Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:亀田誠治さん「音楽は『人と人をつなぐ魔法』。いまこそ、その力が発揮されるべきだと思います」

音楽プロデューサー、ベーシストとして数えきれないほどのヒット曲にその名を連ねる亀田誠治さん。その原点にある曲や、音楽の魅力についてお聞きしました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

ビートルズの『ハロー・グッドバイ』です。アルバム『マジカル・ミステリー・ツアー』に入っていますが、僕は小学校2年生のときに買ってきたベスト盤(青盤)で初めて聴きました。そのときのことはいまでも鮮明に覚えています。僕は部屋に置いてあった母親のクラシックギターを手に取って、なぜかベースラインを真似し始めたんです。まだベースという楽器も、ポール・マッカートニーが弾いているのかも認識していないのに。だから、ベーシスト・亀田誠治を生むきっかけとなった曲だといえますね。「ハロー」と「グッバイ」とか「イエス」と「ノー」とか、小学生でもわかる簡単な言葉に深いメッセージを込める表現方法は、僕が考えるロックやポップスの基本形となりましたし、イントロがなかったり、最後に民族音楽っぽい展開になったりするところなどは、音楽は自由なんだということを教えてくれました。バンドサウンドの中にビオラが出てくるところも大好きです。いまでもこの曲を聴くと安心するし、ふとした瞬間に聴きたくなる。自分がいま立っている場所を確かめたり、原点を見つめ直すために頭の中で流したり、この曲の影響は計り知れません。僕にとってのバイブルであり、人生のテーマソングともいえる曲ですね。

Q2.亀田さんにとって「音」や「音楽」とは?

「人と人をつなぐ魔法」だと思います。ライブで同じ空気を共有するときはもちろん、ラジオで聴いていても、違う場所にいるみんなの気持ちをひとつにしてくれますよね。人の感情を高ぶらせてくれたり、落ち着かせてくれたり、記憶を蘇らせてくれたり。本当に魔法だなぁ、と思います。コロナ禍において、「いまこそ音楽が必要だ」という想いを日に日に強くしています。時代の空気に不寛容さや不確かさを感じたり、誰もが“もやっ”とする気持ちを抱いていたり、誰かを疑っていたり……。自分に確信が持てないこともあると思う。こんな時代だからこそ、音楽による調和が求められているし、音楽が持つ包容力や人と人をつなぐ力が発揮されるのではないでしょうか。僕は東京の日比谷公園をまるごと会場にした「日比谷音楽祭」というイベントを2019年から毎年開催しているのですが、まさにそんな音楽の力を実感しています。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

それは……僕自身です(笑)。本当に僕は、文字通り音で遊んでいます。よく人から「音楽を仕事にして嫌になったことはありませんか?」など聞かれますけど、そんなことは全くありません。スタジオに入ってみんなで「せーの」と音を出す瞬間は最高だし、最近はデータのやりとりで音楽を作ることも多くなりましたが、そんなときも「どんな音源が送られてくるだろう?」とワクワクしますし。カッコいいフレーズや気持ちいい音に囲まれていると、楽しくてしょうがないんですよ。東京事変のメンバーからは「亀田さんが最年長なのに、いちばん子どもっぽい」とよく言われるのですが、音楽が鳴っているとき、音を出しているとき、ミュージシャンとして人と接しているとき、僕はひたすら無邪気になれるんです。あと「類は友を呼ぶ」ではないけれど、僕の周りにいるミュージシャンもみんな「音遊人」だと思います。コロナ禍では「おうち時間」が増えて、ひとりで静かに音楽を作る時間をたくさん持つことができました。まるで学生時代に戻ったかのように宅録気分でいろいろ音を重ねたりしていると、新しい発見がたくさんありますね。僕はプロミュージシャンになってから30年以上経ちますけど、本当に、音楽に飽きたことがない。音楽は僕の天職なんです。もし生まれ変わったとしても絶対ミュージシャンになりますよ!

亀田誠治〔かめだ・せいじ〕
1964年生まれ。音楽プロデューサー、ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、Little Glee Monster、山本彩、Creepy Nuts、石川さゆり、MISIA、Novelbright、アイナ・ジ・エンドなど数多くのアーティストのサウンドプロデュース、アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。2005年、Bank Bandにベーシストとして参加。2007年第49回、2015年第57回日本レコード大賞、編曲賞を受賞。2013年にはシグネチャーモデルとなるベース「BB2024カメダ・エディション」をヤマハと共同開発。2021年には映画「糸」にて日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。
2019年から開催されている親子孫三世代が様々な音楽体験ができるフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務めている。2021年は5月29日(土)、30日(日)にオンラインで開催する。
オフィシャルサイトはこちら

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:今井美樹さん「私にとって音楽は、“聴く”というより“浴びる”もの」

6739views

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.4

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.4

3589views

豊かで自然な音と響きを再現するサイレントバイオリン「YSV104」

楽器探訪 Anothertake

アコースティックの豊かで自然な音色に極限まで迫る、サイレントバイオリン™「YSV104」

12224views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

113619views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

4769views

誰でも自由に叩けて、皆と一緒に楽しめるのがドラムサークルの良さ/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

オトノ仕事人

リズムに乗せ人々を笑顔に導く/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

7081views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10780views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10080views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31416views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:音楽は和!ひとつになったときの達成感がいい

5994views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6267views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30894views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8564views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22909views

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 交響曲第5番≪宗教改革≫ イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)パブロ・エラス=カサド(指揮)、フライブルク・バロック・オーケストラ

音楽ライターの眼

新メンデルスゾーン全集に根差した迫力に満ちた「宗教改革」と、研究を重ねた味わい深いヴァイオリン協奏曲

6441views

オトノ仕事人

ピアノを通じて人と人とがつながる場所をコーディネートする/LovePianoプロジェクト運営の仕事

18338views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

7323views

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

楽器探訪 Anothertake

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

11737views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

8592views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4688views

楽器のあれこれQ&A

きっとためになる!サクソフォンの基礎力と表現力をアップする練習のコツ

19355views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11018views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30894views