Web音遊人(みゅーじん)

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.4

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.4

前稿で、ジャズの固定化につながると思われる学習指導要領について触れた。

固定化が進む状況であるということは、ジャズのハードルを下げるどころか、上げるための外堀がどんどん埋められていることを意味する。

となれば、本稿では「ジャズのハードルを下げる」ことを論じている場合ではなく、上がるハードルにどう対処すべきかを、受け容れることを含めて論じることが必要なのではないだろうか。

なるほど、「ジャズのハードルを下げる」という論点の設定自体が誤っていたから、ハードルが上がっていくことに抗えず、無為無策に終わっていたのかもしれない。

結果として「ハードルを下げる」ための方法論を考えてみると、2つの方向性があるところへたどり着いた。

端的に言ってしまえば、ジャズを作る側の目線が、受け容れ側からなのか、送り手側からなのか、ということだ。

この2つは、まったく逆の方向性であるにもかかわらず、お互いに干渉しやすいという、厄介な要素を内包している。

単純化してこの2つを比べてみたい。

まず、ここに身長170センチの“ジャズの初心者”がいて、その前に高さ200センチの“ジャズのハードル=壁”が存在しているとしよう。

この人にとってその壁は「よじ登れないことはないかもしれないけれど、かなり労力を要しそうな“難しい対象”」だと感じるに違いない。

この人の目線で「ハードルが下がった」と感じさせる方法のひとつは、200センチよりずっと低い“新たなハードル”に変えること。

これが、受け入れ側からの目線で考える方向性ということになる。

では、送り手側からの目線で考えるとどうなるのか。

もちろん、同じように新たに“低い”ハードルを用意するという選択もあるだろう。しかし、受け入れ側が「このハードルなら越えられる」と感じる高さとの差異をなんとかできれば、結果的には同じことになるはずだ。

ということは、例えば50センチの“踏み台”をハードルの前に置くことができれば、ジャズのハードルを下げずに、受け容れ側を“こっちの世界”へ連れてくることができる。

ハードル自体は変えずに、その高さを“下がった”と感じさせることこそが、ジャズがジャズである魅力を殺ぐことなく、より多くの人が共有できる方法論となるはずだから――。

では具体的に、50センチの“踏み台”とはなにかを考えてみたい。この部分が“絵に描いた餅”では、本稿も無為無策の愚論に過ぎなくなっちゃうからね。

以下、次回。

<続>

なぜジャズのハードルは下がらないのか?<全編>

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

岩崎宏美さん

今月の音遊人

今月の音遊人:岩崎宏美さん「中学生のころ、マイケル・ジャクソンと結婚したいと思っていたんですよ」

11329views

萩原麻未&ヴォーチェ弦楽四重奏団

音楽ライターの眼

不可思議な靄(もや)のなかを導かれるような時間/萩原麻未&ヴォーチェ弦楽四重奏団スペシャル・コンサート

4749views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカで音楽好きの子どもを育てる

14396views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

5300views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9959views

オトノ仕事人

音楽をやりたい子どもたちの力になりたい/地域音楽コーディネーターの仕事

9420views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8864views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6984views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

14199views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

11170views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6090views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26120views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

15649views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12101views

エリック・ホープリッチ&ロンドン・ハイドン弦楽四重奏団

音楽ライターの眼

その夜、バセット・クラリネットは“歌った”|エリック・ホープリッチ&ロンドン・ハイドン弦楽四重奏団~バセット・クラリネットで聴く、モーツァルト『クラリネット五重奏曲』

6766views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

9415views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:音楽は和!ひとつになったときの達成感がいい

5994views

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

楽器探訪 Anothertake

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

11737views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14871views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8626views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

3212views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10080views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30894views