今月の音遊人
今月の音遊人:川口千里さん「音楽があるから、ドラムをやっているから、たくさんの人に出会うことができて、積極的になれる」
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ジャズを専門とするライターを名乗っていると、「初心者にもわかるように」という依頼を受けることが少なくない。特に、ラジオやテレビへの出演や講演のオファーでは、そうした趣旨であることを前提に企画を立て、選曲をすることがほとんどだったりする。
これは、ジャズという音楽ジャンルの人気が衰えることなく、「聴いてみたい」と思う“初心者”が後を絶たない“事実”がなければ成り立たないのだけれど、その波及効果として、ライター風情にまで助けを借りなければその世界へ導き入れることが困難であるという阻害要因を内包するほどの“こじらせ方”が本当に必要なのかという所感がありながら、一向に解消される気配を見せない異常な状況をなんともできないライターとしての自分が間違っているのではないかという疑念を払拭しなくていいのか--との職業倫理に突き動かされるという“動機”も大いに影響している(はずだ)。
端的に言えば、「ジャズは難しい」→「だから解説(ガイド)が必要だ」という帰納的な側面をもって、この状況を処理したつもりになりたいところなのだけれど、残念ながらこの論法には2つの大きな欠点がある。
それは、「ジャズは難しい音楽なのに人気が衰えない」ことと、「難しいジャズを解説(ガイド)するネタが腐るほど提示されているのに解消される気配がない」ことだ。
人間が難しいものに興味をもつのは、珍しいことではない。しかし、それがポピュラリティを得るかどうかとなれば、話は変わる。
親しみやすいメロディや曲構成に腐心する“過酷なポピュラー音楽”業界が厳然と存在する現状があるにもかかわらず、逆行する“難解なジャズ”が(ポピュラー音楽と同等の、とは言わないまでもそれ相応の)支持を得るという状況は、理論的には“あってはならないこと”と言われても仕方がないわけである。
この問題を解決してしまうと、いちばん困るのは“波及効果の恩恵”を最も受けているはずのライター、すなわち自分であるという不安を感じないわけではないのだけれど、とりあえず論を進めてみたい。
<続>
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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