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あらゆるトラブルに対応できる、優れたリペア技術者を世に送り出す/管楽器のリペア技術者を育てる仕事
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2022.1.7
tagged: オトノ仕事人, リペア技術者, ヤマハ管楽器テクニカルアカデミー
管楽器のリペア技術者とは、精密で壊れやすい管楽器の定期点検や不具合の修理、音色の調整などを行う技術者のこと。ヤマハが運営する職業訓練校として優れたリペア技術者を輩出する「ヤマハ管楽器テクニカルアカデミー」の講師である小出真衣さんは、日々、技術者を目指す生徒と向き合っている。
専門学校ならば2年で学ぶ内容を、1年の短期集中で習得する「ヤマハ管楽器テクニカルアカデミー」の毎日は、分刻みのスケジュールで進んでいく。授業は9時から16時までで、間に休憩を挟むが、休憩中も生徒が質問に来たり、生徒が修理した楽器のチェックをしたりするため、小出さんは息をつく暇もない。
「授業では実際の仕事の場を想定し、生徒たちには効率よく、精度の高いリペアを行う習慣を身に付けてもらいます。また、生徒の大半はまだ社会人経験がないため、挨拶や返事の仕方、報告・連絡・相談の徹底、相手に伝わる話し方など、社会人としての基礎も手取り足取り教えます。技術を教えることはもちろん大切ですが、多くの人に信頼される技術者を育てるためには、時間管理や礼儀作法についての指導も欠かせません」
小出さんがリペア技術の基礎を教えるのは、木管楽器のフルート・クラリネット・サクソフォン・ピッコロ・オーボエ・ファゴット、金管楽器のトランペット・トロンボーン・ホルンの9種。まず、基本技術である“やすり掛け”や、リペアに使う工具の作り方を教えたあと、木管楽器、金管楽器の順に授業を行う。
「木管楽器は、定期的に交換する部品(消耗品)の調整が難しく技術の習得に時間がかかるため、カリキュラムの早い段階で教えます。特にフルート、クラリネット、サクソフォンは演奏人口が多く、修理・調整の需要も高いため、時間をかけて技術を磨く必要があります」と小出さん。
アカデミーの楽器庫には、フルートだけで200本以上、計1,100本ほどの管楽器が常備されており、生徒たちは技術実習、自習で自由に使うことができる。
「楽器は新品、未使用品の状態のものもあるので、リペアをするためにあえて自分たちで楽器を凹ませたり動きを悪くしたりして、意図的に不具合を作っています。『リペアが必要な状態にするために、まず楽器を壊します』というと多くの方に驚かれますが、楽器を壊すことで、材質の特性や『どんなふうにすると壊れるか』がわかります。そしてそれが、お客様の楽器の不具合の原因を推察する技術にもつながるのです」
今は後進を指導する立場にあるが、「ヤマハ管楽器テクニカルアカデミー」の卒業生でもある小出さん。ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかったというが、壁にぶつかった経験があるからこそ、思うようにリペアできず悩んでしまう生徒の気持ちがよく理解できるという。
「今も昔も、アカデミーに入ると“やすり掛け”から習いますが、金属のこすれる音が苦手だった私は、『とんでもない道に足を踏み入れてしまった』と思ったのを覚えています(笑)。正直、アカデミーの成績もあまり良くはありませんでした。ですが、同じ志を持つ仲間と励ましあい、『続けることなら私にもできる』と目の前のことに必死に取り組んできた結果、今の私があります。生徒たちにも、苦しいときこそ、できることをコツコツと、継続していくことの大切さを伝えています」
また、全寮制をとっているアカデミーでは、講師は親代わりのようなもの。小出さんは、生徒の表情や言動に出るちょっとした変化、サインを見逃さず、気持ちを読み取ることを心掛けている。
「当たり前のことのようですが、厳しいカリキュラムをやり遂げるために、いちばん大切なのが体調管理です。毎日授業を始める前に、十分な睡眠がとれているか、きちんとご飯を食べているかなど、一人ひとりの生活態度や体調をチェックするようにしています。最適なリペアをするためにも健康が第一です」
