今月の音遊人
今月の音遊人:渡辺香津美さん「ギターに対しては、いつも新鮮な気持ちでいたい 」
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ピアノの巨匠、リヒテルが東京・上野に甦る!?人工知能と人間が奏でるコンサートを開催
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2016.4.27
tagged: AI, リヒテル, ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル, 東京藝術大学奏楽堂, 音舞の調べ~超越する時間と空間~, Disklavier™, 人工知能
唯一無二の音色で世界を魅了し、20世紀末にこの世を去ったピアノの巨匠、スヴャトスラフ・リヒテル。世界的な名演奏家集団、ベルリンフィル・シャルーンアンサンブル(以下、シャルーンアンサンブル)。両者による共演は、間違いなく聴衆の心を激しく揺さぶるだろう。もっとも、リヒテルが時を超えて現代にやって来れば、の話だ。
タイムマシンは存在しないが、この歴史的演奏家と現代の名奏者の共演が、2016年5月19日(木)に東京藝術大学奏楽堂で開催される「音舞の調べ~超越する時間と空間~」で実現する。それを可能にしたのは人工知能だ。
囲碁トップ棋士を打ち負かしたり、クイズ番組で優勝したり。最近、何かと話題の人工知能だが、今回シャルーンアンサンブルと共演するのは、ヤマハが開発に取り組んでいる「人工知能演奏システム」。
「私もオーケストラ歴が40年ほどありベースをやっていますが、練習するときにピアノの演奏もあればいいなと思うことがあるんです。だからロボットが人間と一緒に音楽を奏でる世界は憧れであり、夢のひとつでもありました」人工知能の技術と今回の企画を結びつけた、研究開発統括部の田邑元一(たむらもといち)さんはそう話す。技術を開発した前澤陽(まえざわあきら)さんも、技術者であると同時にバイオリンの名手でもあり、音楽への造詣が深い。
今回の試みでは、リヒテルの生前のライブ演奏をもとに、忠実に演奏表現をデータ化した音源を使用。再生には、リヒテルが愛用したヤマハのコンサートグランドピアノの後継機種をベースにした、自動演奏機能搭載アコースティックピアノ「Disklavier™(ディスクラビア)」が使われる。激しいフォルテッシモや疾走するテンポ感など、リヒテル独特の演奏を高い精度で蘇らせるには最適な一台だという。
もちろん、再現を単に自動演奏するだけではない。注目すべきは、人間と人工知能が「対等に」共演することだ。
「人間同士のアンサンブルでは、奏者たちはお互いに相手を見て、音を聴きながら演奏を合わせますよね。それと同じように『人工知能演奏システム』は、アンサンブルの共演者である人間が演奏する『音』と『ジェスチャー』を認識して理解し、次の瞬間の演奏を予測します。これによって、テンポや音のタイミングを合わせて人間の演奏に歩み寄り、協調した自動演奏を行うことができるんです」(田邑さん)
同時に、ピアニストの動きを映像で伝える機能も備えており、人間は演奏音だけでなく、そのジェスチャー見て合わせることが可能。人工知能と人間による息の合ったアンサンブルが展開される。
ご存知のように、アンサンブルはひとりでもメンバーが変わると音楽性は変化する。そのため、今回シャルーンアンサンブルと共演することで、元にしたリヒテルの演奏とは異なる新しい音楽が生み出されることになる。
「公演に先立ってベルリンでリハーサルが行われましたが、シャルーンアンサンブルのメンバーはチャレンジングなこの試みを非常に面白がり、東京での『リヒテルとの再会』を心待ちにしているそうです。新しいことに挑戦するときには、新しいことをしたいと思っている人とやることが重要なんだと実感しました」と田邑さん。
「演奏するのは、シューベルトのピアノ五重奏曲『鱒』の第4楽章と第5楽章。人間同士が行っている高度なアンサンブルをシステムの機能を駆使してさりげなくステージ上で実現していますが、今回の演奏を単に新しい試みの実験の場にはしたくないんです。私たちが目指しているのは、人工知能のことはいっさい忘れて、唯一無二の音楽を純粋に楽しんでいただくこと。20世紀を代表するピアノの巨匠と世界最高峰のオーケストラのメンバーが息を合わせて共演するわけですから、これの演奏会の価値はすごいものだと思います」(田邑さん)
新しい音楽を生み出し、未来の演奏会のあり方に影響を与えるほど大きな意味を持つ今回の共演。人工知能と人間が協調し、対等に音楽を奏でる時代の幕開けに胸が踊る。
※「人工知能演奏システム」についてはこちらでもご紹介しています。
日時:2016年5月19日(木)19:00開演(18:00開場、 18:15~ プレトーク)
会場:東京藝術大学奏楽堂(大学構内コンサートホール)
入場料:5,000円(全席指定、税込)
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