人:亀井聖矢さん「音楽は感情を具現化したもの。だからこそ嘘をつけません」

3352views

トッレ・デル・ラーゴにある等身大のプッチーニ像

音楽ライターの眼

フィギュア・スケートの選手たちに愛されるプッチーニの『トゥーランドット』 vol.2

6565views

マーチングドラムの必須条件とは?

楽器探訪 Anothertake

マーチングドラムの必須条件とは?

11588views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

922views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5466views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

13504views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

14054views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3347views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8694views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

8242views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5513views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10466views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

9487views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13269views

音楽ライターの眼

“音の宝石箱”に魅せられて、瞬く間に時は過ぎた/松田華音 ピアノ・リサイタル

5449views

オトノ仕事人

リスナーとの絆を大切にする番組作り/クラシック専門のインターネットラジオを制作・発信する仕事

5762views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

5702views

楽器探訪 Anothertake

ピアニストの声となり歌い奏でる、コンサートグランドピアノ「CFX」の新モデル

5260views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

19748views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6946views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

16127views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5682views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31113views