講師になって7年目。リペア技術を教えるうえで最も難しいのは、人によって異なる「最適なリペアの状態」をすり合わせることだという。
「生徒がリペアした楽器を見せにきたときは、すぐに答えを言わず、『自分ではどう思う?』と問いかけるようにしています。生徒なりに試行錯誤したリペアを尊重し、講師と生徒のリペアの“質”と“感覚”のすり合わせを繰り返すことで、生徒の技術習得につなげていきます。この教え方は、この先もずっと変わらないと思います」
反対に、経験による“カン”と“コツ”を重視し、「技は見て学ぶもの」とされてきた価値観は変わりつつあるという。例えば、生徒一人ひとりにタブレットを貸し出し、“カン”や“コツ”とされてきた部分を数値に落とし込んだ資料を作って共有するなど、データ化・デジタル化を進める動きもあるそうだ。
「また、生徒が技術習得しやすいよう、ウェアラブルカメラ(撮影者の頭などに装着するカメラ)を使った“技術者目線”での動画の撮影もはじめました。この試みは、教室で作業の手本を見せるとき、机の周りにいる生徒は講師の手元を反対側から見ることになり、自分の手を動かすときのイメージがしにくいことを解消するものですが、生徒のニーズに合ったわかりやすい教え方を日々模索しています」
楽器を最良の状態に保ち、納得いく演奏をするために、そして大切な楽器を長く使うために、質の高いアフターサービスは欠かせないもの。優れた技術を持ったリペア技術者の存在は、今後ますます重要になっていくだろう。
「講師になって約7年の間に、100名を超える卒業生を送りだしました。多くの卒業生がリペア技術者として長く活躍してくれることが、何よりの喜びです。リペア技術者は、一生かけて技術を磨き続けなければならない厳しい仕事ですが、困っている奏者にとって、これほど心強い、頼りになる存在はありません。皆さんにいつも安心して演奏していただくためにも、リペア技術者を志す人が一人でも増えてくれたらと願っています」
【Web見学ツアー】見る!知る!分かる!ヤマハ管楽器テクニカルアカデミー
ヤマハが運営する管楽器修理技術者育成機関。当校修了後、全国のヤマハ特約店への就職を前提とした技術習得施設です。
オフィシャルサイトはこちら
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Q.子どもの頃の夢は?
A.警察官です。父が警察官で、地域の人たちのために働く姿を見て「格好いいな」と思っていました。今の仕事に就いていなかったら警察官になっていたでしょうね。リペア技術者にも通ずるところがありますが、やるべきことが明確な仕事は、責任が重いぶん、やりがいも大きいように思います。
Q.楽器の演奏経験は?
A.小学生のときは金管バンドでアルトホルン、中学・高校生のときは吹奏楽でトランペットを吹いていました。ずっとトランペットが吹きたかったので、自分の楽器を手にしたときはとても嬉しかったです。高校ではマーチングにも打ち込み、2年生の後半からは、吹奏楽をやりながら地元のジャズバンドでも活動していました。一時期、女性だけのビッグバンドで演奏していたこともあり、若いころはとにかくトランペットを吹くことが日常でしたね。
Q.好きな音楽は?
A.ジャズ系の曲が好きで、ビッグバンドだけではなく、ピアノとボーカルのしっとりとした曲を聴くことも好きです。これまでに数えきれないほど聴いているのは、ビリー・ジョエルの『New York State of Mind』です。
Q.休みの日の過ごし方は?
A.子どもたちが熱中しているバスケットボール、空手の活動に付きっ切りです。育ち盛りの男の子が家にいるとあらゆる物が壊れそうなので(笑)、できるだけ外へ連れ出します。自分自身のリフレッシュを兼ねて、家族でキャンプに行くことも多いです。
文/ 武田京子
photo/ 澤島宏明
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